鉄道事業者、どう稼ぐ? 経営支える駅ビルなどの関連事業 ポップアップ店舗をはじめ新しい取り組みも

JR東日本は管内全域に171施設ものSCがあります。買い物客は1日当たり約200万人。鉄道利用客が1700万人ですから、8人に1人が駅ビルなどで買物する計算です。

今回は鉄道事業者の関連事業を考えてみましょう。読者諸兄には、「駅ビルや駅ホテルは興味の外」という方もいらっしゃるでしょうが、実は最近のニュースでも、JR新大久保駅の「フードラボ」、JR川崎駅西口開発の「KAWASAKI DELTA」、JR貨物駅の大型物流施設「レールゲート」などは、ジャンル的には関連・開発事業に入ります。

本稿をご覧の方には就活中の学生さんもいらっしゃるでしょうが、鉄道会社が求めているのは鉄道に詳しい人でなく、実は「ファッションやグルメに興味を持つ人材」だったりします。ここでは鉄道会社にとって、なぜ関連事業が必要なのか、コロナの現在はどんな状況なのかを紹介して、本稿限定の〝駅ビルチャンネル(?)〟にお許しをいただきたいと思います。

JR東日本の関連事業は全収入の3分の1

最初に、鉄道会社にとって関連事業収入は全収入のどの程度の割合なのか。東京メトロの完全民営化を話し合う国土交通省の専門家委員会に、JR東日本と関東私鉄大手5社の2019年度収入シェアの資料が出ています。

JR東日本は鉄道事業67.7%、関連事業28.8%、東急電鉄の親会社の東急は鉄道18.3%、関連87.0%(合計100%超です)、東武鉄道は鉄道59.8%、関連39.1%、小田急電鉄は鉄道32.3%、関連53.8%、西武ホールディングス(HD)は鉄道28.8%、関連51.2%、東京メトロは鉄道88.0%、関連11.9%。

ここでは単純化して鉄道と関連に区分しましたが、実は「関連事業」と表記する鉄道事業者はありません。JR東日本は「流通・サービス事業、不動産・ホテル事業」、東急は「不動産・ホテル事業、生活サービス事業」と呼びます。現在の鉄道事業者は「本業が鉄道、駅ビルやホテルは関連事業」の感覚は全くなく、鉄道と駅ビルは同格なのです。

もう少し数字を眺めれば、新幹線の「はやぶさ」「かがやき」をはじめ、1日当たり1万2000本もの列車を走らせるJR東日本でも、鉄道の売り上げは3分の2(区分は運輸業でJRバスも含まれるので、鉄道の割合はもっと小さい)。東急に至っては鉄道(交通事業)は2割に届かず、「貴社は一体何の会社?」と、思わず突っ込みを入れたくもなってしまいます。

鉄道以外で稼げ稼げ!!

鉄道のシェアを下げて、関連事業のウェイトを上げるのが、多くの鉄道事業者にとっての経営の方向性です。コロナで浮き彫りになりましたが、鉄道は施設とか車両とか電力とか、持っているだけで巨額の費用が掛かります。経営の教科書には、「固定費の割合が高い」と書いてあります。将来性でも、現在の日本は人口減少社会に入り、これから鉄道の利用客が大きく増える可能性はほとんどありません。

多くの鉄道会社にとって、「鉄道単体は収支ぎりぎり。関連事業で稼ぎます」が実態なのです。21世紀の鉄道事業者を支えるのは、鉄道でなく関連事業だったりします。

鉄道事業者は、関連事業でも一般の流通事業者の一歩先を行く優位性があります。それは、多くの人が利用する「駅」という立地の良さがあるから。さらに、多くの事業者が乗り出す沿線の不動産開発は、鉄道の利用増に相乗効果をもたらします。JR西日本やJR九州、西日本鉄道、相鉄ホールディングス(相模鉄道)のホテルなど、最近は沿線外に進出する事業者も珍しくありません。

駅ビルはディベロッパー

パネルディスカッションに参加した山口JR西日本SC開発(左)、森本ルミネ(右)の両社長。中央は「ららぽーと」を運営する三井不動産の若林瑞穂執行役員・商業施設本部副本部長。

