菅首相が東北新社創業者の“もうひとつの献金”を隠していた理由! BS放送認可の年に100万円で口利きの見返り疑惑も

首相官邸HPより

菅義偉首相の長男による違法接待問題は、山田真貴子・前内閣広報官ら総務省幹部がNTTからも接待を受けたことが判明。批判の矛先は菅首相やその長男から総務省へ向かいつつある。しかし、忘れてはいけない。この違法接待の背景には、菅首相自身が長男の勤めていた東北新社と癒着し、総務省を通じて便宜供与をさせていたのではないかという疑惑が横たわっている。

実際、本日5日の衆院予算委員会で新たな事実が判明した。東北新社は2017年1月にBS4K放送の認定を受けたが、放送法に違反する外資比率20%を超えていたにもかかわらず、認定が取り消されなかったというのだ。しかも、このときの決裁者のトップである情報流通行政局長は、山田真貴子・前内閣広報官だったというのである。

東北新社がBS4K放送の認定を受ける直前には、当時の秋本芳徳・総合通信基盤局総務課長や吉田眞人・大臣官房審議官も接待を受けていたが、まさか、放送法に違反する外資比率でも認定は取り消されずにいたとは──。いかに東北新社が特別扱いを受けていたかを裏付けるような新事実だが、じつは、本日の国会では、もっと重要な事実もあきらかにされた。

それは、疑惑の“本丸”である菅首相の献金問題だ。菅首相は2月17日の衆院予算委員会で、東北新社創業者の植村伴次郎氏と東北新社社長だった植村徹氏から、2012年から2018年の5回にわたって計500万円の献金を受けていたことを明かしていた。しかし、献金はこれだけではなかった。

立憲民主党の小西洋之参院議員によると、菅首相は2009年8月20日に植村伴次郎氏から100万円の寄付を受けていた、というのだ。

小西議員によるとこれは政治資金収支報告書に記載があったというのだが、なぜ菅首相はこの2009年の100万円の献金を隠していたのか。菅首相は「事務所で確認できたのはこれだけでした」などと答弁したが、意図的に隠蔽したのではないか。

というのも、元総務官僚で、2009年から2010年にかけて衛星放送課の課長補佐だった小西議員によると、この2009年というのは「BS放送の歴史のなかで、いちばん大きな免許、事業者の認定がおこなわれている」「スターチャンネルという東北新社の子会社は、2チャンネル、プラチナ帯と言いまして、いちばん視聴者の多い帯域で2チャンネル、チャンネルを得ることができている」というからだ。

●東北新社のスターチャンネルがBS放送枠を得た年に創業者から菅首相に100万円

たしかに当時、総務省は2011年のテレビ放送完全デジタル化に伴ってBSデジタル放送枠を追加することを公表、委託放送業務認定申請の受付を2009年2月から開始している。これにはウォルト・ディズニーやBBCといった有力な外資系も名乗りを上げるなど29社38チャンネルから申請がおこなわれたが、総務省は同年6月10日に9社の参入を決定。そして、このときスターチャンネルは新たに2番組のBS放送枠を得ているのだ。ちなみに、当時の株式会社スターチャンネルの代表取締役会長は植村伴次郎氏である。

そして、この激しい競争のもとでの2番組の参入が決まってから、わずか2カ月後に、代表取締役だった植村氏から100万円もの献金を菅首相は受けていたのだ。これはまさしく“口利きのお礼”だったのではないのか。

いや、そもそも菅首相の長男である正剛氏が植村伴次郎氏の“鞄持ち”になったとされているのは、2008年のこと。「週刊文春」(文藝春秋)2月11日号では〈正剛氏は植村家の鞄持ちの傍ら、入社時から映画専門「スターチャンネル」など衛星放送事業に関わる総務省の窓口を担当していた〉と記述されていた。

