先輩から後輩へ繋ぐ想い 吉田えり、加藤優、甲斐綾乃が女子野球教室を開催

参加者に分かりやすく、かつ熱心に技術指導する吉田選手【写真提供:横浜DeNAベイスターズ】

DeNA主催「女子野球選手向け野球教室&トークショー」に約40人の小中学生が参加

近年、子どもたちの野球離れが進む中、着実に競技人口を増やしているのが女子野球だ。いまや、小学生から男子と同じチームでプレーする女子選手の姿は珍しくない。一方で、中学や高校に進学する際、野球を続けるか、ソフトボールに転向するか、進路で頭を悩ませる女子選手が多いのも事実。そんな女子選手と保護者のサポートを願い、2月20日、DeNAが「女子野球選手向け野球教室&トークショー」を開催した。

会場となったのは、ファームの拠点「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」屋内練習場。講師を務めたのは、ナックルボーラーとして男子球界でも活躍した吉田えり選手(エイジェック)、ベイスターズのベースボールスクールコーチを務めながら、今年からアマチュア球界に復帰した加藤優選手(GOODJOB)、ベイスターズジュニア出身で現球団職員の甲斐綾乃さんの神奈川県出身の3人だ。

第1部(小学生)と第2部(中学生)に分かれて行われたイベントには、野球またはソフトボールのチームや部活動に所属する小学1年生から中学3年生までの女子選手約40人が参加。投球(吉田選手)、打撃(加藤選手)、守備(甲斐さん)の各セッションをローテーションしながら、憧れの“先輩”から技術指導を受けた。小学生高学年や中学生になると高い技術を持つ選手も多く、3人の講師が驚く場面も。各セッションの終わりには質問コーナーも設けられ、子どもたちは日頃抱いていた疑問や悩みを解決するヒントを得た。

選手向けの技術指導と同時に開催されたのが、保護者向けのトークショーだ。男子球界の中で道を切り拓いてきた吉田選手、ソフトボールに加え女子プロ野球とアマ野球の経験を持つ加藤選手、ベイスターズジュニアでは松井裕樹投手(楽天)と同期ながらエース番号を背負い、大学まで硬式野球を続けた甲斐さん。女子野球界を牽引してきた3人ではあるが、歩んできた道は違う。それぞれの体験を踏まえながら、野球を続ける楽しみ、厳しさ、進路選択をした背景など、経験者にしか語れない貴重な情報を保護者に伝えた。

自身の経験を踏まえ、保護者の疑問に答える加藤選手【写真提供:横浜DeNAベイスターズ】

子どもたちに伝えたい「目標を持つことの大切さ」

3人のメッセージに共通しているのは、「目標を持つことの大切さ」だ。例えば、加藤選手は高校時代に一時ソフトボールをプレーしたが、「女子日本代表になりたい」という目標を持っていたため、野球に再転向した。同じく甲斐さんも「野球で日本代表になりたい」という目標を持ち続け、中学ではクラブチームで硬式野球を続け、女子硬式野球部がある高校、大学に進学した。何を目標に掲げるかによって、その道筋は自ずと見えてくるようだ。

女子を取り巻く野球環境も整いつつある。加藤選手は地元で中学生に野球を指導する父のチームでは「女子野球部のある高校が増えてきたので、野球をやりたいけどソフトボールに行かなければならない子は徐々に減っているように思います」と話し、こう続ける。

「企業チームが増えているし、NPBのユニホームを着てプレーができるチームもある。私個人としては(NPB球団が)ゆくゆくは女子のプロ野球チームを作ってくれるんじゃないかと期待しています。今の小中学生が大人になる頃は、もっと環境が良くなっていると勝手に期待しています」

コロナ禍のため久しぶりの野球教室に参加した吉田選手は「自分が小学生の時は(女子は)本当に1人、2人という感じ。こんなにたくさんの女の子を見るだけで『ウワッ!?』と胸が熱くなります」と、集まった“後輩”たちの姿に笑顔を見せる。日米独立リーグで男子選手と一緒にプレーし、2017年に入団したエイジェックで女子野球に復帰。男子チームでプレーする楽しさもあったが、女子チームならではの良さを感じているという。

「男子の中でチームメートに恵まれた部分は大いにあったんですけど、思春期になるとどうしてもちょっと遠慮しちゃって(笑)。女の子同士だったらその壁もなく、思いきりハイタッチしやすいですよね。私自身、4年前から女子野球に来て今、野球が本当に楽しいので、もっともっと女子野球チームが増えていってほしいと思います」

プレーし続けることで生まれる女子野球の発展「どこかでまた会えると思う」

さらに、自身の体験を踏まえながら、野球を続けることの大切さを説く。

「私が17歳で独立リーグに入ったことを中学生の時に見ていた選手が今、一緒のチームにいるんですけど、『パワーをもらって野球を続けていました』って言ってもらえたんですね。そう考えると、今日来てくれた女の子たちが将来、一緒のチームになったり、対戦相手でいたりということもある。続けていたら、どこかでまた会えると思うし、続けることが女子野球の発展や広がりに繋がる。今の小学生たちが大きくなるまでに、もっともっといい環境が整えられるように、女子野球の発展や普及活動を続けていきたいと思います」

2019年からDeNAが運営するベースボールスクールで講師を務める甲斐さんも、普段から子どもたちと接する立場として、続けていくことの重要性に触れた。

「野球を好きだということは、この先、野球を続けていく上で大切なこと。小中学生の時に野球が嫌いになることだけは避けてほしいので、小さい時に野球の楽しさを噛みしめた上で、目標を持って次のステージでも頑張ってもらえたらと思っています。夢や目標を持ちながら続けていってほしいですね」

野球を好きだという気持ちを持って、プレーし続けてほしい。3人の先輩の願いは、この日集まった女子選手、そして保護者の心に届いたはずだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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