悪性度の高い前立腺がんをわずか9分で診断する新たな検査法 近畿大研究チームが開発

 患者への負担が少ない血液検査で、前立腺がんの有無だけでなく、積極的な治療が必要な悪性度の高いがんかどうかを診断できる手法を開発したと日本の研究チームが発表した。現在はがんの有無を確認したあと、進行度や悪性度を調べるため生検を行うのが一般的であるため、患者への負担が大きい前立腺がんの診断のあり方を一変させる可能性がある。

患者負担の大きい生検を回避できる可能性

 成果を発表したのは近畿大学医学部 泌尿器科学教室の藤田 和利准教授、大阪大学大学院医学系研究科からなる研究チーム。前立腺がんは近年の高齢化とともに発症数が増加し、国内では男性で最も多いがんと言われており、年間約9万1千人が発症しているといわれる。前立腺がんの診療では、悪性度の低いがんに対しては、がんと診断されても治療を行わずに経過観察をすることがある一方で、悪性度が高い場合、転移がなければ手術(ロボット支援前立腺全摘除術)や放射線治療、転移があればホルモン療法などが選択される。したがって治療方法を決める際には、進行度だけでなく、この悪性度を正しく診断することが非常に重要となる。しかし、現在広く行われているPSA検査(※1)は悪性度と関連がなく、悪性度の低い治療不要な人まで異常値を示すことから、その後患者にとって負担の大きい生検を必要とする場合があり問題となっている。

 研究チームではこの課題を克服するため、新たに「血中コア型フコシル化PSA」 を測定することで、悪性度の高さも測定できる血液検査方法を開発した。従来のPSA検査よりも検査能力は高く、高悪性度前立腺がんの90%を検出することができ、不要な前立腺生検を36%回避することができたという。しかも従来の検査では1時間を要していたものを9分に短縮することに成功している。

 研究チームでは、この検査を従来のPSA検査とともに行うことにより、悪性度の前立腺がんを、患者負担の大きな生検の必要なしに効率的に発見できるとしている。現在、近畿大学病院で臨床試験を開始すべく準備を進めているという。

 なおこの研究成果は論文としてがんの臨床研究を主に掲載する医学雑誌「International Journal of Cancer」にオンライン掲載されている。

※1 PSA検査
血液中にある前立腺に特異的なタンパク質の一種「PSA」の値を測定するもので、PSAの値が高くなるにつれ、前立腺がんである確率も高くなる。しかしがんの進行度や悪性度を推定することはできず、また前立腺肥大症や前立腺炎でも高値になることがあるため、基準値以上の値が出た場合専門医を受診しより詳細な検査(生検)を受ける必要がある。

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