つまり、スターチャンネルがこのBSデジタル放送への新規参入申請をおこなった際も、「総務省の窓口」として正剛氏が動いていた可能性も十分考えられるのだ。

競争激化のなかで長男を伴次郎氏に預け、スターチャンネルが「いちばん視聴者の多い帯域で2つのチャンネルを得ることができた」という事実、さらに総務省が認可を決定してからわずか2カ月後の100万円の献金──。これまで、高級接待を受けてきた総務官僚たちが接待後に東北新社を特別優遇してきたことが取り沙汰されてきたが、しかし、今回判明した100万円の献金を考えても、紛れもなく菅首相こそが便宜供与の中心に存在しているのである。

小西議員から「当時、植村伴次郎氏からスターチャンネルの2チャンネルをプラチナ帯域に認定するように、そうした依頼を受け、総務省に働きかけたことはありませんか?」と追及された菅首相は、「植村さんという方は、私の秋田の田舎の出身で、私が国会に出てから、非常にかわいがっていただきました。しかし、どんな小さなことでも、依頼を受けたことは一切ありません」と否定した。

しかし、この期に及んでも2009年に献金を受けていた事実を隠していたのは、自身の便宜供与問題に発展するのを恐れてのこととしか思えない。

●菅首相“最大のタニマチ”ぐるなび会長のイベントと長男の「囲碁将棋チャンネル」の接点

いずれにしても、こうした東北新社への便宜供与と隠されていた菅首相への献金を見れば、今回の高額接待問題が“総務省の体質”の問題でもなければ、“長男の暴走”でもない。菅首相自身の特定企業との癒着、行政の私物化が表出したものであることは明らかだろう。

実際、長男のいた東北新社をめぐる利権構造には、菅首相のもうひとりのオトモダチ経営者がからんでいた。

それは、「ぐるなび」の創業者で現会長の滝久雄氏。滝氏は菅首相の最大のタニマチといわれる人物で、経営する傘下の広告会社を通じて菅首相に多額の献金をしていた上、菅首相に頼まれて御用ジャーナリスト山口敬之氏に関連会社から顧問料を支払っていたことも明らかになっている。また、見返りとしての便宜供与もささやかれてきた。滝氏の経営する「ぐるなび」が菅首相が主導した「GoToイート」キャンペーンによって大きな恩恵を受けていたという問題はもちろん、滝会長は昨年10月、2020年度の文化功労者にまで選ばれている。

ところが、この滝会長と東北新社・正剛氏との間でもビジネスが行われていたことが判明したのだ。滝会長が文化功労者に選ばれた理由のひとつに「ペア碁の普及」なるものがあり、滝会長は2人1組で打つ囲碁を普及させる「日本ペア碁協会」の名誉会長を務めている。このペア碁の大会を、正剛氏が取締役だった東北新社の子会社「囲碁・将棋チャンネル」で放映してきたというのだ。

ジャーナリストの森功氏が「週刊ポスト」(小学館)2月26日・3月5日号と3月12日号の2号にわたっておこなったレポートでは、こんな証言を紹介している。

「ペア碁大会ではイベント協賛企業から年間ざっと3億5000万円のスポンサー料が集まり、東北新社が番組を流してビジネスにしてきた。滝さんは東北新社や菅さんの息子にそれだけ気を遣ってきた。切っても切れない関係でしょうね」(囲碁関係者)
「焦点は息子が東北新社で手掛けている『囲碁・将棋チャンネル』番組でしょう。実はこの番組づくりにかかわっているのが、菅首相のスポンサー企業です。菅の長年の支援者である『ぐるなび』の滝久雄会長が音頭を取り、JR東日本をはじめ、菅さんと縁の深い企業を番組のイベントスポンサーにつけています。そのつなぎ役として長男の正剛君が送り込まれた。そう見ていいのではないでしょうか」(官邸関係者)

これはようするに、菅首相と癒着企業がある種の利益共同体を形成し、長男を迂回させるかたちで便宜供与や癒着ビジネスを行っていた可能性が出てきたということではないか。

よくもまあ「息子は別人格」などといえたものだが、ともかく、今回判明した東北新社への便宜供与、菅首相による2009年の“口利き疑惑”、そして「ぐるなび」滝会長もからむ問題について、さらなる追及が必要だ。繰り返すが、問題の本質は官僚への接待ではなく、その上に立つ菅首相の「官僚支配」「政治の私物化」にほかならないのだから。
(編集部)

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