三木康一郎(監督)×竹財輝之助(木島理生 役)×猪塚健太(久住春彦 役) - 『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~』ファンの方に動かされてここまで来た奇跡のような作品

劇場版では凄く悩みながらやっていました

――映画を観させていただきましたが凄く面白くて。

猪塚:

良かったです!

三木:

本当ですか。男性だとそんなに面白いかな(笑)。

――普通に恋愛映画として見ても面白かったですよ。ベットシーンなんかもエロいなと思いながら見ていました。

竹財:

男性からもそう言ってもらえるのは、尚更嬉しいですね。

――「ポルノグラファー」は今回の映画で3作目となったわけですが、改めて作品を振り返っての今のお気持ちを伺えますか。原作を最初読まれた際の印象なども良ければお願いします。

猪塚:

「ポルノグラファー」で初めてBL作品に触れました。男同士というだけでなにも変わらない、恋愛の物語なんだなと思いました。なので、撮影でもそんなに構えることもなく臨みました。

竹財:

今まであまり読んだことのない漫画のタイプだなと感じました。原作は漫画ですが文学的で、読み手に委ねる余白のある作品でした。僕はそういう作品が凄い好きなので、これを実際に役者が話したらどうなるんだろうというワクワクがありましたね。

――BL作品を映像化するという事を三木監督は最初どのように感じられましたか。

三木:

今 BL作品は凄い市民権があるジャンルですが「ポルノグラファー」をやり始めたころはまだ市民権がなかったので、最初にお話しをいただいたときは「BLのドラマをやるの」って思いました。今思い返してもよくやったなって(笑)。この二人もよくやってくれたと思っています。

――BLという題材もチャレンジングな部分ですが、先ほども竹財さんがおっしゃっていた通り行間のある作品で、私も作品を観させていただいて表情や仕草でキャラクターの心情を見せるシーンが多いなとも感じました。そこは演じられる役者のみなさんの演技力が試される部分だと思いますが、どのように役作り・演技構成をされたのでしょうか。

猪塚:

僕はドラマの時と今回の映画では全然役作りが違っていたんです。ドラマの時は純粋な大学生の(久住)春彦が謎に満ちた木島(理生)に振り回されるのに身を任せていたのが大きかったので、そういう意味ではドラマではあまり何も考えずに木島がやろうとしていることに反応しようという感じでした。

竹財:

僕が最初に一番引っ掛かったのは、木島が凄くいい声・声が特徴的という部分でした。この特徴をどう表現しようかと考えた時に、まずは外見から入って木島という役を自分の中で固めて雰囲気をまとってしゃべるしかないなと思ったんです。役作りに際して三木監督ともお話しした中で「湿度は感じるけど、温度は感じないセリフです。」というイメージを持たれていると伺ったので、棒読みになっても感情を入れずに湿度を感じるように演じました。外見は特に気にして原作に寄せるのもそうなんですけど、爪の先まで意識したかったので爪を磨いてみたりもしました。

三木:

してたね。爪ピカピカだった。

竹財:

監督には「気持ち悪い」言われたんですけど(笑)。細かいディテールから意識しようと思っていたので、最初は大変でしたね。特に木島は振り回す側でもありますから、ディテール含め細かいことを色々やっていましたね。

――「湿度を感じるけど、温度を感じない」という事をお話しされたという事ですけど、その意図を具体的にお伺いできますか。

三木:

特に「ポルノグラファー」の時の木島は春彦にとって得体のしれない人物という事が重要だったので、何を考えているか分からないちょっと人間から逸脱した人であってほしいという事でそう言ったんだと思います。でも、まさか『劇場版ポルノグラファー~プレイバック~(以下、プレイバック)』で木島が振り回される側になるとは思ってもいませんでした。感情の変化が出るという事は木島を普通の人間にしなくちゃいけないので、劇場版では凄く悩みながらやっていました。

――確かに木島は今まで謎の男でしたからね。

三木:

そう、ホラーで言うとお化けみたいなものなんです。

猪塚:

今回は丁寧にお化けの気持ちを描いたと。

三木:

そういうことだね。言葉にしてみるとよく解んない表現になるけど(笑)。

――実際に演じられた竹財さんは如何でしたか。

竹財:

今回の映画は特に小細工をせずに演じることが出来ました。春彦が言ってくれるセリフにちゃんと反応する、ちゃんと普通に感情を出すという事を意識しました。『プレイバック』では今まで分からなかった木島の家族構成やその中での立ち位置が描かれていたので、ちゃんと反応できるようにフラットに居ようと思って演じました。基本的な部分の役作りは今までのシリーズで培ってきたものがあるので、それをもって現場に行った感じです。

兎に角、綺麗に撮ろうと意識しました

――「ポルノグラファー」は口述筆記で官能小説を書かせるという特殊性癖を描いていて観ている側としては面白い設定ですが、お二人は実際にそれを演じてみて如何でしたか。私は普通の濡れ場よりも恥ずかしいような気がしているのですが。

猪塚:

そこが「ポルノグラファー」の一番の魅力だと思っているので、羞恥心とかは全くなかったです。その設定が面白いと思って原作も読んでいました。

三木:

最初の「ポルノグラファー」撮影初日の最後がトイレでいきっているシーンですからね。

猪塚:

女性が観ている事も考えないといけないので、トイレシーンの時はどんな顔すればいいんだろうと凄い考えてしまいました(笑)。口述筆記部分は撮影を楽しめたくらいです。

――それはなかなか難しい演技ですね(笑)。そういう意味でも全部をさらけ出さないといけないわけなんですね。

三木:

口でもなんかしてましたからね。

猪塚:

しっかり臨場感が画に出るように工夫してました。

三木:

