Jアノンに認定された保守言論人|山岡鉄秀 トランプ支持者を一括りに「陰謀論者」と決めつけ、危険な「カルト集団」と見なして排除しようとすることは、実に危険で馬鹿げた行為だ。敵とみなす人々を一緒くたにし、レッテル貼りして糾弾するやり方は「ネーム・コーリング」という伝統的なプロパガンダの手法である。「デマはどのように拡散されたのか」のリサーチを行い、「Jアノン認定」も行った、コーネル大学のモア・ナアマン教授にその真意を問う!

トランプ支持者はすべてQアノンなのか

米大統領選挙でトランプ大統領の再選が阻止された場合、トランプ本人、トランプのブレーン、トランプ支持者全般に対して激しい言論封殺が行われるであろうことは容易に想像ができた。

本来、民主主義の原点は、「全く賛成できない意見に対しても、その意見を述べる権利を認める」ことだったはずだ。ところが、いまや主流メディアの一翼となったSNSは、気に食わないアカウントを一方的に閉鎖するという手段を有し、それを大規模に実行した。

一般人に対してはアカウント閉鎖を行う一方で、競合するSNSに対してはアプリをストアから排除したり、サーバーホスティングサービスを停止したりした。これだけでも重大な言論弾圧だが、トランプ支持者を一括りに「陰謀論者」と決めつけ、危険な「カルト集団」と見なして排除しようとすることは、実に危険で馬鹿げた行為だ。

近年米国を中心に西洋社会で急速に台頭しているネオ・マルクス主義と呼ばれる極左全体主義による伝統的民主主義への攻撃である。米国のSNSを含む主流メディアと民主党は完全にこの極左イデオロギーに毒されている。中国の国有グローバルテレビネットワークのCGTNでは元CNNの記者が大勢働いている。

先の大統領選では少なくとも7400万人のアメリカ人がトランプに投票したわけだが、その7400万人はトランプを支持したこと以外は多種多様な人々である。トランプ大統領は数多くの集会を開いたが、常に平和的で暴力沙汰になったことはなかった。

それにも拘らず、主流メディアもバイデン政権も、次のようなレッテル貼りをしてトランプ支持者や保守派を抹殺しようとしている。

トランプ支持者 → 選挙に不正があったと主張 → 政治的過激思想の持主 → Qアノンの過激信者 → 危険なカルト→議事堂乱入→取り締まりの対象

当然ながら、トランプ支持者=Qアノンではない。私自身も最近までそれが何なのかよく知らなかった。あくまでも、トランプ支持者のなかにQアノンと呼ばれる人々がいた、というだけのことで、組織化されているわけではない。

Qアノンとは月刊『ムー』の読者のようなもの

しかし、なぜQという謎のメッセンジャー(飛行機事故で亡くなったJ.F.ケネディJrは生きている――)とそれを信じる人々が危険と見なされるのか。

どうやらその理由は、民主党とそれを支持するエリート層がサタニズム(悪魔崇拝)を信奉し、かつ、ペドファイル(児童性愛者)の集まりで凶悪な犯罪組織を構成しているという告発が根っこにあるようだ。

エプスタインという富豪がカリブ海の島に未成年の少女を集めて性的サービスを行わせ、そこにオバマ前大統領を始め、そうそうたるセレブ・エリート層が招待されていた、という話は事実で、エプスタインは逮捕され、拘留中に自殺したと報じられている。

したがって、まったく根拠がないわけではないが、もし、脚色された陰謀論の類なら、無視すればいいだけのことだろう。ここでのポイントは、人が何を信じようと、それは個人の自由だということである。その個人または集団が違法行為を計画したり、実行した場合に問題となる。

Qという謎の人物が語る話を信じているだけでは犯罪にはならない。Qがクーデターなどを呼びかけていれば別だが、そういうわけではなく、Qアノンとは月刊『ムー』の読者のようなものだ。

