ワクチン医療関係者最優先は日本だけの暴挙だった!ワクチン問題は選挙にどう影響するか?(歴史家・評論家 八幡和郎)

コロナ・ワクチン戦争で日本は世界で負け組になってしまう大失政か?国民目線で英断を下せ!」という記事を先週書いて、日本のワクチン接種体制の遅れと、その原因が医療関係者が自分たちの既得権益や論理に固執して緊急事態に相応しい協力をしてくれないことにあると指摘した。

今回の記事であらたに糾弾したいのは、ワクチンの接種について医療従事者470万人を最優先するというのは、世界でまったく例外的で、医療関係者による信じがたいお手盛りだということだ。

photo by CDC

医療関係者優先といっても、コロナ対応の最前線にいる人たちだけなら理解できなくもない。ところが、470万人というのは、人と接する仕事に就いている一般人よりコロナ患者に接触する機会が多いとは思えぬ人まで含まれている。しかも、最初は300万人と言っていたのが、どんどん数字が膨れあがっているのは、接種希望リスト作成の過程でお手盛りで知り合いを関係者に入れてしまう動きがあるとしか考えにくい。

あとで、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカにおける対応を紹介するが、最優先と考えられているのは、医療関係者より高齢者施設の職員と入居者だ。クラスター発生の危険性が最も高く、感染した場合の重症化率や死亡率も断然に高いからだ。

その危険性は、日本でもまったく同じである。医療関係者はたとえ感染しても重症化とか死亡する率など非常に低いし、そもそも、医療関係者の死亡率が一般人より高いという実態がない。 

しかし、百歩譲って専門病棟や発熱外来で患者と直接の接触が高い割合である人は優先にするとしても、それは470万人のどのくらいの割合なのだろうか。1割どころか1パーセントもいるのだろうか。

また、医療関係者が感染したとして第三者に感染させる可能性も、ほかの職業に比べて多いとは考えにくい。ヨーロッパでは、学校の先生が生徒たちに感染させる可能性が多いといって優先するように要求している。たしかに、対面授業で多人数に対して話をする仕事だから、医療関係者よりはるかに危険である。

そういう議論をすると、医療関係者からは、線の引き方が難しいから470万人全部にするしかないという反論がくるが、医療関係者のなかでも、各都道府県などで優先順位を設定しているのだから、線を引けないなどということはあり得ないのである。

それでは、各国でどういう線の引き方をしているかということを紹介しておく。

【イギリス】

①高齢者施設の入所者やスタッフ(100万人)
②80歳以上の高齢者&医療従事者とケアマネージャー(550万人)
③75歳以上(220万人)
④70歳以上
⑤65歳以上
⑥16歳から64歳で基礎疾患がある人
⑦60歳以上
⑧55歳以上
⑨50歳以上

施設での死亡が36%であるので、入居者とそのスタッフが最優先。そして、80歳以上の死者が66%を占めており、彼らは外出などはあまりしないから、接触する可能性があるという観点で医療・介護関係者という考え方である。ちなみに、イギリスでは医療関係者の死者は約1,000人で日本とは違ってかなり深刻であるにもかかわらずである。また、50歳未満の死者は約1%に過ぎない。

【フランス】
①老人ホーム居住者とその従業員が最優先。長期入院施設で働く65歳以上の医療福祉関係者、医療運搬者の中で併存疾患がある人。該当者は100万人ほど。
②75歳以上。ついで、65~74歳で併存疾患のある人。次に残りの65~74歳。医療福祉関係者、医療運搬者、長期入院施設で働く人。
③50〜64歳の人と、50歳未満でも併存疾患のある人。セキュリティー、食品、教育関係者など。

つまり医療関係者は例外を除き、75歳以上の人に劣後している。

【ドイツ】
①高齢者施設や介護施設の入所者、80歳以上の者、及び高齢者と接する介護職員や高齢者施設職員。集中治療、緊急治療及び救急サービスに従事する者等、新型コロナウイルスに曝されるリスクが非常に高い医療スタッフが含まれる。また、重大な疾病又は死亡に至るリスクが高い疾病の患者、例えば移植医療の患者を看護する看護師も含まれる。
②70歳以上の全ての者、及び臓器移植を行った者等の重篤な疾患のリスクが高い者が含まれる。また、機動隊員のほか、要介護者・妊婦等と濃厚に接触する者も含まれる。
③60歳以上の者、慢性腎臓病・慢性肝疾患・自己免疫疾患・癌等の疾病リスクが高い者、家庭医や検査機関のスタッフが含まれる。警察、消防、教育、司法分野の職員も含まれる。また、小売業の販売員に加え、季節労働者・配送センター及び食肉加工業の労働者等の困難な労働条件で働いている者も含まれる。

つまり、開業医など一般の医療関係者は、60歳以上の一般人や商店の店員、配達業者と同等の扱いに過ぎない。

【米国(カリフォルニア州)】

①介護施設(SNF)の居住者と医療従事者。•その他の高齢者施設の居住者とスタッフ。ウィルスと接する可能性のある医療従事者(救急病院、急性精神病院、矯正施設病院、透析センターを最優先とする。
②医療・介護関係者のうち患者と接触する可能性が高い人たち
③コロナ検査関係者・歯科医・遺体安置所職員など。

ヨーロッパに比べると一般高齢者の優先は低いが、これも医療関係者なら誰でも優先という体系ではない。

photo by CDC

以上、見てきたように、英仏独米のいずれの国をみても、高齢者施設がもっとも危険であるという意識は共通しており、広範囲の医療関係者を線が引けないとか言って優先しているところはない。医療関係者から大量の死者まで出ているにもかかわらずである。

