同性婚訴訟で違憲判決、でも「ゴールじゃない」 原告男性カップルの思い

 国が同性同士の結婚を認めないのは憲法に違反するとして、同性カップルなどが全国各地の地裁で国を訴えている訴訟で、札幌地裁が3月17日に同性婚を認めないのは差別で、法の下の平等を定める憲法14条に違反するとする初めての判決を出した。

判決後の地裁前で、支援者らは多様性を象徴する「レインボーフラッグ」を掲げ、弁護団は「結婚の平等へ大きな一歩」と書いた横断幕を笑顔で広げた

 2019年2月14日のバレンタインデーの提訴から約2年。ただ、みんなと同じように結婚の自由を認めてほしい。その思いの実現に向け大きな一歩となった。でも「ゴールではない」。原告らは判決後の記者会見で「この一歩が2歩、3歩とどんどん進んで行かなければいけない」と未来を見つめた。

 全国5地裁で争われている同種訴訟で初。大きな注目を集めた判決だった。札幌訴訟の原告3組のうちの1組、国見亮佑(くにみ・りょうすけ)さんとたかしさん=いずれも40代、仮名=が2月、判決を前に語ってくれた思いを、改めて振り返った。(共同通信=石嶋大裕)

食卓を囲んで夕飯を食べる国見さん(手前)とたかしさん=2月

 ▽旦那みたいなもの

 JR札幌駅から特急で3時間弱。北海道帯広市の帯広駅に着くと、辺りはすでに暗くなり、白雪が積もる駅前広場で黄色いイルミネーションがきらきらと点灯していた。今年2月10日。判決を前に、どんな気持ちで過ごしているのだろうか。そんな疑問を2人にぶつけようとやって来た。

 「りょーすけさん仕事終わって学校出たところで、向かいます」。

 たかしさんからメッセージが届いてしばらくすると、公立学校の勤務を終えた国見さんが筆者を車で迎えに来てくれた。助手席にはたかしさんが座る。「この人、免許持ってないからどこに行くにも私が運転するんですよ」。そう話す国見さんの横で、たかしさんは「夕飯どうしよう。何も考えてない」。自宅に向かう途中でいつも行くというスーパーに寄ることになった。

車を運転する国見さん。車中では助手席に座るたかしさんとの会話が絶えない。「時にはけんかもします」と笑う。

 たかしさんは慣れた手つきで買い物かごを取り、つかつかと商品棚に向かう。国見さんがぼそっと「私は「『買い物が長い』と文句を言う旦那みたいなもの」と自嘲しつつ、納豆の棚の前では「この人、納豆が嫌いだから、買おうとするとかご持って逃げるのよ」。半額のシールが付いたスイーツを見つけると、エクレア、ワッフル、シフォンケーキと次々とかごに入れていく。「決まらない、決まらない」と繰り返していたたかしさんはいつの間にか、野菜や肉をそろえてレジに向かった。料理好きのたかしさんが食費、国見さんが家賃や光熱費を支払っているのだという。

 ▽一緒にいる日常が当たり前

 2人が暮らすのは2015年に引っ越してきた2DKのアパート。台所には、料理好きのたかしさんがファンだという料理研究家がプロデュースした道具が並ぶ。最近買ったステレオスピーカーからは、2人が好きな歌手、矢野顕子さんの曲が流れる。たかしさんが料理の準備を始めると、国見さんが話し始めた。

 「提訴してから2年。あっという間ですね。もう判決なんだって。判決を待つこと自体が人生初だから、どういう心持ちでいたらいいか分からない。やるからには勝ちたいけど、負けても次、頑張ろうねという感じ。通過点の一つ」。目指すゴールはあくまで同性婚の実現、そしてその先の平等な社会だからだ。

