働きがいのある人間らしい仕事 「ディーセント・ワーク」とは【SDGs8】

SDGs 目標8「働きがいも 経済成長も」は、私たちにとっても身近な問題、「仕事」に関わるテーマです。日本国内では、非正規雇用問題、男女間格差、過労死、ブラック企業…など、仕事にまつわる社会問題が噴出しています。これらを放置したまま、後世に残すわけにはいきません。

世界に目を向ければ、子どもが労働力として強制されている現実があります。そして、私たちがそれに荷担しているかもしれない、という事実も……。「世界中の人々が、正当な賃金と働きがいを得られる」。そんな世界を実現するための目標が、「テーマ8 働きがいも 経済成長も」なのです。

私たちにできることは、何でしょうか? 事例と合わせて紹介します。

「働きがいも 経済成長も」達成を目指す10の目標(ターゲット)とは?

テーマ8を実現するための、より具体的な目標が、ターゲットです。ターゲットは、国や自治体、企業だけのものではありません。目にしたすべての人のものだと思います。筆者は、8-4、8-5、8-7を「自分のこと」として捉えました。

8-1. それぞれの国の状況に応じて、人びとが経済的に豊かになっていけるようにする。開発途上国、とくに最も開発が遅れている国は、毎年少なくとも年7%の国内総生産(GDP)の成長を続けられるようにする。
8-2. 商品やサービスの価値をより高める産業や、労働集約型の産業※を中心に、多様化、技術の向上、イノベーションを通じて、経済の生産性をあげる。
※労働集約型の産業とは、人の働きによる業務の割合が大きい産業のこと。機械化されていない農業や、人がサービスを提供する仕事など。
8-3. ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を増やしたり、会社を始めたり、新しいことを始めたりすることを助ける政策をすすめる。とくに、中小規模の会社の設立や成長を応援する。
8-4. 2030年までに、消費と生産において、世界がより効率よく資源を使えるようにしていく。また、先進国が主導しながら、計画※にしたがって、経済成長が、環境を悪化させることにつながらないようにする。
※「持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組」のこと。2012年に、二酸化炭素の排出の少ない生活スタイルや社会の仕組みを作ることを目的に採択された計画。
8-5. 2030年までに、若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)をできるようにする。そして、同じ仕事に対しては、同じだけの給料が支払われるようにする。
8-6. 2020年までに、仕事が見つからず、通学もせず、職業訓練も受けていない若い人たちの数を大きく減らす。
8-7. むりやり働かせること、奴隷のように働かせること、人を売り買いすることを終わらせるために、効果的な取り組みを緊急におこない、子どもを兵士にすることをふくめた最悪の形の児童労働を確実に禁止し、なくす。また、2025年までに、あらゆる形の児童労働をなくす。
8-8. 他の国に移住して働いている人、中でも女性、仕事を続けられるか不安定な状況で働いている人を含めた、すべての人の働く権利を守って、安全に安心して仕事ができる環境を進めていく。
8-9. 2030年までに、地方の文化や産品を広め、働く場所をつくりだす持続可能な観光業を、政策をつくり、実施していく。
8-10. 国内の金融機関の能力を強化し、すべての人たちが銀行や保険などのお金に関するサービスを使えるようにする。

「働きがいも 経済成長も」のキーワード 「ディーセント・ワーク」とは

ターゲット8-3と8-5には、ディーセント・ワークという言葉があります。ディーセント・ワーク(decent work)の「decent」とは、「真っ当な、きちんとした」という意味があり、日本では「働きがいのある人間らしい仕事」とされています。

「働きがいのある人間らしい仕事」とは何でしょうか?以下のチェックシートが参考になります。

  • 安定して働く機会がある。
  • 収入は十分(生活し、今後に備えて貯蓄ができる賃金)である。
  • 仕事とプライベート(家庭生活)のバランスが取れている(長時間労働に苦しんでいない)。
  • 雇用保険、医療・年金制度に加入している。
  • 仕事で性別 (女性だから、男性だから)、性自認
    (LGBTi)による不当な扱いを感じることはない。
  • 仕事で身体的、精神的危険を感じることはない。
  • 働く人の権利が保障されていて(組合に入れる、作れる、会社と交渉できる)、職場での相談先がある。
  • 自己の成長、働きがいを感じることができる。

※出典 日本労働組合総連合会

どうでしょうか? 世界中の人々が、ディーセント・ワークを得られたら、こんな素晴らしいことはありません。現実はほど遠いですが、それでも、日本国内で、世界で、素晴らしいビジョンを実現する歩みが進められています。

日本国内における問題と、「ディーセント・ワーク」に向けた取り組み

非正規雇用問題

現在、仕事をしている人の3人に1人は、パート、アルバイト、派遣などの「非正規雇用」と言われています。※1

非正規雇用の人々は、正社員と比較するとさまざまな面で待遇が劣り、大きな社会問題となりました。給料やボーナスはもちろんのこと、福利厚生、休暇、有給休暇、出産・育児休暇の制度など幅広い面で、不利益を被っているのです。

