2月の米国寒波、テキサスだけが大惨事の理由

電力自由化の果てに、40人以上が犠牲

©株式会社全国新聞ネット

米南部テキサス州で、寒波によって凍り付いた道路標識=2月18日(ゲッティ=共同)

 米国の中でも、テキサス州はエネルギー産業の中心地として知られる。ところがそのテキサス州で2月中旬、記録的な寒波とアイスストームにより設備が凍結して電力供給能力が著しく低下した。州全土が完全な停電に陥るまであと4分37秒という際どい事態に。なんとか免れたものの、400万世帯以上が数日にわたり停電した。人々は暖房を失い、少なくとも40人が死亡する大惨事となった。

 州政府は共和党のブッシュ元大統領が知事の時代に電力自由化を実現するなど、独自の政策を推進してきた。地球温暖化に伴う気候変動の脅威に懐疑的で、エネルギー施設や供給網の防寒対策を義務づけてこなかった。同じ寒波に見舞われた隣接州ではこうした被害はほとんど起きていない。惨事を招いた真の原因は何だったのか。(テキサス州ダラス在住、ジャーナリスト=片瀬ケイ)

寒波は南部のテキサス州を含め内陸部を広く覆った。紫色の部分が数日にわたり氷点下が続いた地域を示す。(米国立海洋大気庁提供)

 ▽大失敗の計画停電

 冬になると北極からの寒気は米国内陸まで流れ込むことがある。冬の平均最低気温が5度のテキサス州でも、2月の寒波では、ダラス市で14日から数日間、日中も氷点下を脱しなかった。15日の朝には「電力消費抑制のため、15分から45分程度の輪番停電を計画的に行います。停電が45分以上続くようなら連絡を」という緊急メッセージが、州の電力網を運営する電気信頼性評議会(ERCOT)から流れてきた。

 ところがその後「数時間たっても停電したまま」というツィッター投稿が増え始めた。昼ごろには「15分から45分」という説明が消え、午後には「復旧時期未定」というメッセージに変わった。その夜、ダラス市では氷点下13度まで気温が下がった。明け方、パンという大きな音がした。家の水道管が凍結破裂した音だった。外の気温は氷点下16度だった。

 筆者の家は停電を免れた。が、通りを隔てた向かいの家々は停電していた。テレビに映し出されたヒューストン市では、企業や富裕層が入居する中心部の高層ビル群は明かりがついているのに、その裾野の住宅地は真っ暗。「輪番制のはずが、一旦停電した家は長時間停電しっぱなし。一方で、まったく停電しない地域があるのはなぜだ」。怒りの声も上がりはじめた。

2月20日、米テキサス州の停電した自宅で、ろうそくに火をともす住民(ロイター=共同)

 道は凍結し、停電で開いている店も少ない。暖房を失った人は、室内でも2度といった寒くて暗い部屋の中でコートを着込み、毛布にくるまって過ごすしかない。水道管凍結や断水のために、外の雪をコンロで溶かして飲み水にする人もいた。電気が通っていても、壁や天井を通る水道管が凍結破裂し、居室が水浸しになる住宅も多数あった。

 何千人もの人が低体温症や一酸化炭素中毒で病院に運ばれた。車の中で暖をとろうとして一酸化炭素中毒で死亡した親子、自宅で椅子に座ったまま凍死した高齢者、壁の薄いトレイラーハウスで凍死した子どももいた。

 寒波が過ぎ去った後も、悲惨だった。浄水場のポンプ復旧に時間がかかり、飲料水がない。一部の住民が1万ドル(約108万円)近い電気代請求を受けたというニュースも流れた。

2月16日、米テキサス州オースティンで、寒波の中、食料品を求めて列をつくる人々(Jay Janner/Austin American―Statesman提供、AP=共同)

 ▽地球温暖化疑い、電力自由化に突き進んだテキサス州

 ところが、実はこの寒波でも近隣の州に大規模な被害はほとんどなかった。冬には毎年氷点下続きという北部の州では停電など起きなかった。なぜテキサス州だけがこんなことになったのか。

