お茶文化をアップデート。台湾茶・日本茶を未来へつなぐ「心福茶実験室」

気分に合わせて台湾茶と日本茶を味わう。お茶の“おもしろさ”を伝える実験室とは?

「心福茶実験室」がオープンするきっかけは、2018年のタピオカブームにありました。台湾の実業家からお茶に特化したタピオカミルクティーブランド出店の話が舞い込み、福岡市内で物件を探していた頼本さん。けれども、タピオカミルクティーに対する消費者のイメージは「お茶」というよりも「スイーツ」。それならば思い切って、お茶にフォーカスした店にしてみようという構想が生まれたそうです。

頼本さん
もともと両親が台湾出身で、台湾茶は日常的に飲んでいたんです。それに、僕自身は日本で育ったので日本茶にもなじみがあったんですね。そのため、現状では台湾茶と日本茶を主軸にしています。でも、「〜茶」とカテゴライズするのではなく、さまざまなジャンルを扱って、お茶に対するハードルを下げたいと考えています。

お店のイメージは、アメリカやヨーロッパで近年増えてきているティースタンドです。日常的に取り入れやすいスタイルだけれども、しっかりとお茶の味や文化がリスペクトされているメニュー展開が印象に残っていたんです。

お店には急須だけではなく、ドリンクにナイトロガス(窒素)を注入することでキメ細やかな泡とまろやかさがプラスされる「ナイトロサーバー」などの最新マシンも導入しました。

警固の「心福茶実験室」2Fの喫茶スペース。ゲストの目の前で一煎一煎ていねいに出すサービスも好評です

「お茶ってこんな風に飲んでもいいんだ。意外と面白いじゃん」と思ってもらうことが狙い。最初から「お茶とはこうあるべきなんて言ってたら敷居が高くなるだけですから。そこからマニアックになってもらえればいいんです。

と言っても、質にこだわっていないわけじゃないですよ。茶葉の質はもちろん、温度や時間にも気を配っています。味には妥協したくありませんから。

警固店の1Fはカジュアルなティースタンド、2Fは落ち着いた雰囲気の喫茶・ギャラリースペース。それぞれテイストも変えています

警固店は1Fをスタンドに、2Fを喫茶にしています。喫茶スペースでは、烏龍茶のほかに、緑茶、煎茶、玉露、紅茶なども用意して、お客様の目の前で一煎一煎抽出してお出ししています。

最近ではソラリアプラザに2号店のティースタンドができたので、気軽に飲みたい方はそちらに、じっくりと味わいたい方は警固店と、差別化ができるようになりました。

ハードルを取り除いて、お茶好きへ導く。信頼する茶師によって製茶されたお茶を提供

頼本さんのお話をうかがう前に、台湾茶について少しご説明しましょう。台湾茶とは特定の品種ではなく、現地で栽培されている茶葉の総称です。ルーツは中国茶ですが、台湾の地形や気候、製法により独自の進化を遂げました。

通常、同じ茶葉でも、発酵させないものは緑茶、完全に発酵させたものは紅茶と、発酵度や焙煎度で種類が分けられます。台湾で最も多く生産されているのは「青茶」と呼ばれる半発酵茶。フレッシュさを残しつつも、豊かな香りが楽しめるので緑茶に慣れた日本人にも親しみやすいと言われています。

頼本さん
コーヒー豆にブレンダーやロースターがいるように、お茶も生産農家とは別に製茶をする「製茶師」がいるんですね。うちのブランドは、九州茶・台湾茶ともに製茶師さんと協業して、自分がイメージする品質や味、価格のお茶を一つ一つ作ってもらっています。

ティースタンドでは窒素で飲み口をまろやかにするナイトロサーバーを使った「ナイトロティー」や「煎茶ソーダ」など、さまざまなアプローチでお茶の魅力を伝えています

台湾茶はメインの烏龍茶の他にジャスミン茶や金木犀茶などフレーバー系も豊富。手前味噌ですが、香りがしっかりしていてリピーターさんも多いですよ。
日本茶は、九州じゃないと手に入らないものを意識して入れています。銘柄は季節ごとに変えて。鹿児島の徳之島だけで作られている赤い緑茶「サンルージュ」など珍しいものが人気です。

クラウドファンディングの活用で都心のユーザーにも効率的にアピール

警固の一号店オープンの時には、クラウドファンディングサイトmakuakeを利用。オリジナルブランド「心福茶」のリターンを中心に、目標額の2倍近くの金額を達成しました。

