ノーベル賞作家 カズオ・イシグロさん 受賞後初の長編小説発売 AIロボを通じ人間の孤独考察

ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」による取材に応じるイシグロさん

 2017年にノーベル文学賞を受けた長崎市出身の英国人作家カズオ・イシグロさん(66)の新作「クララとお日さま」は2日、日英米など世界各国で同時発売。ノーベル文学賞受賞後初めてとなる長編小説で、発売を前にイシグロさんはビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を通じて長崎新聞社などの取材に応じた。人工知能(AI)を扱った新作に込めた思いを語り、新型コロナウイルス禍収束後には長崎を訪問する意向も示した。
 新作は、10代の子どもを孤独から救うために造られた「AF(人工親友)」と呼ばれるロボット「クララ」が主人公で、常に人間の孤独について考察している。ある少女宅に購入され、献身的に少女に尽くす中、一家の秘密が明らかになっていく。
 AI搭載ロボットを主人公にした理由について「人間の在り方をより興味深く探求できる」と説明。「主人公を通じて、人間の孤独とは何かを考えたい。人間の愛についても大切なテーマだと思い、執筆した」と述べた。

新作「クララとお日さま」の表紙

 英王立文学協会賞受賞の「遠い山なみの光」の舞台、長崎に関しては「5歳で長崎を後にして渡英したので非常に遠い世界」「ちゃんとした長崎について書く自信はそこまでありません」とする一方、「原爆の悲劇もありますし、出島があって世界と日本との窓になっている」と指摘。「グローバリゼーションを考える上で原型的な都市」と位置付けた。
 また激動する世界情勢を巡って、米選挙、黒人差別解消を訴える運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命も大事だ)」、英国の欧州連合(EU)離脱などを挙げ、「真っ二つに分断されてしまった」「非常に根源的な問題が問われた」と厳しく指摘。コロナ禍に関しては「作家として非常に注目すべき問題」とした。
 県民に向けては「長崎の皆さんのご多幸を祈りたい。コロナの難しい時代なので、みんなで助け合って頑張りましょう。事態が落ち着いたら、遠からず長崎の皆さんのところにうかがいたい」とメッセージを寄せた。
 「クララとお日さま」日本版は早川書房刊、四六判、448ページ、2750円。


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