河北春秋(3/10):歌舞伎や狂言で、例えば「きょうは殊更に粗…

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 歌舞伎や狂言で、例えば「きょうは殊更に粗略なきよう計らえよ」というせりふがあるとすると、ちょっと間を置いて「…なあ」と付け加える。相手も同じように、何か言った後に「なあ」▼大抵は何か悪巧みの計画があって、計画をほのめかした後に「なあ」と言う。承知したという返答をにおわせて、相手も「なあ」と言えば、合意の成立だ。これが「なあなあ」の始まりだと小池章太郎『芸能語源散策』が言っている▼通信事業者と監督官庁は、なあなあの関係なのだろう。NTTから高額な接待を数回にわたって受けたとして、総務省の審議官が更迭された。同席者も含めて、会食の場では互いに「…なあ」「…なあ」という会話が交わされていたか▼問題の根っこにあるのは、総務省が持つ強大な権限だ。電波の周波数の割り当てだけでなく、事業計画や役員の選出など人事にまで同省の認可が必要だという。関係が深い企業と役所の不透明なつながりは昔からの問題だが▼泥沼に沈み込む様子を表現する言葉に「ずぶずぶ」がある。なあなあで始まった総務省の違法接待問題は、今やずぶずぶの底なし沼の様相を見せている。過去の贈収賄事件の反省に立って制定されたはずの国家公務員倫理法が、まるでザル法だった現実に驚くばかりだ。(2021.3・10)