頼本さん
今回は飲食やプロダクト系に強いmakuakeを選んで、広告費のかからない宣伝として打ち出しました。でもオープン前にバタバタとスタートしたので、反省点が多いですね。やはり、明日にでもオープンできるというくらいまでしっかり準備しないと結果は出せないと思います。

利点としては、福岡よりも関東や関西のユーザーの方が圧倒的に多いので、全国に向けて発信できるということ。福岡だと店舗だけで集客するならデメリットになりますが、物販をするならメリットになります。「心福茶」はECサイトに力を入れたいと思っていたので、好都合でした。

今後は新茶の季節にちなんだ掲載も検討中。クラウドファンディング限定でお手頃価格の珍しい茶葉を出すとか、そんな活用もできるかなと。

お茶にまつわる課題に取り組み、日本と台湾をつなぐ架け橋を目指して

さまざまな形でお茶の可能性を探る頼本さんですが、代表を務める「福台商事株式会社」の名前にも、秘密があるとか。どういった思いが込められているのでしょうか。

頼本さん
「福台」とは「福岡」と「台湾」のことです。会社としては、二つの国をつなぐことを目標としているんですよ。こんな風に台湾茶を広めたり、台湾茶カフェのプロデュースも手がけたり、日本茶の生産地から台湾進出のご相談も受けています。

ソラリアプラザに出店したティースタンド。3月末までの期間限定出店でしたが、好評につき延長が決まったそうです

でも、日本茶の輸出はとても難しいんです。日本の残留農薬基準値はEUや台湾の設定基準値に比べるとかなり高い。日本では平地栽培が多いので、害虫が発生してしまって農薬を使わざるを得ないんです。無農薬や有機栽培に挑戦されている茶畑もありますが、まだまだ味が追いついていない印象です。

その反面、台湾は世界一と言われるほど基準が厳しい。この差を乗り越えて輸出を成功させるのも今後の課題です。例えば、煎茶ではなく、ほうじ茶から輸出するとかね。ほうじ茶は、焙煎することで香ばしさを出すので、それほど上質ではない茶葉でも技術があればおいしくなるんです。

ティースタンドではチャイも提供。こちらは、チャイ用に小分けにされた一人分のスパイスと石うす。注文が入ったら、石うすでスパイスを挽くところから丁寧に作られます

日本のお茶に関しても、いろいろと取り組んでいます。実は、日本茶の生産量って年々減っていて、半分以上はお茶メーカーが買い取り、残りはお茶屋さんの商品になって、1割くらいは廃棄されているそうです。

お茶だって農作物なので、出来がいい時もあれば悪い時もある。質にこだわった銘柄をブランディングして販売する動きは増えていますが、価値がつかないお茶の状況は変わっていない。先ほどお話ししたほうじ茶も廃棄を無くす解決策につながりますよね。

「お茶業界を変えたい!」なんて大きな話ではないですが、まずは知り合った農家さんが幸せになってほしいと考えています。いろいろなご縁があってお茶に行き着いたので、会社としては上澄みだけすくうことはしたくないんです。

取材の最中には、こんな話もお聞きしました。
オープンして間もなく、頼本さんが台湾のお客様に日本茶をおすすめると、微妙な表情をされたそうです。その理由は、お茶の飲み方の違いによるもの。
日本の緑茶は香りより味わいを強く感じますが、逆に台湾茶は鼻に抜ける香りが魅力。つまり、日本茶を飲む時には舌を使い、台湾茶は鼻を使う。意識が向う先を変えれば、どちらも楽しむことができるようになります。
これはお茶だけの話ではありません。異なる文化との違いを面白く感じることができれば、新たなカルチャーを生み出すきっかけにつながるのではないでしょうか。
お茶がもたらす余韻のように広がりを見せる「心福茶」のニュースタンダード。今後も目が離せない展開が待ち受けていそうです。

頼本衛 「心福茶実験室」オーナー、「福台商事株式会社」代表取締役
台湾生まれ日本育ち。台湾のお茶文化にも造詣が深く、日本茶にも精通している。2019年にクラウドファンディングmakuakeを利用し、福岡市警固に台湾茶と九州の日本茶を専門に扱う「心福茶実験室」(現在はサロンのみ予約制で営業)をオープン。2020年12月からは、カジュアルなティースタンド「XINFUCHA LAB」を出店。ECサイトでの販売にも力を入れている。

【XINFUCHA LAB(心福茶実験室)】
■福岡市中央区天神2-2-43 ソラリアプラザ B2F
■TEL: 092-406-7655
■営: 11:00-21:00

【XINFUCHA SALON(サロン)】
■ 福岡市中央区警固1-15-31
■営: 12:00-21:00(予約制)
https://www.xinfucha.jp

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