自分で指を置いて舐めて音を出していて、凄い上手いんです。だから、羞恥心はまるでないという事です。

猪塚:

努力の賜物です(笑)。

竹財:

感覚はおかしくなってましたね。2・3回やっているとつまらなくなってきたので、アレンジも加えてました。

――濡れ場は打ち合わせされたりしてるんですか。

竹財:

ある程度の流れだけですね。

猪塚:

そうですね。殺陣と一緒なので。

三木:

映像としてみると綺麗になることを意識したポーズをとってもらいました。

――確かに、画として綺麗に魅せるという意識が必要になりますから大変ですね。

猪塚:

そういう意味ではドラマの時も含めて監督が絶対に綺麗に撮ってくださっているので、安心して身を任せさせていただいたた部分はありますね。

――実際に「ポルノグラファー」は、ベッドシーンだけでなく全体を通して画が綺麗なんです。その画作りを三木監督はどのようなことを意識されて撮られたのでしょうか。

三木:

兎に角、綺麗に撮ろうと意識しました。「ポルノグラファー」をやり始めたときにBL作品をいくつか観たんですけど、ちゃんと撮っていない作品が多かったんです。だから、濡れ場も含めて綺麗に美しくなるようにしっかり手を込めた作品にしたいと考えました。

――竹財さんも先ほどおっしゃられていましたが「ポルノグラファー」は行間を含めて美しい作品なので、演技のコダワリも含めて画作りを丁寧にしていただけていて、漫画がそのまま映像になったなと感じました。この作品に限らず漫画は画があるので映像化することは難しいと思いますが、実際にこの作品ならではのやられたことはありますか。

三木:

漫画に近づけるように竹財くんは爪の手入れだけじゃなくて、下の毛も剃っているんです。剃った方がきれいだねという事になって、そうしてもらいました。

竹財:

「インディゴの気分」の時に木島の自慰のシーンがあるんですけど、そこは好きな人のために開発するという凄い大事なシーンなので、他に目が行くようだと違うシーンになってしまうと思い整えました。実際に画を観たときにやっぱりこっちの方が綺麗だなと思ったので今回も剃っています。

感情の爆発は原作よりも強く表現されていると思います

――木島も春彦もめんどうくさい性格ではありますけど、それぞれに演じられたキャラクターについて思われていることがあれば伺えますか。

猪塚:

春彦は本当に純粋でまじめで一途なんです。だから時に感情の収集が着かなくなってしまう。

――「ポルノグラファー」の中では特に感情の起伏が大きいキャラクターですね。

猪塚:

そうですね。でも、ここまで感情が爆発して理生に対してぶつけたのは、映画が初めてでしたね。その感情の爆発は原作よりも強く表現されていると思います。思いきりぶつけ合って、思いきりすれ違って、最後に結ばれる。三部作の完結という事で、感情表現・恋愛表現の度合いは『プレイバック』がもっとも強く描かれていると思います。

――三部作の完結編という事を強く感じる映画になっていました。竹財さんから観た木島はどうですか。

竹財:

木島は凄く弱い人間だと思います。弱いがゆえプライドを高くして色々と身に着けて自分を守っている。それを春彦に一枚一枚剥がされていくんですけど、剥がれるたびに「なんだよ」と突き放してしまう。一言で言うと天邪鬼ですね。そういう所が女性っぽいのかなとも思います。気の強い女性が本当は弱いという事が多い気がするんですけど、それに似ているかなと思います。

――その二人が全力でぶつかっていくのが作品の魅力ですから。そうやって全てをむき出しにして、ぐちゃぐちゃになってしまう部分がラブストーリーの面白い部分だと感じています。皆さんは本当に濃いラブストーリーを長く作られてきたわけですが、ラブストーリーの魅力は何だと思いますか。

竹財:

僕が引かれるのはギリギリのところでくっつくとかくっつかないとかそういう感情の起伏、波長が合わないところ、ちょっとしたずれで起こることの連続が恋愛ものの醍醐味かなと思っています。今は携帯があるのですれ違いを描くのは難しいですけど、『プレイバック』ではその感情のズレが上手く描けていると思います。

猪塚:

僕はシンプルに恋愛の話というのは面白いものだと思っています。現実の恋バナもたくさんのドラマがあって面白いから作品としても描かれるし、観ても面白いんだと思います。例えばドラマの場合、視聴者の方は俯瞰的にみれるので、「何でこうしないんだろう」だったり、共感してキャラクターに寄り添うこともできますからね。そこが面白いし、それはいつの時代も変わらないんだと思います。

――今回はいままですれ違ってきた二人が答えを出す形ですが、そこを見届けることができたのも嬉しかったです。

猪塚:

ありがとうございます。

――『プレイバック』で三部作が完結したわけですが、改めて「ポルノグラファー」という作品についての思いを伺えますか。

竹財:

本当にファンの方に動かされてここまで来た奇跡のような作品だと思っています。まさかここまで来れるとは思っていませんでした。そのファンの熱意にこたえて作られたのもそうですし、映画化できるということに今もびっくりしています。何より役者として2年以上同じ作品に関わらせてもらえるというのはなかなかないことなので、それも感慨深いです。僕にとって凄く大事な作品になりました。

猪塚:

「ポルノグラファー」三部作をやっていくなかで、役としても役者としても成長できた作品だと思っています。応援してくださる皆さまの力を借りてここまで大きくなれた作品なので、良かったら最後までお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

三木:

やっぱり映画にすると何かが変わるので、最後の最後で映画に出来たのは良かったなという風に思っています。完結編の『プレイバック』も含め改めて「ポルノグラファー」を楽しんでいただければと思います。

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