 2人の出会いは2002年にさかのぼる。国見さんは札幌でLGBTなどの性的マイノリティーへの理解を訴える活動をしていた。たかしさんはそんな国見さんのファン。「当時はスターみたいだった。活動が取り上げられた新聞の切り抜きも持っていた」。たかしさんから「今度会いませんか」とインターネットを通じて連絡し、同年11月に会うことに。札幌市中心部の待ち合わせスポットとして知られる商業施設で、初めて対面する。食事をし、意気投合した。

2人が好きな矢野顕子さんのCDは交際のきっかけにもなった。

 矢野顕子さんのライブに行くなど頻繁にデートを重ねて04年に同居を始めた。「16年以上一緒に住んでいれば、恋愛みたいに毎日ドラマチックなことばかりじゃない。生活を2人で組み立てていくような関係。一緒にいる日常が当たり前になっている」とたかしさんは感じている。

 ▽「裁判を起こさなければいけないことがおかしい」

 たかしさんの姉家族もそんな2人が「“ふうふ”として生活している」と取材に断言する。姉がたかしさんからゲイであることを告白されたのは、国見さんとたかしさんの関係が始まった1カ月後の02年12月だ。ある日、「話がある」と電話をしてきたたかしさんは、仕事の帰りに姉の家にやって来た。「実は男の人と付き合っているんだ」。突然だったが、姉はたかしさんが小さいころから何か人に話せないことを抱えていると感じ取っていた。「思いを共有できる相手がいると知ってほっとした」。2人は泣きながら抱き合った。

 その後、姉に息子が生まれると、たかしさんと国見さんはよく面倒を見てくれた。一緒に食事に行ったり、旅行に行ったり。子育てについても親身になって心配してくれた。だからこそ姉は、その2人の関係について法廷で証人として問われ「夫婦のような関係です」と言い切った。

たかしさんの姉の息子が、国見さんとたかしさんからもらった海外旅行のお土産。日付を表すことができ、取材時には判決日の「3月17日」と組み立ててくれた。

 大学生になった姉の息子は2人からもらった海外旅行のお土産を大切にしている。「本当に仲が良い。関係を知ったのは提訴するという話が出てからだったが、聞いたときに全然違和感はなかった。どうしたら自分は力になれるんだろうって思った」と話す。そして2人の関係が当たり前に思えるからこそ、結婚ができないことに疑問を抱いている。「もし負けたとしても裁判が社会にすごいインパクトを与えることは事実。でも、そもそもこういう裁判を起こさなければいけないことがおかしい」

 ▽「かわいそうなカップル」ではない

 帯広市のアパート。2人の話を聞いていると、テレビで夜の定時ニュースが流れ始めた。たかしさんが焼くハンバーグの香ばしい匂いが部屋を満たし、マスク越しに鼻を刺激する。帯広駅に着いた直後に地元名物の豚丼を食べたが、おなかがすいてくる。

「動きがある方が良いでしょ」。カメラを向けると、たかしさんはハンバーグをすくう様子を撮らせてくれた。

「異性カップルは良くて、同性同士はだめ。それは明確な差別。誰もが自由に選択できるようにするために同性婚を求めている。私たちは、結婚できないことで不利益があるから裁判を起こしているかわいそうな同性カップルではないんですよ」

 少なくとも私たちは幸せに暮らしている、と国見さん。たかしさんが話を引き取る。「すでに実態としては家族。そんな好き同士が、結婚できれば良いじゃないですか。単純な話なんです」。そんな“家族”が公的には認められていないままだ。

 訴訟では、憲法の解釈のみを問う訴えが起こせないため損害賠償を求めており、損害をはっきりさせるために結婚できないことによる不利益を主張した。相続権や税の控除などは婚姻関係になければ享受できない。「原告の中には実際に困っている人もいる」と国見さん。でもこれらはもともと、「異性婚しか認めないおかしい制度だから生じていること」。たかしさんも「特別扱いを求めているわけではない」と強調する。

