【高校野球】スーパー中学生と呼ばれた逸材も甲子園はラストチャンス 高知・森木大智の今

高知・森木大智【写真:学校提供】

秋の県大会決勝では敗戦も明徳義塾戦で好投

19日から始まる選抜高校野球大会。今大会も注目選手が目白押しだが、忘れてほしくない存在がいる。中学時代に軟式史上最速の150キロを記録した高知高・森木大智投手。甲子園にはまだ手が届いていないが、投手としては成長中。注目されるからこその悩みを乗り越え、今はしっかりと目標に向かって前に進んでいた。【西村志野】

森木は高知中3年時に春、夏の全国大会で優勝。その年に軟式球で中学生史上初とされる最速150キロを記録した。「森木大智」の名は全国に知れ渡り、“スーパー中学生”と称された。しかし、怪我などで悔しい時期を過ごし、まだ本来の力が発揮できてはいない。

「野球から離れたい」――。そう思うこともあった。

1年の夏、右肘に軽い炎症が起き、秋の高知県大会は打者1人への登板のみで終えた。チームも準々決勝で敗れ、選抜につながる四国大会には出場できなかった。昨夏の高知県の独自大会は3年生のメンバーで構成され、出場はなし。新チームになり、秋の高知県大会は準優勝。選抜をかけて県2位で出場した四国大会では1回戦の高松商戦(香川)で先発するも、ストレートを狙われ8回5失点(自責4)。2-5で敗れた。

自身が抱く「甲子園優勝」の夢はあと1回のチャンスとなった。

「高校1年の秋以降、『もう無理や』みたいに気持ちが落ちることがありました。過剰に周りのことを意識しすぎていたというか、プレッシャー、甲子園出場への期待の声を気にしてしまいました。『やらなくてはいけない』『やばい、やばい』みたいになって、何をしていいか分からなくなってしまいました」

中学ではほとんど打たれなかった一番自信を持っていたストレートは、高校では簡単にバットに当てられた。

「硬式になるとやっぱり力のある高校生もいますし当たったら飛ぶので、少し悩んでドツボにハマりました。そこから這い上がっていくのがしんどかったですね」

昨年の1年間はコロナ禍での戦いで、甲子園の切符をかけて挑戦するチャンスすら失った。春の県大会・四国大会は中止。県高野連主催の独自大会は、3年生中心で臨んだため、森木はスタンドから見守った。

「3年生の舞台なので、自分の出たいという気持ちは抑えました。でも、やっぱり出たいという気持ちが出ましたね。ただ、3年生の先輩たちが(独自大会を)優勝したので野球への取り組みは本当に勉強になりました。最後は気持ちなんだなと見ていて学びました」

中学時代の監督・浜口佳久氏が高校でも監督に

スーパー中学生と呼ばれた右腕も、甲子園出場のチャンスは最高学年だけとなった。大きくなる周囲の期待に押しつぶされそうな時期もあった。ストレートを磨きたいと色々試しても、結果に繋がらなかった。

そんな自分を救ってくれたのは、自身も野球経験があり、いつもアドバイスをくれる父の一言だった。

「お父さんに『やるしかないぞ。お前そんな後ろ向いている場合じゃないよ』と言われて、『負けてられないな。やらなくちゃいけない』と思ってしっかりやるようになりました」

浜口佳久監督の技術指導、メンタル指導もあった。中学から指導を受け続ける恩師の教えも大きな後押しとなった。

「力で野球をやるのではなく、考えてやらないと上の世界ではやっていけないよと。考える野球というのを教わって、自分の思考、考え方の基礎ができたのは良かったです。力だけではなく、自分のまっすぐを生かすために、なぜこのボールを投げるのかと、1球1球意図を持って投げるようになってから、球速はそこまで重要視しないようになりました」

やみくもに投げていただけの自分と別れを告げた。自分のストレートに意思を込めた。チームの勝利のことを考えて、一丸となってやる野球を目指すことに焦点を置き、考える野球を楽しみ始めた。

昨年秋の大会で森木は自己最速の球速151キロをマーク。軟式では投げられたが、硬式ではなかなか出すことのできなかった150キロの壁を打ち破った。決勝(再試合)で敗れはしたが明徳義塾戦(第1試合)は延長12回で日没コールド。森木は170球を投げ切り、相手エース・代木大和投手とは壮絶な投げ合いを演じた。

決勝再試合は大事を取って森木の登板はなかった。県2位で出場した四国大会では1回戦の高松商戦(香川)で先発も、ストレートを狙われ、8回5失点(自責4)。2-5で敗れ、選抜への切符は掴めなかった。

「(四国大会は)自分をコントロールできなかったです。ボールのキレとか、そういう細かなところもあるんですけど、今は精神力とか気持ちの部分が重要だと思うので、自分に負けない強さを磨いていきたいです」

中学、高校と、森木をそばで見てきて6年目になる。浜口監督が森木の成長を感じるのは技術面だけではない。

「球速とかスキル的なところももちろん伸びてきたけど、1番はやっぱり考え方がしっかりしてきた。これだけ素晴らしい選手だと普通は自分のこと中心になると思うんですけど、自分のことだけじゃなくて仲間や周りで応援してくれているサポーターを大切にして、みんなで頑張って野球をやっていくという姿がすごく成長したかなと思います」

注目されるからこそ悩んだ日々を乗り越え、成長を続ける。「高校野球界NO1ピッチャーになりたい」という思いを胸に、高校野球、最後の1年に挑んでいる。

【動画】高知高・森木大智の今、実際のブルペン映像

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(西村志野 / Shino Nishimura)

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