ソ連時代に行われた心の破壊 伝えるため暴力で表現 ソ連全体主義社会を再現「DAU. ナターシャ」監督

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空前のスケールでソ連全体主義社会を再現し、スターリン体制下で生きる人々を描いた映画「DAU. ナターシャ」が公開されている。公開初日の2月27日に、イリヤ・フルジャノフスキー監督が観客とのQ&A方式のトークイベントにオンラインで参加した。

「DAU」プロジェクトに15年もの歳月を費やし、16本の映画化に向けて取り組み続けているフルジャノフスキー監督。プロジェクトの劇場用映画第1作目となる本作の公開に、「日本で初めてお見せできることを誇りに思っています。日本という素晴らしい歴史を持ち、素晴らしい映画や映画監督を生んできた国です。でも、素晴らしい観客なしに素晴らしい映画というものは生まれません。皆さんに感謝しています」と、感極まった表情であいさつをした。

本作は、ソ連全体主義時代を再現している。インタビューで語っていた「ロシアの人々は健忘症になっている」ことがテーマなのかと聞かれた監督は、「それは1つのテーマではありますが、唯一のテーマではありません。つらい過去を持った人というのは、自分の過去を覚えていたくない、忘れてしまいたいという気持ちを持っていることは確かです」と説明した。

映画内での言葉の応酬が持つリアリティや緊張感については、「登場人物たちの言葉はシナリオに基づいていた訳ではありません。彼らが自分たちで話していたものです。それぞれの生活や状況によって彼ら自身が話していたことをフィルムに収めたのです。彼らの言葉が刺激をもたらしたのは、自然に生まれたものだからと考えています」と、再現されたソ連時代の生活を送ったキャストによって自然に生まれたものであることを語った。

本作の主人公であるナターシャは、ソヴィエト国家保安委員会に連行され、壮絶な尋問の末に協力者となるよう求められる。この場面については、「そういうことは実際ありました。もっとひどい方法で拷問するということもあったのです。そしてそれは今も続いています。いろいろな本などを読む中でそのことを知りましたが、今でもロシアの刑務所ではああいう拷問や女性に対してひどいことをするということはあります。ソ連時代も、拷問や人間の尊厳をめちゃくちゃにするということは、一種のノルマでもあったのです。そうすることによって人間の心を破壊したのです。そのことを伝えるために、私はこの映画で暴力を示したのです」と思いを明かした。

「DAU」は、ソ連全体主義時代を再現する巨大なプロジェクト。「DAU. ナターシャ」は膨大なフッテージから生み出された映画化第一弾となる。秘密研究都市にあるカフェで働くウェイトレスのナターシャの目を通し、全体主義社会の中で生きる人々やソ連の秘密研究都市が描き出されている。完成した作品は、衝撃的なバイオレンスとエロティックな描写が賛否を呼んだが、空前の構想と芸術性が評価され、第70回ベルリン映画祭では銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した。

DAU. ナターシャ
公開中
配給:トランスフォーマー
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