パウエルFRB議長「金利上昇に慌てない」、足元相場から導かれるドル円予想は?

2月25日に米10年債利回りは、一時1.6085%まで急上昇していました。昨年12月31日の終値レベルが0.9132%、1月29日の終値レベルが1.0655%であったことを考えると、2月に入ってからの米長期金利上昇は目を見張るものでした。

市場の注目が米インフレ懸念、米長期金利上昇に向いていることで、3月1日~5日の週は米2月雇用統計よりも、米FRB(連邦準備理事会)当局者の発言が重要視されることとなりました。

今回は、注目された米FRB当局者の発言を確認し、原油先物市場、米2月雇用統計結果から、今後のドル円相場を予想します。


米長期金利が急激に上昇した理由

米長期金利の急上昇、その背景にあるものは、原油価格や農産物、資源価格の上昇です。米経済回復に対する先行き楽観論のみならず、世界経済回復期待が、いわゆる商品価格を上昇させてきました。

また、米国の製造業景況感指数に含まれる仕入価格指数の上昇を見ると、昨年後半からのほぼ一本調子の上昇が見てとれます。インフレ懸念あるいは期待インフレ率の上昇が、米長期金利を急速に押し上げてきました。

米当局者が相次いで発言

3月1日~5日の週に相次いだ現状の米長期金利上昇に関するFRB当局者の発言をみてみましょう。

● 2021年3月1日 日本時間19:30 バーキン米リッチモンド連銀総裁 発言
「米国の景気回復に伴い、短期的なインフレ率上昇を予測してはいるが、時間をかけて当局の目標水準へ向かうと確信している。景気には地平線上の夜明けが見える。非常に健全な春と夏を期待している。債券利回りの上昇については、景気見通しが強まっていることを考えれば驚きはない」

● 2021年3月3日 日本時間4:00 デーリー米サンフランシスコ連銀総裁 発言
「前回の景気回復局面では失業率が非常に低い水準だったにもかかわらずインフレ率は低く抑えられていた。米金融当局が新たな金融政策戦略を実施するには忍耐が必要になる。われわれは労働市場が達成し得ることを継続的に見直し、多くの国民が恩恵を受ける機会を手にする前に先手を打って金融政策を引き締めるのは回避する必要がある」

● 2021年3月4日 日本時間5:00 エバンス米シカゴ連銀総裁 発言
「米長期金利の上昇については心配していない。金利上昇は実体的な要因によるものだ。ワクチン接種が拡大しているようで、誰もが大幅な迅速化を望んでいる。順調に進んでいると思われ、このため、成長はさらに大きく回復に向かうはずだ。また、市場参加者は先週の米長期金利の上昇スピードに注目しているように見えるが、より長期的な視点を持つことが重要だと感じている。経済が非常に好調だった新型パンデミック流行前の1年前の状況と比較すると長期金利まだ低い」

● 2021年3月4日 日本時間5:17 ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁 発言
「金利に影響を与える数多くの手段がわれわれにはある。イールドカーブ・コントロール(YCC)のようなことも可能だ。これら全てが議論されており、どれも排除するつもりはないが、今の段階では現状維持に強くコミットしている。インフレが制御不能となる事態は望ましくないが、現時点ではその兆しはない。インフレ率が非常に急速に2%を突破する兆候は見られない」

● 2021年3月5日 日本時間2:08 パウエル米FRB議長 発言
「今年から来年にかけてインフレ率が上昇する可能性があるが、一時的なものだろう。一過性のインフレ加速に対しわれわれは慌てない。2%の平均物価目標の到達には時間がかかる。市場が秩序のない状況になれば問題視するだろう」

● 2021年3月6日 日本時間2:05 カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁 発言
「実質利回りにはあまり大きな動きが見られていない。動きの大半はインフレ期待またはインフレ補償において起きている。インフレ連動債(TIPS)市場と名目市場の両方を含めた米国債市場の最近の動向は、当局の枠組みがわれわれの希望通りのものを提供していることを示唆する」

● 2021年3月6日 日本時間2:09 ブラード米セントルイス連銀総裁 発言
「米国債10年債利回りの上昇は米景気回復への期待感を示している。利回りはまだかなり低水準にあり、懸念する水準まで達していない。政策面での行動も必要としない。利回り上昇の大部分は非常に自然なことだ」

「現時点でツイストオペの選択肢はないと思う。非常に強い米経済見通しと既に緩和的な金融政策がその理由だ。従って何らかの行動を起こして、現状よりさらにハト派的になる必要があるという状況には達していない」

(以上、各種報道より発言要約は大和証券作成)

このように見ていくと、多くのFRB当局者が現状の米長期金利上昇を静観するスタンスであるように思われます。

最も注目されたパウエルFRB議長の「一過性のインフレ加速に対しわれわれは慌てない」との発言が出た後、米10年債利回りは1.50%を軽々と上抜けて1.55%レベルまで上昇しました。

予想外のOPECプラス会合結果

米長期金利上昇に拍車をかけた材料として、3月4日に開催されたOPEC(石油輸出国機構)プラス会合も挙げられます。

事前の観測では、サウジアラビアが4月以降自主減産をやめ、また、日量50万バレル程度の増産が認められるとされていました。しかし、前日の3日の一部報道で「関係者によるとサウジアラビアが自主減産を継続」と報じられ、そこから原油先物価格は上昇します。

実際のOPECプラス会合でもサウジアラビアの4月以降日量50万バレル増産は否決され、日量1百万バレルの自主減産を維持すると発表されました。原油先物価格は週末にかけてさらに上昇し、この動きも米長期金利上昇を支える結果となりました。

予想より強い米2月雇用統計

では次に、2月の米雇用統計結果を確認しておきましょう。米10年債利回りは週初の1.40%から1.58%まで上昇し、ドル円も週初の106.50から108.50まで上昇して3月5日の米2月雇用統計発表を迎えることになりました。

結果は予想以上に強い内容となりました。2月の非農業部門雇用者数が予想より上昇していたことに加え、1月分も大幅に上昇修正されました。

この予想より強い米2月雇用統計発表直後に、米10年債利回りは1.6238%まで上昇し、ドル円も108.64まで高値を伸ばしました。しかし前述したように、週初から米10年債利回りもドル円も上昇してしまっていたため、予想より強い米2月雇用統計直後の反応は長続きせず、NY時間の取引終了時には週末のポジション調整、利食いの動きとなって、米10年債利回り上昇もドル円上昇も一服との結果となりました。

週明けの米原油先物価格は地政学的リスク(イエメンのイスラム教フーシ派によるサウジアラビア原油生産施設へのミサイル・ドローン攻撃)でさらに上昇しています。米経済回復への期待はさらに強まっている状況を考えると、目先のドル円は1ドル110円方向に上昇することも予想されます。

市場参加者の大半は1ドル100円割れ、1ドル90円台定着を予想していたと思われるため、ドル円が上昇すればするだけ「踏み」(ショートカバー)が強まる可能性もあります。ご参考までに、昨年末での筆者の予想は下記の通りです。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>

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