1月6日の議事堂乱入もAntifaやBLMを含む様々な人間が入り乱れたもので、Qの指令によるものではなく、トランプ大統領のスピーチに喚起されたものでもない。事前にパイプ爆弾を仕掛けた人間がいたようだが、正体は不明だ。

ところが、バイデン政権で新たに任命されたDNI(国家情報長官)のヘインズ元CIA長官は、Qアノン現象がどのように伝播したか、FBIを使って調査するとまで言っている。

なぜそこまでムキになる必要があるのか。

「デマ」を拡散させた3人のJアノン

ネット上では、コーネル工科大学の学生によるリサーチが話題になった。

コーネル工科大学(コーネルテック)とは、元NY市長のマイケル・ブルームバーグが、応用化学および工学キャンパス設立のために、世界中からコンペを募り、コーネル大学とテク二オン・イスラエル工科大学が共同で設立したものだ。

2012年から2017年まで、キャンパスは一時的にニューヨーク市内のGoogleの建物内にあった。ブルームバーグ自身もキャンパス創設プロジェクトに1億ドル(約100億円)を寄付しているとのことである。

今回、話題になったコーネル工科大学の大学院生が行った研究の趣旨は以下のとおりだ。

「2020年の米国大統領選挙をめぐる根拠のない選挙不正の主張が広範囲に拡散したことで、選挙への信頼が損なわれ、米国議事堂内での暴力行為で最高潮に達した。これらの主張が発信される主要なプラットフォームであるTwitter上での議論を把握することが非常に重要だ」

つまり、今回の大統領選挙で拡散された「選挙で不正があった」という主張は根拠がないデマであるという前提があり、そのデマがどのように拡散されたかを調べることには意義がある、という意味だ。

研究をリードしたAnton Abilovという学生は、自身のTwitterで「不正選挙を訴えるクラスター内の外国のサブコミュニティを特定しました。そのうち一つは、いわゆる『J-Anon』運動です」と述べている。

「Jアノン」とは何だろうか。

日本のトランプ支持者のことのようである。彼らにとって、外国である日本にトランプ支持者が幅広く存在し、応援のデモ行進までしていることが非常に驚きだったのだ。

もちろん、日本のトランプ支持者にも色々な人がいて、純粋に日本の国益を考えてトランプを支持した人も多かったが、米国リベラル派の目にはトランプ支持者などカルト信者にしか見えないというわけだ。

そして、Anton Abilov氏が抽出した影響力のある日本人Twitterアカウントが著名人を含めて20ほどあったのだが、その中によく知られた3人の名前があった。

門田隆将氏、西村幸祐氏、我那覇真子氏である。

そこで私は、今回の研究を指導したコーネル大学のモア・ナアマン教授に真意を問うべくメールをした。すると、予想に反して迅速に教授から返事をもらうことができた。以下にその邦訳を掲載する。

ナアマン教授殿

不正選挙の主張拡散に関する研究を興味深く拝見しました。いくつか質問させて頂けますと幸いです。この研究は、今回の大統領選挙に際して、不正や異常は一切なかったという認識が基本的前提となっていると理解してよろしいでしょうか。

トランプ支持者は多種多様です。研究に示された日本クラスターのリストには、少なくとも3人のまじめなジャーナリストが含まれています。あなたの研究はトランプ支持者を過度に一般化し、言論の自由を抑圧するリスクをはらんでいませんか。

ご返事を楽しみにお待ちしております。

鉄秀さん

議論を始める時間はないのですが、あなたは礼儀正しいので、今回に限っていくつかの回答を提供します。
「不正は皆無」は我々の研究の前提ではありません。我々の研究論文は選挙不正に関するツイートを記録したもので、それぞれの主張を評価したものではありません。

しかし、1人の市民として意見を述べれば、米国の複数の裁判所がすべての不正の訴えを却下し、トランプが任命したウイリアム・バー司法長官が広範な不正は無かったと宣言しましたので、個人的にはこれらの不正の訴えのほとんどは虚偽であったと思っています。