日本でどうして470万人もの「医療関係者」が自分の身を守ることを優先にしたのか知らないが、このような基準は厚生労働省のなかの医官も含めて、広い意味での医療関係者(ほとんどが医師)が相談して決めたものだ。

事務官僚や政治家の介入の余地は少ないのが現状だ。私はまた別の機会に論じたいが、あらゆる医療行政の決定に際しては、半数以上を非医療関係者が占める機関の討議に委ねるべきだと主張している。

すでに書いたように、まだ、十分に元気だった高齢者が死亡に至るケースの極めて多い割合が高齢者施設や高齢者が長期入院している病院でのクラスター発生によることは日本でも同じであるし、医療関係者の重症化や死亡の報告は非常にすくないにもかかわらず、470万人もの医療関係者を優先するという決定をしたのは、倫理的に考えて許しがたいように思える。

いまからでも、順位を変える、一般人に比べて患者と接触可能性が少ない医療関係者の辞退の呼びかけをするべきだと思う。

前回の記事の論点の補足

①ファイザーだけに頼るのはやはり疑問である。いまのところ、いちばん良さそうだが、決め打ちはリスクも大きい。各社のワクチンに長短もあるのだから、中国製やロシア製まで含めて多様なものを導入、あるいは導入の準備をして臨機応変に対処すべきだ。

②ワクチン接種した人にワクチン・パスポート(接種した証明)を発行し旅行や営業などを広く例外的に認める動きは世界に拡がっている。日本も本格検討を急ぐべきだ。

③ワクチン接種を薬剤師などに許可すべきだ。すでにかなり以前からアメリカなどでは薬剤師に注射をさせているし、コロナ騒動のなかでヨーロッパにも拡がりつつある。医者が足りないというなら、コロナに限らず、薬剤師や歯科医、獣医なども広く動員すべきだ。難点をいろいろ指摘する人がいるが、そこでの論点が正しいなら医療施設でも限られたところでしかするべきでないという結論しか出てこないものばかりだ。

私の抜本的医療改革案

2月26日発売の「月刊 Hanada 4月号」に「日本医療界を糺す抜本改革案」という小論を出した。まだ、発売して間もなくなので詳しく内容は紹介できないが、10のポイントとしてあげているのは以下の通りである。ぜひ、ご一読頂きたい。

①医者を美味しい職業でなくすことで医学に情熱がある人だけを医者に
②医学部廃止と大学院レベルのメディカル・スクールの創設
③勤務地域・診察科目の偏在是正のための医師プール制
④開業医の経営リスク軽減と機動化
⑤医師の独占領域の抜本削減
⑥外国人医師の導入や准医師的役割の創設
⑦リモート診療・混合診療・電子化の推進
⑧混合医療の幅広い導入と健保対象のメリハリ
⑨コンパクト・シティ構想などで医療過疎の解消
⑩医療関係者以外の医療政策への関与拡大

①と②だが、私の基本認識は、現在のように18歳で偏差値が高いだけで医学部に入ったら、ほとんどが医者になれ、若い頃から高齢になるまで安心安全の経済的待遇と社会的地位が保証される現行システムでは、それ目当ての不適格者が多く医者になり、逆に、本当に医療に情熱をもったり向いたりする若者を排除している。また、他学部の学生との交流も少ないままギルドの一員としての意識ばかり高くなるし、一般教養も勉強しなくなる。

それを、ほかの職業と同じように22歳くらいになって、仕事への適性が明らかになってから医学への道を進ませるべきだし、他の理工系大学院卒と同等の待遇でも医学を志す人こそ、医者になるべきだという考え方だ。また、機会を改めて論じたい。

ワクチン問題は選挙にどう影響するか

先週の記事とあわせて、ワクチン問題が政府にとってもかなり大きな失政であると書いた。欧米に比べて2か月も遅くしか始められず、その速度も上がらないのだから当然だ。いまのところ、韓国よりベターというくらいが自慢の種だが、韓国も必至だから追いつかれかねない。

といっても、安倍内閣がワクチン確保に先手をうって自国で生産できない割には最悪の事態ではないとか、河野太郎氏をワクチン担当相に任命して頑張っているというイメージはあるし、なにより、ワクチンについて野党や小池知事などは政府よりはるかにむしろ向きだったのだから失点にはなっていない。

しかし、これから、この問題への風あたりは厳しくなってくるだろう。まず、ワクチン接種が先行した国で流行は急速に収束するだろうし、副反応はそれほどではないとなると、日本人のことだから早く打ちたいという方向に一斉に走り出すのに時間はかかるまい。

それは都議会議員選挙の前の可能性が高い。また、秋に予想される総選挙のときには、第5波の足音も聞こえているのだから、絶好の攻撃材料になるだろう。そのときに、ファイザーだけで勝負していることが政府にとって批判の対象になりかねない。

また、世界的にワクチンを打った人を優遇するワクチン・パスポートの考え方はそれなりに広まる。すでに、ほぼ全国民に摂取がいきわたりつつあるイスラエル人など世界中の観光地で大歓迎ムードだ。

これについても、ワクチン・パスポートの導入準備など怠っていることへの風当たりは強くなるし、五輪が中止とか無観客になればワクチン失政への追及も激しくなる。

ここは、政府もいま野党や小池知事が分かってないからとか、そこそこのことは政府としてしていると甘えずに、ワクチンについてやれることはなんでもやるという気構えでないと選挙の行方に大きくかかわってくるかもしれない。

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