<隠れた名盤>柴田淳『蓮の花がひらく時』垣間見える死生観

 女性シンガーソングライターの通算13作目のオリジナルアルバム。本作は本人も自信作と言うほど変化に富んでいる。

 全10曲、松浦晃久、森俊之、冨田恵一、山本隆二と4人が編曲したことも、その多彩な仕上がりの要因だろう。フラれたことで孤独の闇に苦しむ『はじまりはじまり』は、まるでホラー映画のように演奏が激しいし、『ハイウェイ』は、ボサノバ風のリズムや多重コーラスが、失恋の事実をあえて曖昧にする。また、意表をついてばかりでもなく、相手の幸せを願う『紫とピンク』のような初期テイストの穏やかなものも何曲かある。

 その中で、6曲目の『私が居てもいい世界』から8曲目の『珈琲の中』あたりは、歌詞の変化が大きい。失望のあまり夢うつつとなった『私が居てもいい世界』、ビッグバンド風の演奏が(現実とは程遠い)華美な世界を演出する『シャンデリアの下で』、とどかぬ想いをどこかメルヘンチックに歌う点が逆にコワい『珈琲の中』と、これまで以上に彼女の死生観が垣間見える気がした。それがタイトルの“蓮の花”に繋がるのだろうか。

 そして、恋の終わりを見据えた上で前に進む様子を歌った『可愛いあなた』と『エンディング』がラストを飾る。特に『エンディング』での出会えたことへの喜びや感謝を丁寧に歌う声に、柴田淳がアーティストとしてステップしたと実感した。

 初回盤には、多彩なアレンジの分かる全10曲のインスト盤も収録。誰かを失った際、その直後であれ、数日後であれ、どの過程においても、本作がそっと寄り添ってくれるはず。

(ビクター・SHM-CD+CD初回盤LPジャケット仕様 4200円+税)=臼井孝

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