【阪急杯】ブルーショットガンVは「僕が一番びっくりした」 松永幹夫騎手が一度は諦めた1400勝

低評価を覆したブルーショットガン

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2006年阪急杯】

ほんの数週間前のことです。調教タイムを聞くため、我々のいるスタンドの4階へと足を運んできた西浦勝一調教師から「何十年と見てきたトレセンの風景もあと少しで見ることはなくなるんだなあ」と。“しみじみ”という表現がぴったりの口調でした。

西浦調教師だけでなく、今年は多くの調教師が栗東トレセンを後にし、関西では「一つの時代が終わる」とまで言われているほど。以前から決まっていたこととはいえ、寂しい限りですね。

本来、多くのファンに見守られて送り出されるところですが、今年はコロナ禍のためにひっそりとした幕引き。これが寂しさを増幅させている感じもしますが、当事者の西浦調教師は「自分たちのことはいいんだ。こんなご時世だもの。いずれは“そんなこともあったよね”と現在の状況を振り返る日が来るだろうし、元の状態に戻ったところで自分もトレセンに顔を出すことができたら…と思っている。“あのときの競馬関係者は本当に頑張った。コロナに負けず、開催も止まらなかったもの”と言いながらね」と。心に染みましたね。

ラストウイークの今週末。引退される調教師の方々の馬が一頭でも活躍されることを願って声援を送りたいと思います!

もちろん、2月の最終週は引退絡みの話で。

この時期、必ずと言っていいほど話題に上がる2006年の阪急杯。松永幹夫騎手が現役を引退し、調教師へと転身するラストウイークで重賞制覇を果たしたレースですね。勝ったブルーショットガンは11番人気の低評価で、誰も勝てるとは思っていませんでした。もちろん、僕もそうです。

後日、この件について本人に話を聞いてみる機会があったのですが、当事者である松永幹調教師も勝てるとは思っていなかったみたい(苦笑)。そりゃあ、馬券も当たらないわけです。しかも、このラストウイーク。どうしても阪急杯のほうがメインになりがちですが、この週の松永幹騎手が期待していたのは阪急杯優勝ではなく、JRA通算1400勝のほうだったとか。

「最初は無理かなと思っていたんです。でも、日曜朝の段階で1400勝まであと2勝になった。最終レースのフィールドルージュで達成するんですけど、これは力が抜けている馬で“勝てる”と計算していた。実はこのほかに勝てそうな馬がもう1頭いたんですよ。それを勝てればギリギリで届くかな…なんて考えていましたから。なのに2着に負けちゃった。で、一度はあきらめたんですよね。それがあっての阪急杯。誰がびっくりしたって僕が一番びっくりしましたね。しかも、展開に恵まれたレースではなく、勝負どころを引っ張り切りで上がっていくような強い競馬。それまでに乗っていた感触、それ以降の成績とかを考えたとき、あそこで走った理由は現在もわからないんですけど、あの阪急杯があってこその1400勝なのも事実です。本当に競馬の神様がいたのかもしれません」

この日は不良馬場だったんですが、前々走の淀短距離Sは同じ不良馬場で8着惨敗。これが勝因でもないんでしょうし、その理由は謎のまま。でも、それでいいんじゃないでしょうか。

ちなみに「競馬の神様が降りてきた」というフレーズは阪急杯の勝利インタビューで同騎手が口にしたフレーズです。10年以上の月日がたっても、あの瞬間は特別なものなんでしょうね。

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