しかしながら、「同じ職場で働いているのに!」と立ち上がった人々が、裁判を起こしました。部分的ではあるものの、勝訴判決が出ることも増え※2、その流れで、2020年4月から大企業で、「同一労働同一賃金」※3 が施工されるようになりました(中小企業は2021年4月から)これは、大きな前進と言えるでしょう。

労働者の権利を知っておこう

「同一労働同一賃金」ガイドラインには、

「同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを示しています。」※4

と記されており、労働者としての自分の権利を知ることができます。ガイドラインに沿った改革が実行されれば、きっと「働きがいも 経済成長も」に近づけることでしょう。

海外における問題と、「ディーセント・ワーク」に向けた取り組み

「このワンピース、1,000円だったの!」

ファストファッションのお店には、魅力的で手頃な価格の商品が並びます。しかし、そのワンピースをつくった人の「顔」に思いを馳せたり、想像したりすることが、筆者にはありませんでした。

世界では、教育も受けられず強制的に働かされている子ども(5〜17歳)が2億1800万人いると言われています。そのうち1億5200万人が児童労働、そのおよそ半数が危険で有害な仕事をしているとの報告もあります。※5

バングラデシュ縫製工場での悲劇

冒頭の話に戻ります。手軽で可愛いファストファッションの裏には、劣悪な環境で働いている衣料労働者が大勢います。

バングラデシュの首都ダッカ近郊にあった「ラナ・プラザビル」も、労働者がひしめき合う縫製工場でした。しかし2013年、ビルが崩壊し、1,100人以上もの方が命を落としたのです。

ラナ・プラザビルには、ヨーロッパの大手ファッションメーカーが多く入っていました。事故の原因は、利益を最優先するために安全管理を怠っていたこと。人権侵害も問題視され、世界中から非難が集まりました。

「ラナ・プラザ」の悲劇を機に、世界中の消費者から「ファッションの透明性」を求める声が相次いでいます。アパレル業界の動きはまだ鈍いものの、強制労働者の「働きがい」を守る機運は、確実に高まってきています。※6

カカオ豆農家は、チョコレートの味を知らない

大人も子どもも大好きなチョコレートにも、悲しい現実が潜んでいます。チョコレートの原材料であるカカオ豆は、生産に多くの労働力が必要です。そのため、子どもが駆り出されるのが日常となっています。

刃渡りの大きなナタで土地を開墾したり、大容量のカカオ豆を頭に乗せて運搬したりといった危険な労働も、子どもがおこないます。その上、教育を受ける機会も奪われているのです。最悪の事例は、子どもが家族と引き離されて、労働者として売買されること。これは重大な人権侵害です。

そして、カカオ農家の人々の大半は、チョコレートを口にしたことがありません。※7

子どもが労働力として過酷な状況にあることを、世界は見逃しませんでした。

現在は、世界各国の多くの団体が、カカオ豆農家の支援に動いています。その一つが、カカオ豆の栽培からチョコレートの販売までを一括で行う「ビーントゥバー(Bean to Bar)」。カカオ豆を正当な金額で購入し、カカオ豆の質も、農家の生活も向上させる仕組みです。まさに「働きがいも 経済成長も」を両立させる取り組みといえます。

その他、

  • コットン(綿)
  • レアメタル(携帯電話などに使われる希少金属)
  • コーヒー
  • 紅茶
  • サッカーボール

などで、児童労働が報告されています。

私たちにできること

SDGs目標8「働きがいも 経済成長も」を達成するために、できることは何でしょう。

  • 声を上げる!

自分の職場の制度に納得がいかない時、会社の方針に疑問を抱いた時、声を上げる勇気を持ちましょう。声高に叫ばなくても、ソーシャルネットワークでシェアするだけでも、立派な活動です。

  • 「買い物は投票」という意識をもつ

買い物は、投票です。「購入することで、そのものへの支持を表明している」のです。ファストファッションブランドで1,000円のワンピースを購入したら、あなたは「強制労働に賛同している人」ということになります。

そのような意識をもつと、買う物が変わります。買う物が変わると、経済はきっといい方向へ回り始めます。手に取ったその商品がどのような経緯をたどってきたか、子どもと一緒に調べるのも有意義な作業になると思います。

SDGsのテーマ12「つくる責任 つかう責任」にも通じることです。ネットで検索すれば、SDGsに真剣に取り組んでいる企業が見つかります。自分が賛同できる企業の商品を選びたいですね。

国際連合広報センターには、「持続可能な社会のために、ナマケモノにもできるアクション・ガイド」という項目があります。

持続可能な社会のために ナマケモノにもできるアクション・ガイド(改訂版) | 国連広報センター

自分にできることを、続けることが大切です。

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