脱炭素で注目の「銅」先物価格が史上最高値へ、強みを持つ総合商社はどこ?

新型コロナウイルス感染拡大の影響で急落した、原油や銅など資源・エネルギー市況が回復傾向にあります。これは、コロナ禍で急速に落ち込んだ世界景気の回復が継続すると想定していることが背景にあります。

また、米国や欧州、日本など主要国の中央銀行による金融緩和が長期化する見通しであることに加え、米国のバイデン政権による追加経済対策の実施や中国の第14次5ヶ年計画によるインフラ投資の実行など主要国の財政出動のほか、新型コロナのワクチン接種が世界的に進展していることから、今後も資源・エネルギー市況の回復が続くとみられます。


原油先物価格は一時マイナスを記録

原油や銅は、用途の多様性から景気のバロメーターと言われています。例えば、原油は車両や船舶、航空機などの動力用のほか、家庭や事務所、工場などの熱源用、合成樹脂や合成繊維など化学製品の原料用として幅広く使われています。

原油価格の代表的な指標である米国のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物期近価格を見ると、新型コロナ感染拡大前の昨年1月には60ドル台/バレルだったのが、感染拡大後の同年4月には-30ドル台/バレルまで暴落し、史上初めてマイナスとなりました。

これは新型コロナ感染拡大により世界景気が急速に落ち込み、原油の需要が急減すると想定されたためです。需要急減により供給過剰となる原油が在庫として積み上がり、買い手が負担する保管コストを高騰させたことから、原油の売り手が買い手に対して保管代金を支払い、原油を引き取ってもらうという異常な状況を招いたことがマイナス価格の背景です。

その後は、主要国の政府・中央銀行による財政・金融両面での大規模な景気対策の発動で世界景気は持ち直しつつあり、原油の需要回復が見込まれています。また、需給面では今年1月に世界有数の産油国サウジアラビアが、2~3月に日量100万バレルを自主的に追加減産すると表明したことを好感し、原油価格は上昇に転じました。足元のWTI先物期近価格は60ドル台/バレルと、昨年1月の水準まで回復してきています。

銅先物価格は史上最高値に迫る動き

一方、銅は熱や電気をよく通すことから電線などのインフラ投資に加え、電子部品の素材としてIT(情報技術)関連にも使われています。

銅価格の代表的な指標である英国のLME(ロンドン金属取引所)の3ヶ月先物価格を見ると、昨年1月の6,300ドル台/トンから同年3月には4,700ドル台/トンまで下落しました。

しかしその後は上げに転じ、今年2月には9,400ドル台/トンまで急回復しています。新型コロナ感染拡大前の水準を大幅に上回り、2011年2月14日に付けた終値ベースの史上最高値1万160ドル/トンに迫る動きとなっています。

世界的な脱炭素社会への転換で銅需要は急拡大へ

銅価格が急回復した背景には、世界の銅需要の約5割を占める中国景気が堅調に推移していることや、コロナ禍でチリ、ペルーなど中南米に集中する銅鉱山の操業が不安定となったこと、また、米国のバイデン政権発足により加速した脱炭素の潮流のもとで銅需要の増加期待が高まっていることや、世界的な金融緩和の長期化見通しで投機資金が流入していることがあります。

地球温暖化の原因となる二酸化炭素を削減する、脱炭素化は世界的な動きであり、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの太陽光発電や風力発電の普及が急速に進むとみられます。EVはガソリン車に比べて配線などに4倍近くの銅を使うほか、太陽光パネルや風力発電では、石炭や原油を使う化石燃料発電よりも5倍程度の銅が必要となります。

このため銅需要は急拡大が見込まれることから、LME3ヶ月先物の銅価格は史上最高値を抜く展開が想定されます。

資源・エネルギー部門に強い三菱商事、三井物産

原油や銅の市況回復の恩恵を受ける企業として大手総合商社が挙げられます。中でも、資源・エネルギーの上流権益に強みをもつ三菱商事(8058)と三井物産(8031)に注目しています。

原油・ガスの持分権益生産量は、三菱商事が24.1万バレル/日(2019年)、三井物産は25.7万バレル/日(2019年度)、銅の持分権益生産量は、三菱商事が23.8万トン/年(2019年)、三井物産は15.4万トン(2019年度)と高い水準にあります。

また、三菱商事は鉄の生産過程で使用される原料炭の持分権益生産量が3,160万トン/年(2019年度)、三井物産は鉄鉱石の持分権益生産量が5,780万トン/年(2019年度)とそれぞれ総合商社ではトップにあります。

このほか、伊藤忠商事(8001)は1972年に総合商社では初めて中国から友好商社に指定されるなど、中国ビジネスに強い点が特長です。

また、丸紅(8002)は同業他社に比べ資源・エネルギー部門と非資源部門の収益バランスがとれた事業ポートフォリオとなっています。

住友商事(8053)は化石燃料ビジネスを見直し、洋上風力発電など再生可能エネルギーに力を入れるとともに、鉱山開発事業ではEVに多く使用される銅やニッケルに経営資源を集中する意向です。

<文:投資情報部 碓氷広和>

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