パンデミック生活とメンタルヘルス(後編)

精神への影響人それぞれ 開き直るもよし、柔軟に

Q. パンデミックの影響をプラスに受ける人とマイナスに受ける人がいますか?

A.

自宅待機とソーシャルディスタンシングが与える影響は、実に人それぞれです。落ち込んでうつになってしまう人もいれば、逆に元気になる人もいます。

例えば一人暮らしで、職場や習い事、外食など、自宅外での活動が人とつながる唯一の手段だった人は、パンデミックによる自宅待機でそれができなくなることで、孤立感が高まり、精神的に参ってしまいます。ところが同じ一人暮らしでも、余計な人付き合いをしなくてよくなり、自分に集中できるようになったという人もいるのです。

家族がいる人は、「家族と過ごす時間が増えてうれしい」「外食ができないので自宅で作るようになり健康的な食生活になった」と、前向きに捉えることができる人もたくさんいます。いつも忙しくて、夜遅くならないと帰らないお父さんが、パンデミック中は自宅勤務で出張もなくなり、子供と奥さんが喜んで精神的に安定したという話も聞きます。

もちろん逆もしかりで、家族がずっと一緒にいることによるストレスもあります。自宅待機しながら視野が狭くなり、普段なら見えない子供の行動が目に入り、つい小言を言って親子けんかになり、イライラして不安を募らせることも。

コロナ禍で何も失わなかった人はいないと思いますし、この非常事態の間ずっと元気だという人もいないと思います。皆、それぞれに何かを失い、元気にしていても時に落ち込みながら、日々を過ごしています。

「家族と常に一緒にいる人は、家の中での自分のスペースを作りましょう。ノイズキャンセレーションのヘッドホンを付けて、好きな音楽を聴いたりもいいでしょう」と青木さん

Q. パンデミック中元気なのはどんな人でしょうか?

A.

今回のパンデミックは、誰も経験したことのない事態です。何の準備もないまま、突然「自宅待機しなさい」との行政命令で、学校も仕事も遠隔になりました。それが世界規模で起こっているわけです。その状態を、「世界規模でこんなことになったんだから仕方ない」と開き直り、今あるものに目を向けることができる人は、パンデミック中も比較的元気に生活しています。発想を転換し、「子供の頃読んだ漫画を読み直して、久々に楽しかった」とか、「思い切って車を買ってドライブして、自由な感覚を取り戻した」など、それぞれできる範囲であれこれ試し、気分転換できているようです。

Q. メンタルを健康に保つためのアドバイスは?

A.

あえていうなら、「今週の英単語」で説明している「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」でしょうか。人間は、他人に対してよりも、自分自身に対して、より厳しく評価しがちです。特に日本人はその傾向が強いので、要注意です。今は自分を批判するのではなく、意識的に思いやるようにしましょう。

そして哺乳類は、優しく触れられることに反応する生き物です。自分の腕を優しくさすったり、朝晩のスキンケアを入念にやったりと、日々のちょっとした動作で、自分をいたわるよう心掛けてください。

家族と常に一緒にいる人は、家の中での「自分のスペース」を作るといいでしょう。それが難しければ、ノイズキャンセレーションのヘッドホンを付けて、短い時間でいいので、好きな音楽を聴いたり、ポッドキャストを楽しんだりしてみてはどうでしょうか。

パンデミック収束まであとどのくらいかは分かりませんが、自分をいたわり、日々穏やかに過ごしたいものです。

青木貴美さん (Kimi Aoki, LCSW)

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心理療法士、臨床ソーシャルワーカー。 ニューヨーク大学大学院ソーシャルワーク修士課程卒業。 コミュニティークリニック勤務を経て2008年開業。 18歳以上の大人を対象に、育児・夫婦・家族・恋愛・人間関係に関する悩みや、気分の落ち込み、不安、パニック、ストレス、不眠、適応などの問題に応じる。 相互扶助団体・ニューヨーク日本人シングルマザーの会主宰。

現在遠隔カウンセリングのみ NY、NJ、TX、IN州在住者対象

TEL: 917-531-0968 mail@kimiaokitherapy.com kimiaokitherapy.com

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