今回、関連事業を取り上げたのは、日本ショッピングセンター協会(SC協)の45回目の全国大会が最近、オンライン開催されたからです。流通・小売業は百貨店、スーパー、コンビニエンスストアとさまざまで、それぞれ業界団体があります。ショッピングセンター(SC)は、ディベロッパー(大家)が建物を建ててテナント(店子)を誘致。テナントが商売する営業スタイルで、駅ビルはほとんどがディベロッパーです。

鉄道事業者はSC協の主力メンバーで、清野智会長はJR東日本の社長・会長を務めました。全国大会では、多くのセミナーが開催されましたが、その中からJR西日本SC開発の山口正人、ルミネの森本雄司の両社長がパネリストを務めた「コロナで変わるSCの方向性~リーディングカンパニーの変革から明日を読む~」を聴講しました。2人はJR西日本、JR東日本で要職を歴任し、現在は駅ビル経営に携わっています。

都心の駅ビルは苦戦、住宅地最寄りの郊外は堅調

ルミネは首都圏をエリアに、社名と同じ「ルミネ」と、ライフスタイル型駅ビル「NEWoMan(ニュウマン)」合計15店を運営します。ライフスタイル型駅ビルとは、一つの店舗にファッションと雑貨など複数のジャンルの商品を置くショップのこと。コロナの影響は人出の減った都心店に大きく、山手線の新宿や有楽町(旧有楽町西武)は、2020年4~5月の緊急事態宣言時は売り上げが前年の4割程度に落ちましたが、現在は6~7割まで回復。周辺に住宅がある郊外の大宮や立川は影響が小さく、8~9割まで戻っています。

JR西日本グループのキャッチフレーズは「駅からまちへ、その先へ」。旗艦2施設の最寄り駅1日利用客数はJR大阪駅が237万人、天王寺駅が76万人です。

JR西日本SC開発は大阪駅の「ルクア大阪」と天王寺駅の「天王寺ミオ」が旗艦店で、部門別売り上げの前年比は「生活サポート」95.2%、「ビジネス・観光」60.4%。数字で分かるように、緊急事態宣言を受けたビジネス出張や観光客減少に大きな影響を受けます。

両社長は、「売り上げが都心から居住圏のSCにシフトしている。厳しい状況にあることは間違いなく、今はディベロッパーとテナントが力を合わせて耐える時期」と話していました。

退店スペースを埋めるポップアップ店舗

駅ビルのテナントは比較的優良店が多いのですが、時節柄やはり退店する店舗もあります。そういえば最近、大型スーパーに行ったりすると、ぽっかり空いた店舗スペースで買い物客が休憩したりしています。

こんな時に役立つのが「ポップアップ店舗」。空きスペースに突然店が出現し(ポップアップ)、一定期間で突然消えてしまう。イギリスが発祥だそうで、最近日本にも登場。駅ビルでも見掛けるようになりました。

飲食版のポップアップ店舗が「シェアレストラン」で、正式なテナントとして駅ビルに入居するのでなく、空きスペースの厨房を利用して一定期間料理を提供します。ポップアップ店舗やシェアレストランは、小売り・飲食業界のいわば〝お試し店〟。屋台やキッチンカーから、一流レストランとして名を成した店があるように、〝金の卵〟が隠れているかもしれません。

ウィズコロナ時代の流通プラットフォーム

SC協全国大会には、こんな楽しい動画も。ルミネ有楽町店の店員が撮影したミニファッションショーで、画面が縦長なのはおそらくスマホで撮影したからでしょう。

最後に、私が「鉄道と駅ビルは似ているな」と感じた点。それは「リアル(現実)で商売する」ことです。こういうご時勢ですから、駅ビルもネットショッピングに乗り出していますが、ネットで売るのはテナントが取り扱う商品。「今回はネットでも、次はぜひ来店してほしい」の思いが込められ、「注文はネットで、受け取りは実店舗で」の〝ハーフネットショッピング〟にも力を入れます。

パネルディスカッションの締めくくりで、両社長は「お客さまとテナントを結び付けるのが、ディベロッパーとしての駅ビルの役目。ウィズコロナ時代の新しい流通プラットフォームを、駅ビルから発信したい」と話していました。

SC協全国大会では、数多くの鉄道事業者がネット上にブース出展していました。写真では代表3社を紹介しています。

JR東海のブースはバーチャルでも目を引きます。「東京―新大阪間の主要駅にて、魅力ある商業施設を運営しています」と広域性をアピールします。

文/写真:上里夏生(全てSC協全国大会の画面を撮影)

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