2021年度入試は人口減少の影響が顕著、国公立大(前期)の志願倍率も3倍以下に

国公立大学前期日程の合格発表が行われ、2021年度入試も終盤に差しかかっています。ここ数年、国公立大学の人気は受験生の地元志向などによって安定していますが、今年は募集人員が最も多い前期日程で志願倍率がついに3倍を切るなど競争率は緩和傾向にあります。その背景には人口減少の影響があり、私立大志願者数も昨年から減少傾向に転じています。1992年以降、18歳人口は減少し続けてきましたが、2008年ごろからほぼ横ばいで推移していました。それが再び減少し始めたのは2018年で、かつて大学関係者の間では「2018年問題」と言われていました。今年度入試は、その2018年問題が3年遅れでやってきたとも言えるでしょう。

国公立大学の前期日程は志願倍率が3倍割れ

2021年度入試は、高大接続改革に伴う種々の混乱に加え、新型コロナ感染症による影響など、受験生にとってこれまでで最も過酷な入試の1つとなりました。大学にとっても感染症対策を取りながらの入試実施のため、オペレーションの負荷はこれまでとは比較になりません。オンライン授業・換気システムの設備導入などと合わせて多額の費用を支出しており、多くの大学は業務負担に加え財務的にもダメージを受けたことでしょう。

さて、国公私立大学の志願状況などの情報は、様々なサイトで公開されていますが、河合塾の大学入試情報サイトKei-Netでは個別大学の志願状況に加えて、全体集計も定期的に更新されています。また、代々木ゼミナールも出願状況の全体集計などをサイトで公開しており定期的に更新しています。これらのサイトの情報から、私立大学の志願者数が今年も減少傾向にあることに加えて、国公立大学の志願者数も全体で1万4千人以上減少し、42万5千人(正確な数値は425,415人、以下同)とこれまでで最も少ない人数であることが分かります。

河合塾による集計表を見ると国公立大学の前期日程全体では、志願倍率(志願者数を募集人員で割った数値)は3.0倍→2.9倍と3倍を切っています。国立大学だけを見れば、すでに昨年も前期日程は志願倍率が2.9倍と3倍を切っていました。受験者数を合格者数で割った、実質倍率が3倍以下となることは、国公立大学でも珍しいことではありませんが、志願倍率の段階で3倍以下の2倍台というのは大きな意味があります。

私立大学の場合、一般選抜の志願倍率が2倍台であれば、実質倍率が2倍を切る可能性があります。一般選抜では他大学併願者など合格しても入学手続きをしない人数を考え、募集人員の倍以上の合格者数を発表することもよくあります。つまり、一般選抜で実質倍率が2倍を切ることは、不合格者がほとんど出ない、競争原理が働いていない状態に近づくことを意味しています。

実質的には選抜していることにならないのです。もちろん、国公立大学の場合は、受験生は自己採点をして、各社の予想ボーダーラインを見てから出願しますので、出願先が分散して全体の志願倍率は平準化されます。そのため、私立大学の入試と同列に見ることはできませんが注視すべき数字と言えます。

参考サイト:

河合塾の大学入試情報サイトKei-Net

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国公立大学の医療系は高い人気、医学部は志願倍率も4倍を維持

国公立大学の学部系統別の動向を見ると、志願者数の前年比が最も伸びたのは薬学系で109%、志願倍率は3.5倍です。医学科も志願者数は前年比100%、志願倍率は昨年と同じ4.1倍です。このほか看護系も志願者数は前年比101%、志願倍率は昨年よりもアップして2.6倍→2.7倍です。医療系はここ数年、高い人気が続いてきましたが、医学科と薬学系だけは人気が落ちていました。それが一転して人気が高まったのは、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の平均点も影響していると思われます。

共通テストの各科目の平均点が、当初の予想に反して高くなったため、結果として理系7科目型の平均点もアップしました。受験生の立場から見れば、予定していた以上の得点が得られたことになりますので、思い切って難関大にチャレンジしとうという気持ちも出てきます。加えて、これまでも大きな災害や国際的な紛争があると、医療系学部を目指す受験生が増える傾向にありました。これは医師などの専門的職業人として、困難に直面する現場で直接貢献したいと考える生徒が増えるためだと考えられています。

世界は今まさに災害とも言える大きな困難に見舞われており、受験生の中には、この状況下で医師として患者を救うことや治療薬の開発などに意欲を持つ者も増えているのではないかと推察されます。

ただ、そうした一部の人気系統を除けば、全体としては人口減少の影響を免れないものと言えます。文部科学省の資料<図1、図2>を見ても公立大学は新設大学や学部増設の影響で志願者数が増えていますが、国立大学は志願者数が減少傾向にあることが分かります。それに伴い志願倍率も下落傾向にあることも見て取れます。なお、図の国立大学の志願倍率には、実質倍率は低くても志願倍率が高い後期日程が含まれていますので、それほど下落していないように見えますが、一般選抜の主となる前期日程は低下傾向です。

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これからも公立大学は専門職大学も含め、新設大学や学部増設が続くと見られます。そのため、全体としての志願倍率はある程度維持されると考えられますが、国立大学の志願倍率、さらには実質倍率も低下していく傾向にあると言えるでしょう。

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文部科学省の学校基本調査から考える「大学合格率96.3%」

ここでもう少し大きく入試環境を捉えてみます。昨年の12月に発表された文部科学省の「令和2年度 学校基本調査」によると、2020年度の大学入学者数は63万5千人(635,003人)です。同じ年の大学志願者数(実人数)は、全日制・定時制高校で65万9千人(659,135人)、中等教育学校後期課程では5,400人(5,456人)です。

この全日制・定時制高校と中等教育学校後期課程の大学志願者数の実人数を合計すると66万4千人(664,591人)となります。先程の大学入学者63万5千人との差を取ると2万9千人(29,588人)となり、3万人を割り込んでいます。この3万人は大学に志願したが合格していないか、合格しても入学していない人数です。この中から、翌年も入試に再挑戦する生徒が出てくることになりますが、かつて予備校全盛期には本部が代々木のとある大手予備校だけで10万人の在籍者がいたと聞いたことがありますので、いかに大学への合格率が上昇しているかが分かります。

この学校基本調査結果から大学入学者数÷大学志願者数を計算すると96.3%となり、100%に近い数字になります。実人数で見れば大学を志願する受験生のうち96.3%が大学に入学できていることを示しています。換言すればマクロレベルの大学合格率が96.3%と言うことです。なお、大学志願者数に通信制高校の大学志願者数1万3千人(12,963人)を加えると大学入学者数との差分は4万2,551人になりますが、合格率は変わらず96.3%です。

マクロレベルでは大学にとっては厳しく、受験生にとっては希望の持てる環境のように見えます。ここで、希望の持てる環境です、と言い切らないのには当然理由がありますが、それは機会を改めて取り上げたいと思います。

参考サイト:

文部科学省 学校基本調査-結果の概要

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