悩んだ末に代表引退、東京五輪は新しい力を ホッケー女子の小林(旧姓小野)真由美 アスリートは語る

 ホッケー女子日本代表「さくらジャパン」として2008北京、2016リオデジャネイロと2度五輪に出場し、2020東京で3度目の出場を目指していたDF小林(旧姓小野)真由美(SOMPOケア)はこのほど代表活動からの引退を発表した。先行きが見えない新型コロナウイルスの感染状況で東京五輪の開催を巡っても厳しい世論の逆風が吹く中、今後は会社員として社業のかたわら競技を続けるが、第二の人生として「いつかコーチングスキルを身につけ、日本代表のピッチに戻りたい」と展望を語るアスリートに心境を聞いた。(共同通信=伊藤貴生)

リオデジャネイロ五輪のホッケー女子1次リーグでパスを出す小林(旧姓小野)真由美(右)=2016年8月(共同)

 ―東京五輪開催に向けて不透明な現状が続く。

 新型コロナウイルスの感染拡大でいろんな意見を見聞きします。東京五輪が開催されればうれしいですが、でも今、開催することが果たしていいことなのか、気持ちが二つに分かれています。どのアスリートも開催されることを信じて、活動が制限されている中で頑張られていると思いますが、心の中では五輪があるのか、やっていることが無駄になったら、という不安を抱えながらトレーニングしているのではないでしょうか。

 ―3度目の五輪を目指していた中での代表引退表明。

 五輪延期時は右臀部(でんぶ)のけがもあって歩行も難しい状態でした。周囲のサポートで改善したこともあり、悩んだ末に挑戦を続けました。代表候補には選ばれましたが、1月末に代表引退を決めました。合宿でいいパフォーマンスができず、現場スタッフの『今後は難しい』との言葉も受け止められた。五輪は年齢や経験とか関係なく、その時に必要な力を持つ選手が立つべき舞台。新しい可能性に力を注いでほしい。

ジャカルタ・アジア大会ホッケー女子決勝のインド戦でパスを出す小林(旧姓小野)真由美(左)=2018年8月(共同)

 ―五輪への思いは。

 五輪の価値は人の心を動かし、誰かに夢や希望を与えることだと思います。私は小学校の夏休みにテレビで見た1992年バルセロナ五輪の陸上で、世界一を決める大会はこんなにすごいものなんだ、と感動し、目指そうと考えました。五輪に2度出て、今回は駄目でしたが、目指す過程で得られたことも大きかったです。多くの支えてくれた方のおかげで弱かった自分が強くなった。駄目と言われるまで頑張ってきたという満足感もあります。東京で頑張っている人の姿を見て何か感じてもらえることがあればいいなと思います。

 ―普及活動にも力を注いでいる。

 2016年のリオデジャネイロ五輪後に一度引退し、復帰した理由はホッケーをもっと多くの方に知ってもらいたいと考えたから。実業団を離れ、現在は介護業界のSOMPOケアの広報部に勤めています。人間尊重の企業理念や思いやりのある環境に恵まれ、刺激を受けています。感染拡大前は、介護施設で高齢者の方に体操を教え、小学校を訪問して競技に触れてもらう機会が増えました。アイスホッケーと間違われることもありますが、80代や90代の方や子どもたちからも頑張ってね、と言ってもらえるのは幸せ。

 ―長く第一線で活躍し、日本ホッケー界の変化をどう感じているか。

 2008年北京五輪の頃から比べると協会の体制が安定し、競技に集中できる環境が整っています。過去は限りある資金をどう使って強化するかを必死に考えた結果、合宿の日数を増やすことを優先してほかを削っていた。今の環境は周りの献身や協力があってこそ、ということは伝えていきたい

ホッケー五輪テスト大会の中国戦でパスを出す小林(旧姓小野)真由美(左)=2019年8月、大井ホッケー競技場

 ―地元開催の五輪は多くの競技に光が当たる好機になる。

 注目は五輪だけでまた4年後、という日本ホッケー界の現状を変えていきたいと感じています。マイナー競技だからこそ可能性もある。ホッケーを普及させたいという方はたくさんいるので、全体で統一感を持って取り組めば新たに発信していけると感じています。ハンドボールやラグビーなど他競技の知り合いからも学ばせてもらっています。将来的にスポーツが日本のライフスタイルにもっと浸透してほしいし、ホッケーが選択肢の一つになるようにしていきたい。そのために環境や道具を工夫してもっと身近になるよう努めたい。

―ご自身の今後は。

 社業中心の生活になりますが、いつかコーチングスキルを身につけて日本代表のピッチに戻りたいと思っています。

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 小林 真由美(こばやし・まゆみ) 旧姓小野。小学校でホッケーを始め、富山・石動高時代に日本代表デビュー。ストロークの強さが持ち味のDF。08年北京、16年リオデジャネイロと五輪2大会に出場。18年ジャカルタ・アジア大会で日本初の金メダル獲得に貢献した。昨年5月に結婚。天理大出、東京ヴェルディ所属。170センチ、60キロ。36歳。富山県出身。

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