我々の報告書は個人のオンラインの公的な活動を記録することが目的です。我々は日本からのデータに対して報告書に書かれた以上の深い分析を行っていません。誰も一般化しないことを願っていますし、むしろ、各人のオンラインの活動を検証して、独自に判断して欲しいと思います(そのためにデータを開示しているのです)。

私は何らかのアクションを提示するものではありません。情報を提供しているだけです。
繰り返しになりますが、申し訳ありませんが、この会話を続けることはできません。
ご連絡ありがとう。

「ネーム・コーリング」というプロパガンダ

わざと質問を短く抑えたのだが、質問より長い返事をもらった。ナアマン教授が無名の私に答えてくれた理由はふたつあると思われる。

ひとつは、丁寧な表現で、質問が簡潔で明確であったこと。これはマナーとして大切なことだ。たとえ不満があっても、いきなり感情をぶつけるようなことをしてはいけない。

もうひとつ、ナアマン教授は要するに、データを抽出して開示しただけであって、特定の価値判断はくだしていない、トランプ支持者を十把一絡げに陰謀論者とみなしていない、と説明(釈明)しているわけだが、私の質問の意図を理解して、想定される批判をかわしておきたかったのだろう。

自然科学であれ、社会科学であれ、科学的アプローチを取るうえで忌避すべきは極端な前提や一般化である。「大統領選挙に一切の不正はなかった。不正を言うのはデマと同義である」という前提(assumption)を立ててしまったら、その瞬間からリサーチ結果が偏向するのは当然である。

だから、ナアマン教授は「個人的には不正はなかったと思っているが、リサーチの前提ではない」と言わなくてはならなかった。また、選挙に不正があった可能性を追求する人々を全員カルト信者でデマ拡散者であるかのように一般化してしまうのも、非科学的である。個別の分析と検証なき一般化は絶対にやってはならないことだ。

敵とみなす人々を一緒くたにし、レッテル貼りして糾弾するやり方は「ネーム・コーリング」という伝統的なプロパガンダの手法だ。

ナアマン教授は「あなたのリサーチはプロパガンダではないのか?」という批判を避けるために、「個別のツイート内容に対する評価はしていない。生データを添付しているから、評価は各人でやって欲しい。誰も一般化しないことを願う」と言わざるを得なかった。

しかし、この指導教授の説明がないままに、リサーチを行った学生のツイートを読んだら、ナアマン教授の説明が彼の指導する学生たちに共有されているのかという疑問が残る。残念ながら教授は、議論はしたくないとのことだから、今回はそれを尊重する。

ナアマン教授の文体はカジュアルで、礼儀正しいとは言えないが、いかにもシリコンバレーのカルチャーを反映していると思うし、私もシリコンバレーに本社がある会社で働いた経験があるので、特に失礼とは思わなかった。

トランプ再選を願っていた理由

この研究報告で名指しされた方々は不愉快な思いをされたことだろうが、いま世界中で、有名無名に拘わらず、キリスト教徒や保守系論者が抑圧される傾向が強まっており、それへの反発も高まっている。ポーランドやハンガリーでは巨大SNSから言論の自由を守る立法まで検討されている。

なぜポーランドやハンガリーなのか。

それは、それらの国々にはソ連の共産主義の下で思想統制と言論弾圧に苦しんだ過去の記憶があるからだ。そのソ連と戦ったアメリカがいま、中国共産党と結びつくネオ・マルクス主義などの極左リベラル全体主義に深く侵されているとは、なんという皮肉であり、悲劇であろうか。

我々は、このような言論統制の圧力に正面から対峙しなくてはならない。そうであればなおさら、感情的にならずに、冷静で理知的な反論をする必要がある。こういう事態を想定していたからこそ、それを避ける為にJアノン認定されたお三方も私もトランプ再選を願っていたのだった。

問題の本質は自由民主主義の危機なのである。

山岡鉄秀(Tetsuhide Yamaoka)

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