修学旅行が相次ぎ中止…埼玉の高校野球部が発案した“思い出プロジェクト”とは

開智未来高校野球部・塩原輝希主将(左)と佐々木桜マネージャー【写真提供:開智未来高校野球部】

昨年夏の甲子園ではモザイクアートで注目された埼玉・開智未来高校

コロナ禍で野球部の活動が休止になった。修学旅行も奪われる学校もあった。ただ時間の経過を待つだけでいいのだろうか……。もどかしさが体を締めつける中、ある埼玉の高校野球部が動き出した。野球をやるだけが部活動ではない。生徒たちは全国の“景色”を探しに出掛けた。【楢崎豊】

埼玉にある開智未来高校。昨年、マネージャーだった鈴木里奈さんが、第102回全国高校野球選手権大会の中止を受けて作製したモザイクアートが話題になった学校だ。新3年生となるマネージャーの佐々木桜さん、主将の塩原輝希(てるき)さん、関野信之介さん、金澤龍太さんの野球部員が中心となり、今度は「高校生思い出プロジェクト」を立ち上げた。

同校では緊急事態宣言下で野球部の活動は休止。個人練習で補っている。その間、全国の高校で修学旅行が相次いで中止になるという報道も目にした。選手たちは伊東悠太監督から「いざという時に行動できる人になりなさい」という教えを受けており、佐々木さんは「監督が常日頃から話す『いざ』という時が今、なんじゃないかな、と思い、行動しようと思いました」と、企画立案を始めた。

このプロジェクトは日本全国に留まらず、世界の高校生からオンラインで写真や動画を集め、オンラインで“修学旅行”を楽しもうという企画。自分の住むエリアの一番、気に入っている景色の写真、短い動画を投稿してもらい、それを専用のサイトに掲載。訪問者が、まだ見たことのない美しい世界と出会うことを目的としている。

佐々木さんは「全国の高校生とホームページを通して、青春の1ページを刻みたいです。地元の人たちしかわからない魅力を発信することで、今できない修学旅行、卒業旅行をつくることができたらいいなと思っています」と思いを明かす。まだ多くは届いていないが、賛同してくれる学校は同じ埼玉県内で増えている。「埼玉県の川口や秩父、加須から素敵な景色が見られますよ」とPRする。

修学旅行が中止になった2年生が前を向き、企画に熱心

「高校生思い出プロジェクト」は期限は決めず、参加校、生徒からの作品を募っていく。主将の塩原さんは「時間が経ってからやるのは簡単なこと。すぐに行動することが大事と監督から教わっているので、動きました」と力を込める。もちろん、一番は野球を思う存分やりたいというのが本音だ。でも、野球をすることだけが部活動じゃない。きっと、この行動力は生徒たちの未来を明るく照らすだろう。

ウェブサイトを作ることがメインの関野さんは「コロナで苦しんでるのは自分たちばかりではないですし、こうして輪を全国に広げようとしているので全然、寂しくないです。日本だけでなく、世界に発信をしていきたい」と目を輝かせる。

同じ役割の金澤さんは控えめな性格と自認する。それでも「この活動を通じて、行動力のない自分を改善したいと思いました。練習試合を組むなどに発展したり、野球につながっていくこともあるのではないかと思っています」と変わろうとする自分がいることに気がつきはじめた。限りある高校生活という時間の中で、一人一人が行動に自覚を持ち、前に進んでいる。

今は学校全体で広がりを見せているという。PR用の映像には野球部員以外が出演してくれたり、動画編集も手を挙げてくれる生徒もいた。伊東監督は「修学旅行が中止になった高校2年生がこの企画を制作することを楽しんでくれている様子が見られたのが嬉しかったですね。全世界に笑顔が届くように、これからも背中を押していきたいです」と優しく微笑んだ。

行動すればきっと一生、忘れることのできない景色に出会うことができるだろう。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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