長崎・中村知事 県政の展望<5> 新型コロナ対策 後方支援病院 確保急ぐ

クラスター発生後、感染症対策を強化した長崎北徳洲会病院=長崎市滑石1丁目

 新型コロナウイルス感染症の「第3波」が長崎県内にも押し寄せていた昨年12月29日。長崎市の長崎北徳洲会病院は揺れていた。前日から倦怠(けんたい)感を訴えていた職員1人が陽性に。接触が疑われる入院患者14人、職員42人を検査すると、入院患者1人も感染していた。
 翌30日から外来診療と新規の入退院を停止。対象を広げた検査で断続的に陽性者が出た。同日の検査で4人判明し、クラスター(感染者集団)と認定された。1月25日までに職員9人、入院患者10人が感染。外来は1月12日に一部再開したが、感染者と接触があった職員の勤務を制限したため人繰りにも苦労。収束宣言までに1カ月半かかった。
 クラスター発生後、長崎大学病院などから感染制御の専門医らが派遣された。感染者がいる区域と別の区域を分ける「ゾーニング」や、職員用休憩室の改善、患者を病棟間で移動させないこと-などを指摘された。院長の鬼塚正成は「入院患者は感染判明後、個室隔離したが、それまでは認知症のある患者がマスク着用を守れず、院内を徘徊(はいかい)することもあった。休憩室が狭く、濃厚接触となる環境だった」という。
 第3波で県内では32件のクラスターが発生。うち6件が医療機関で30人超が感染した病院もあった。このほか、救急医療を担う複数の病院でも感染者が出て専用病床は逼迫(ひっぱく)。1月中旬、長崎市を中心とする長崎医療圏は専用病床の約9割が埋まった。陰性に転じた後も持病の治療やリハビリなどで入院継続の必要がある高齢者の感染が増えたことも影響した。
 県は再び大きな波が襲った場合に備え、感染ピーク時も病床が逼迫しない体制づくりを急ぐ。退院基準の明確化と、基準を満たした患者を受け入れる後方支援医療機関のリスト作成を進める。ゾーニングなど対策を強化してきた長崎北徳洲会病院も5床程度を確保。院長の鬼塚は「不安はあるが、クラスターの際、長崎大学病院を中心とした4病院と長崎医療センター、行政に助けてもらった。その恩返しをしたい」と話す。
 県医師会が県内の219有床診療所と149病院に実施したアンケートでは、退院基準を満たした患者の受け入れ可能病床数は計366床。ただ、県医師会長の森崎正幸は「2、3人の部屋を個室にしないといけないのでベッド数の削減による補塡(ほてん)や、受け入れのための人手も必要になる。国の診療報酬引き上げでは十分ではなく、民間病院にはハードルが高い」と指摘。転院を受け入れる長崎医療圏の医療機関に、長崎、西海両市と西彼長与、時津両町が協力して支給する支援金のような補助の必要性を強調する。
 2月19日、県庁であったコロナ関連の会見で、支援金を県内全域に広げる考えを問われた県福祉保健部長の中田勝己は「受け入れる医療機関が安心して体制をつくれるよう取り組みたい」と述べるにとどめた。(文中敬称略)


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