史上最大の定員割れに衝撃 韓国の大学、ついに全入時代へ【世界から】

 3月に入り韓国では新年度が始まった。昨年度は初めから新型コロナの急激な感染拡大によって休校措置が取られるなど、教育現場にとって混乱の1年だった。毎年11月に行われる大学入試の「修能試験」は2週間延期され12月初めに行われた。日本でも報道される韓国の大学入試では、試験を優先するため学校の始業時間を通常よりも遅らせたり、英語のヒアリング試験の時間帯には試験会場に近い空港で飛行機の発着を中断させたりする。まさに「国を挙げての一大イベント」で、韓国の大学入試は過酷だというイメージも持つ方も多いだろう。しかし、それとは裏腹に韓国の大学は現在、地方を中心に深刻な「定員割れ」に直面している。韓国の大学入試の現状について伝える。(釜山在住ジャーナリスト、共同通信特約=原美和子)

韓国の大学入学試験「修能試験」の様子を伝える新聞の一面

 ▽過去最大の定員割れ

 年度末が迫った2月下旬、衝撃的なニュースが伝えられた。地方の四年制大学を中心に定員割れが過去最大となる見通しになったのである。特に筆者が住む第2の都市・釜山では14の大学で定員割れによって計4626人の追加募集が行われているという。私立大学にいたっては定員割れの傾向が近年断続的に続いている。

 定員割れの背景には、日本以上に進む少子化がある。2020年度の高校3年生は約44万5千人で、19年度と比べて約4万7千人減。さらに18年度比では約10万人の大幅な減少となっている。本年度以降も高校生をはじめとする未成年者の減少は続くとされる。

 1995年に大学の設立基準が緩和され、韓国内の大学は急増した。当時は人口に占める未成年の割合が大きかった。少子化の進行に伴い大学の数が過剰になったことも定員割れの要因と言える。

2020年12月3日、韓国・仁川で防護服を着て試験会場に入る受験生(聯合=共同)

 ▽さまざまな選抜方法

 大学への入学には「修能試験」以外にもさまざまな選抜方法が設けられている。「修能試験」以外の大学入学の選抜方法として一般的なのが「随時(スシ)」。日本で言う「推薦入試」に近い選抜方法だ。

 「随時」は「学生簿」という高校3年間の成績・生活記録を中心に行われる選考で、実は受験生の8割がこの「随時」で志願している。学校の成績を3年間保つことに加え、ボランティア活動や資格取得、大会での受賞といった内容が多いほど点数が上がるとされる。部活動が盛んでない韓国では、ボランティア活動が部活動の代わりに「奉仕活動」の一貫として評価される。

 実力勝負の「修能試験」と比較すると楽なイメージもあるが、「随時」で上位大学を目指すために入試コンサルタントに進路計画の指南を依頼することも。大学によって評価の基準などが異なるため親の情報力が結果を左右するとも言われる。

 これ以外にも「随時」で面接や実技を課す大学もあり、形態もさまざまだ。最近では大学入学を希望する社会人を対象とした社会人枠を広げた大学や、「サイバー大学」と呼ばれる通信制大学の存在感も増している。つまり、大学側もあの手この手を使って学生の獲得に奔走し、「えり好みしなければ大学に入りやすくなっている」という現状でもある。

ソウル市内の試験会場の受験生=2020年12月3日(共同)

 ▽ソウル圏の大学へ人気集中

 それでも、韓国の大学入試は非常に厳しいという印象を受ける。「SKY」と呼ばれる韓国最難関の「ソウル大学」、「延世(ヨンセ)大学」、「高麗(コリョ)大学」への入学は依然として厳しく狭い門だ。加えて「In SEOUL(イン ソウル)」という言葉があるほど、ソウルにある大学への進学はステータスになっている。

 また、韓国の受験生たちは「自分が勉強したい学部」よりも「大学の名前」で大学を選ぶ傾向があり、あえて厳しい「修能試験」に挑んでいると言える。ソウル圏の大学を中心に人気が集中し、地方の大学との格差が広がる傾向が、地方大学の深刻な定員割れを引き起こしていると懸念する声も上がっている。

 少子化対策と併せて、大学入試改革も歴代政権下での課題に掲げられてきたが、目立った政策が打ち出されているとは言い難い。このまま少子化が進めば、ソウル圏の大学も決して安泰とは言えない。最悪の場合、廃校を余儀なくされる大学が続出するだろう。

© 一般社団法人共同通信社