第三者委員会設置のSBIソーシャルレンディング、貸付先に重大な懸案事項が生じている可能性

 「ソーシャルレンディング」が話題だ。ソーシャルレンディング会社が管理するファンドを一般投資家に募集し、年間5%前後の利回りが人気を呼んでいる。だが、近年はソーシャルレンディング会社が金融庁から行政処分を受ける不祥事が相次いでいる。
 東京商工リサーチ(TSR)情報部は、数年前からソーシャルレンディングを取材。
 こうしたなか、2月5日、SBIホールディングス(株)(TSR企業コード:293749795、東京都港区、東証1部、以下SBIHD)の子会社であるSBIソーシャルレンディング(株)(TSR企業コード:297322095、東京都港区、以下SBISL)が、貸付先の事業運営に「重大な懸案事項が生じている可能性がある」として、第三者委員会を設置した。

 SBISLは、第三者委員会の設置を発表後の2月9日付で、代表取締役社長が交代している。
 SBISLは同月17日の「お知らせ」で、「ファンドの業務執行者として通常求められる善管注意義務を十分に果たしていなかった可能性がある」と公表した。ただ、貸付先や貸付額などは明らかにしていない。
 貸付先の利息の支払いが延滞したケースを調べると、2019年1月、SBISLの貸付先で延滞を生じ、競売で貸付先の所有する不動産を第三者に売却していることがわかった。2年後の2021年2月16日、同物件を(株)SBI証券(TSR企業コード:290511690、東京都港区)が取得していた。TSRは2月22日、不動産登記簿で事実関係を確認した。
 SBISLの公表資料によると、この貸付先は2018年7月2日を期日とする利息の支払いがなく、貸付金の回収を図るためSBISLが裁判所に担保不動産の競売を申立てたという。
 担保不動産の登記簿を確認すると、2017年4月にA社が当該物件を売買で取得し、翌年4月にはSBISLが金利7.5%で2億7,000万円の抵当権を設定している。A社の代表はサブリース問題で揺れた企業の元代表だった。

SBISL

‌SBISLが競売を申し立てた不動産(2018年11月TSR撮影)

 A社は、SBISLが担保を設定する前に、同物件を金融業者に担保提供し、2017年4月に2億1,000万円(金利6.0%、2018年4月担保解除)、2018年4月に2億4,000万円(金利9.0%、2018年4月担保解除)と、担保設定ごとに金額と金利が増え、厳しい資金状況がうかがわれた。その後、SBISLから資金を調達したことになる。金額は増えたが、金利は1.5%低く、資金繰りへの負担が大きく増したとは考えにくい。
 だが、SBISLが貸付けてからわずか3カ月後の7月に延滞が始まったとみられ、その後SBISLは競売を申し立てたことになる。
 不動産関係者によると、同物件は2019年1月に競売物件の入札が行われ、売却基準価格1億262万円に対し、売却結果は2億1,600万円だったという。
 SBISLが2019年1月、顧客に報告した競売結果によると、売却価格は2億1,600万円と同額だった。SBISLの貸付金額は2億7,000万円で、8割を競売で回収したことになる。

第三者が取得し、SBI証券へ売却

 調査を進めると、この競売不動産を取得したのは環境事業などを手掛けるB社だったことが不動産登記簿などで判明した。B社は、同物件に都内の信用組合を根抵当権者として4億6,320万円の担保を設定。更地だった物件に4階建ての店舗兼共同住宅を建築した。
 そして、2021年2月16日。この土地と新築建物をSBI証券が売買で取得した。SBIグループが競売を申立した不動産を、再びSBIグループが取得する一連の取引について、TSRはSBISLが公表した「対象ファンドの未償還元本の償還などを含めた対応について検討している」とした対応の一環かどうかを質問した。これに対してSBIHDの担当者は、「取引内容は開示できない。(SBISLは)第三者委員会を設置し、調査を継続しており、お話することはできない」とコメントした。

SBISLが第三者委員会を設置

 競売不動産を取得したB社にも2021年2月から取材を申し込んでいるが、対応は得られていない。B社のホームページでは、「当社が、SBIHDの第三者委員会から2月15日現在、聴取を受けた事実はない」旨を記載している。
 SBISLとB社の関係は密接だったようだ。B社の関係会社とみられる複数の合同会社も、SBISLから資金を調達している。SBISLが2019年5月、16億2,600万円の担保を設定したホテル用地は、B社と関係が深い合同会社が所有する。現地に掲げられた「建築計画のお知らせ」には、建築主がB社と記載されている。
 「建築計画のお知らせ」によると、用途はホテルで、着工予定日は2020年12月1日。完了予定日は2021年10月31日となっている。だが、新型コロナが影響したのか、3月1日時点で工事が開始された形跡はみられない。
B社の説明によると、株主などに株式上場の計画を明らかにし、主幹事はSBI証券が担当する予定だったという。

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‌SBISLが担保設定したホテル用地(2021年3月TSR撮影)

 「ソーシャルレンディング」は、金融機関や市場などから資金調達が難しい企業の新しい資金調達方法としても注目されている。
 だが、信用が低い企業も多く一定のリスクがあり、投資家は留意すべきだ。そのためにもソーシャルレンディング会社は貸付先の管理やモニタリング、情報公開など、投資家に向けたリスク管理の徹底が求められる。
 ソーシャルレンディングの貸付先の匿名性を利用した不透明な取引も一部で指摘されている。相次ぐ不祥事を受け、匿名化解除の流れも動き出し、会社名や住所などを開示したファンドも出始めた。
 4月上旬に予定される第三者委員会の調査結果の内容を、関係者は見守っている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年3月3日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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