リアルな金魚を描く 現代美術家・深堀隆介さん 長崎県美術館で12日から作品展

オンラインで展覧会や長崎について語る深堀隆介さん

 生きているようなリアルな金魚を描く現代美術家、深堀隆介さん(48)の作品展「深堀隆介展『金魚鉢、地球鉢』」(長崎新聞社、県美術館主催、西日本シティ銀行・長崎銀行特別協賛)が12日、長崎市出島町の県美術館県民ギャラリーで開幕する。会期は4月18日まで。初公開となる新作インスタレーションをはじめ、升や椀(わん)、骨董(こっとう)机の引き出しの中など、あらゆる空間にたゆたう金魚を表現した大小の作品約300点が並ぶ。開幕を前に、深堀さんにビデオ会議システムで見どころや思いなどを聞いた。

-金魚を描くようになったきっかけは。
 子どもの頃から釣りが好きで、魚や水面にあこがれがあった。美術大の卒業制作で、魚をテーマにしたオブジェを手掛け、高評価を受けた。約5年後に、作家として制作に取り組み始めたが、1年で行き詰まった。魚の作品で酷評を受けることも。自信を失い、作家を辞めようと思った時に、飼っていた金魚に目が行った。真上から見たときの金魚の美しさに気付き、「これが自分のアート」と直感。金魚しかないと思った。

-展覧会の見どころは。
 金魚を描き始めて約17年。技法を日々研究してきた。(透明樹脂を何層も重ねながら描いていく)独自の技法「2.5Dペインティング(積層画法)」の変遷、技術の向上を見てもらいたい。過去に海外で展示した作品や、樹脂以外で金魚の表現に取り組んだものも並ぶ。新作インスタレーションは、自分が今までやったことのない感覚で挑戦したもので、金魚すくいの屋台がモデル。去年は新型コロナウイルス禍で、多くの夏祭りが中止になった。日本の文化である金魚すくいの屋台がある世界に浸ってほしい。

-コロナ禍での開催。
 美術館は、騒ぐ場所でも、抱き合いながら作品を見る場所でもない。感染防止対策をしっかりやれば、鑑賞していいと思う。今はリモートなど画面で鑑賞できるが、本物を直接見ることとはまったく違う。本物からは作家の気持ちが伝わってくる。パワーを感じてほしい。

-大伯父が「長崎の鐘」で知られる被爆医師の故・永井隆博士であるなど本県とゆかりが深い。
 子どもの頃、祖父母がいる長崎によく来ていた。現在、弟や親戚も長崎に住んでいる。第二の古里で自分の仕事を見せることができるのでうれしい。芸術を目指すようになったルーツは長崎。永井博士の弟にあたる祖父は絵を描くのがうまかった。芸術をやりたいと思ったのは祖父の影響が大きい。すでに祖父は亡くなっているが恩返しをしたい。

 -開幕前日の11日で東日本大震災は10年。同展には、津波で亡くなった福島県の児童の遺品に金魚を描いた作品のドキュメント映像などもある。
 放射能や核は過去のことだと認識していた。現代でも被爆や汚染などに直面するとは思っていなかったので恐怖を感じた。当時は、どうしていいのか分からず、絵や芸術は何の役にも立たないと痛感した。その後、福島で展覧会を開く機会があった。想像以上のたくさんの人が来場。児童の遺品で制作した作品をお父さんたちに渡したら笑顔になってくれた。この時、作品を制作する意味があると思えた。震災で作家の原点について考えさせられた。けがや病気は治せないが、自分の作品で癒やしを与えたいと思っている。

【略歴】ふかほり・りゅうすけ 1973年愛知県生まれ。同県立芸術大美術学部デザイン・工芸専攻学科卒業。99年からアーティストとして活動。透明樹脂に直接絵を描く新しい絵画技法「2.5Dペインティング(積層画法)」を考案し、金魚の作品を制作し続ける。国内にとどまらず米国や英国、ドイツなど海外でも個展を展開。2018年、自身初の公立美術館での回顧展「平成しんちう屋」を開催。横浜美術大客員教授、愛知県弥富市広報大使。神奈川県在住。

「金魚酒 命名 出雲なん」2019年(提供)

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