 背景には、規制を嫌い、民間による自由競争を是とする風土、そして地球温暖化に伴う気候変動を脅威と認識しない共和党的な政策がある。1999年、ブッシュ元大統領が州知事だった時に、電力供給を全面的に自由化した。規制緩和と民間の競争により、消費者の選択肢を広げ、価格を下げることが狙いだった。

 夜間や休日の電気代割引、卸価格と連動した料金体系など、さまざまなサービスが生まれ、自由化の成功例とされてきた。しかし今回は、それが裏目にでた。寒波に伴う電気使用量アップと凍結による供給量急減で電力価格が高騰し、連動型で契約していた約3万の住民は法外な電気料金を請求されるはめになった。

 またテキサス州は連邦政府の監督を嫌い、全米で唯一、独自の送電網を運営している。緊急用のエネルギー備蓄など連邦の規定に従っていない。コストを抑えられるが、供給がひっ迫しても、国内の他の送電網に頼ることはできない。今回の惨事はその結果といえる。

バイデン大統領はテキサス州の寒波被害に大規模災害宣言を発し、2月26日にはヒューストン市を視察した。写真は緊急指令センターでアボット州知事と話すバイデン大統領(ホワイトハウス撮影)

 ▽風力、太陽光発電のせいにした州知事

 共和党が圧倒的に優勢なテキサス州政府、州議会は、イデオロギー的に地球温暖化や再生エネルギーに否定的な傾向が強い。今回の大停電についても、テキサス州のグレッグ・アボット州知事(共和)は、のちに訂正したものの、最初は「風力、太陽光発電が脱落し、州全体で電力不足に陥った。いかに化石燃料が必要かを表している」と、保守系ケーブル局のFOXニュースで説明して批判を受けた。現実にはテキサスの発電エネルギー源は、天然ガスが46%、風力が23%、石炭が18%、原子力が11%で、主に天然ガスのパイプライン凍結と燃料不足により、すべてのタイプで発電所の脱落が起きていた。

 テキサス州は2011年にも、記録的なスノーストームで停電と凍結被害に見舞われている。その際、連邦政府はエネルギー施設の防寒対策を勧告。しかし「ビジネス優遇」による経済発展を重視する同州は、エネルギー産業に緊急事態の際の対処計画を提出させただけで、実効性の確認も監督も行われないままだった。そして費用のかさむ肝心の防寒対策は義務付けなかった。

 2月の寒波を前に、ERCOTは11年をモデルに寒波に備えた。だが、現実には想定を超える大寒波で発電所が次々と脱落し、輪番停電にもかかわらず電力需給バランスが急激に悪化。ギリギリのひっ迫状態があと4分37秒続けば、州全土が完全に停電するという瀬戸際まで達していたことが、明らかになった。

南テキサス原子力発電所。寒波に伴う停電で蒸気発生レベルが下がり、1基は自動停止した。

 さまざまな修繕費用が住民や自治体に重くのしかかり、卸電力価格の高騰で州最大の電力小売事業者は経営破綻した。卸電力価格連動の料金プランを提供していた別の電力小売事業者は、州内での営業を禁じられた。テキサス州知事は送電網運営のERCOTの準備不足と批判し、ERCOT側はインフラの防寒対策など実施権限がないと反論するなど、責任のなすりつけ合いが続いている。

 ERCOTや州の公共事業委員会のトップらはすでに辞任している。今回の惨事は、1組織の責任というより、テキサス州が、安全よりもコスト削減と利益を優先し、気候変動を真摯に受け止めてこなかった結果だと言えるのではないか。テキサス州政府がインフラ整備と気候変動対応への重要性を真摯に受け止め、自由市場主義一辺倒からの政策転換を図らないかぎり、無防備なまま再び大寒波にさらされることになるだろう。