長崎・中村知事 県政の展望<3> 九州新幹線長崎ルート やはり並行在来線問題

九州新幹線長崎ルート

 2004年12月8日、佐賀県鹿島市議会の議場。市長(当時)の桑原允彦(まさひこ)は悲壮な覚悟を胸に壇上に立っていた。
 「知事が約束をほごにされるならば重大な決断をしなければならない」
 当時の佐賀県知事は古川康。この6日前、長崎県知事(同)の金子原二郎は九州新幹線長崎ルートの建設を巡り「長崎県が佐賀県の負担軽減のため応分の負担をすることを積極的に検討したい」と県議会で述べた。着工の条件となる並行在来線(肥前山口-諫早)のJR九州からの経営分離に、古川が同意できるよう環境を整える意図があったとみられる。だが鹿島市など沿線7市町は地域の衰退につながるとして経営分離に反発していた。
 桑原の「重大な決断」は、沿線市町の了解なく古川が同意すれば、結果責任を取る形で市長職を辞することを示唆していた。翌9日、古川は経営分離受け入れを表明しながら「着工には沿線市町の同意が必要」と条件を付け、「延長戦」(桑原)となった。
 あれから16年の歳月が流れた。この間、同ルート開業後、JR九州が博多-肥前鹿島の特急本数を減らしつつも、並行在来線を一定期間運行するといった政治決着が図られた。経営分離に当たらず沿線市町の同意は必要ないとして着工。国土交通省は在来線と新幹線区間を乗り入れる軌間可変電車(フリーゲージトレイン)を同ルートに導入予定だったが、技術開発のめどが立たず断念。来年秋には武雄温泉-長崎をフル規格で部分開業するが、未着工区間の新鳥栖-武雄温泉の整備方式を決める同省と佐賀県の協議は遅々として進まない。
 長崎県やJR九州は未着工区間もフル規格を要望するが、佐賀県知事の山口祥義(よしのり)は財政負担増や、新たに生じる同区間の並行在来線の在り方など複合的な課題があるとして「求めていない」との立場を崩さない。

JR長崎駅では新幹線ホームの整備が着々と進んでいる

 現在75歳の桑原は「新幹線のような大型事業には必ず光と影があるが、影の部分に心を砕くことなく無理に推し進めてきた結果、今がある」と手厳しい。こうした意見は佐賀県内で少なくなく、山口の強気の姿勢を支える大きな要因になっているとみられる。
 長崎県側が注視するのも16年前と同様、やはり並行在来線の取り扱い、つまりはJR九州の対応だ。新鳥栖-武雄温泉は博多と佐世保を結ぶ特急も走り、在来線の経営分離は長崎県にとっても人ごとではない。同社による営業継続を望むが、「フル規格での整備にめどを付けるのが先」と主張する同社とかみあわない。並行在来線をフル規格容認の条件としたくない佐賀県との“共闘”もかなわず、長崎県は打開の糸口を模索し続けている。(文中敬称略)


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