アーチェリーの山本博先生が緊急提言「選手村で配布するならコンドームよりマスク」

オンラインで取材に応じた山本氏

窮地を打開できるのだろうか。東京五輪開幕が4か月後に迫り、新体制となった大会組織委員会は観客や聖火リレー、ボランティアなど多方面の調整に追われている。ただでさえ時間がない中で、新型コロナウイルス禍で開催そのものへの批判もやまない。アーチェリー男子個人の五輪2大会メダリストで組織委顧問を務める山本博氏(58=日体大教)は本紙の取材に「いち早く無観客開催の決定を」と緊急提言。さらには選手村で配布予定の“夜のアイテム”にまでメスを入れ、五輪の現状をぶった斬った。

新型コロナ感染拡大の第3波は下降線をたどりながらも感染者数は下げ止まりで、1都3県の緊急事態宣言は延長期間に突入した。国内ではJリーグが開幕し、プロ野球もオープン戦を実施するなどスポーツ界は感染予防に努めて稼働しているが、東京五輪の“支持率”はなかなか上昇気配にない。

山本氏(以下、山本)僕の肌感覚では(五輪に否定的な意見は)一定数じゃないな。そもそもスポーツに理解のある人が半数、スポーツよりも音楽、映画、演劇が好きという人が半数いて、スポーツが好きでも「あと4か月で五輪をやっていいの?」という人がいる。そうなるとトータルで7割の人が否定的なんじゃないかなと。

森喜朗氏(83)の“舌禍”に端を発した組織委トップの交代劇で橋本聖子新会長(56)が就任。新体制は女性理事を増員して第一歩を踏み出したが、25日のスタートを控える聖火リレーは辞退者が相次いでいる。

山本 聖火リレーは一都市のイベントを国全体を巻き込む大切なセレモニーだから。本来であれば芸能人を利用したかったんだろうけど、あくまで僕の臆測では芸能人もイメージが上がるのか、下がるのか考えると思う。そうしてリサーチした中で、協力しないほうがいいと判断したんでしょう。(ボランティアのキャンセル続出では)日本人はある意味、途中で投げ出さない人たちばかりだから、先に辞めるという判断はよかったと言えるかも。予定通りの五輪は応援できるけど、今は応援する対象ではないと。だから森さんの発言はそういうのを引き出すきっかけになったと思うけど、森さんの発言がすべてだとは思っていない。

一方で山本氏は昨年5月の本紙インタビューで「無観客開催では意味がない」と発言していたが、コロナ禍での生活を通して考えが180度変わったという。

山本 スポーツをやる人、支える人、見る人。この三位一体がスポーツの原理原則だから昨年5月には外せなかった。僕が(2004年アテネ五輪で)銀メダルを取ったときも拍手や歓声を上げてくれて、やはり観客は大事だなと。でも、1年たてば何とかなると思っていたんですが、読みが完全に甘かった。現実的に7月に観客を入れてというのは無理なんじゃないかと。

その上で無観客開催のアナウンスは「一日でも早く」と語気を強める。

山本 無観客が決定した瞬間、現場で働く組織委の方々は一気に仕事の負担と不安が解消され、選手は安心できる。たとえ親兄弟が来れなくても開催してくれるならやむなしと思うはず。都市ボランティアの方々も一気に不安が減るし、聖火リレーを安全にスタートするためにも早く決定すべきなんだよ。無観客ということはそれだけ覚悟が決まったということだと思うから。それとも五輪を目当てに新しくホテルを造ったところは大打撃だが、そういう人たちを気遣って遅らせているのか、判断できないのか…。

かねて話題となっている選手村で配布される16万個のコンドームについても疑問を投げかける。

山本 アレ、まだ配ってるの? エイズが世界で問題になっていた(1988年)ソウル五輪のときから配布が始まったけど、はっきり言ってもう時代じゃない。選手たちも昔より洗練されて“野獣”じゃないような人たちの集団だと思うけど。体罰やスポ根も卒業してね。日本にも有数のコンドーム会社があるからいろいろ約束事があるのかもしれないけど、それよりもマスクを配るべきだよ。その予算で日本の技術を結集して「N95」よりもレベルの高いマスクを研究開発して「選手、役員、ボランティアに必ず配布します」と発表すべきなんだよな。

「中止の不安はまだある」(山本氏)という中で、時間は限られる。海外からの観客の受け入れについて「3月中に判断を行う」(橋本会長)などと悠長なことを言っている場合ではないのは確かだろう。

また、山本氏は不倫疑惑を報じられた卓球女子で五輪2大会メダリストの福原愛さん(32)についても言及した。福原さんと夫でリオ五輪卓球台湾代表の江宏傑(32)の結婚式に出席した山本氏は「報道内容が本当かどうか分からない」とした上で「子供が2人いらっしゃるじゃないですか。こうした報道が出た以上は、お子さんが傷つかないように、悲しくならないようにしてほしいなと」と話す。福原さんは17年10月に第1子の長女、19年4月に第2子となる長男が誕生している。不倫疑惑騒動も終息の気配が見えない中で、山本先生のメッセージは届くか。

☆やまもと・ひろし 1962年10月31日生まれ。横浜市出身。中学1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日体大在学中の84年にロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得するなど五輪5大会に出場。アテネでの20年ぶり五輪メダル獲得は「中年の星」として注目を集めた。ニックネームは「山本先生」。現在は現役選手として活動しつつ、日体大教授、東京都体育協会会長、東京五輪大会組織委員会顧問会議顧問など多方面で活躍中。

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