 国見さんは意見陳述で法廷に立ち、「日本で同性カップルに婚姻が認められ、私たちの関係が公的に認められることを望んでいます。婚姻が認められることで、同性愛者に対する差別や偏見がなくなってほしい」と訴えた。

 ▽国はちゃんと向き合って

 国は「憲法24条は同性婚を想定していない」との立場を国会でも訴訟でも崩しておらず、憲法が同性婚を禁止しているかどうかについては沈黙したままだ。結婚ができない同性カップルは、社会的承認が得られず、いざというときに関係性が証明できない状態が続く。海外では同性婚を認める国や地域が増え、国内で実現を目指すNPO法人「EMA日本」などによると、昨年5月時点で29に上る。先進7カ国(G7)では、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、アメリカで認められ、イタリアも法的効果のあるパートナーシップ制度を設けており、日本は国家単位の性的少数者を巡る環境整備で取り残されている状況だ。

 日本国内各地の自治体では、当事者らの声を受けて、婚姻に相当する関係にあると公的に認証する「同性パートナーシップ制度」の導入が広がっているとはいえ、自治体や民間企業の制度の利用しかできず、相続や税金の控除の適用などから除外される問題は解決できない。異性婚の夫婦と同じ権利を持つためには法制化が必須だ。

 国見さんは「国は何を考えて同性婚を否定しているのか。それが訴訟の答弁書では分からなかった。現実にいる人たちとして私たちを見てくれていないのが分かる。最後までそうだった。国にはちゃんと向き合ってほしい」と求めた。

同性婚訴訟札幌地裁判決 原告側は、憲法は同性婚を禁止するものではなく、同性同士の結婚を認めないのは婚姻の自由を侵害し、法の下の平等が禁じる差別的扱いに当たると主張。一方、国側は憲法が同性婚を想定しておらず、不合理な差別には当たらないとしていた。判決は同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定について、「両性」「夫婦」という文言で婚姻の自由を定めた憲法24条には違反しないとする一方、同条が同性婚を否定しているとまでは言えないと判断。さらに、同性を好きになる性的指向は、性別や人種などと同様に自らの意思にかかわらず決まる個人の性質であり、異性愛者が結婚によって得られる法的保障を同性愛者に認めないのは、法の下の平等を定める憲法14条に違反するとした。

判決後、地裁近くで記者会見を開いた原告ら(手前)は、判決への思いを語った

 ▽取材を終えて

 ハンバーグがテーブルに出されると、国見さんは「おいしい、おいしい」と言いながら平らげた。「この人のご飯はほんとにうまいんですよ。いつもこうやって2人でテレビを見ながら夕飯を食べるんです」。その光景は、異性カップルや夫婦のそれと何ら変わることはないと思えた。と同時に、「なぜ結婚が認められないのだろう」との疑問も膨らんだ。

たかしさんが作ったハンバーグ。フライパンで焼いた後、オーブンに移してじっくり調理するこだわりよう。

 弁護団は同性婚訴訟を「結婚の自由をすべての人に訴訟」と呼んでいる。同性婚という“特別な制度”を求めているわけではなく、結婚するかしないかという選択の自由をすべての人が当たり前に享受できることを願っているからだ。たかしさんの「特別扱いを求めているわけではない」という言葉が思い出される。

 札幌地裁の武部知子裁判長が、判決要旨の読み上げを一瞬やめて息を整え、震える声で違憲判断を言い渡したとき、原告らは涙していた。そして、きっとこの場にいなかった、声を上げられなかった多くの当事者も喜びを分かちあっているに違いないと思う。

 判決後の記者会見で原告の女性は「性的指向に気づいた多くの当事者が、この国では結婚が許されないんだと気づき、明るい人生を描けないことで未来への希望を絶たれてしまっている。それは、自分はここにいて良いのかという根源的な問いになり、生きることすら迷ってしまう人もいる。そういった人たちにもこの判決は生きる希望やわたしのままでいていいんだと思わせるような素晴らしい判決だと思っている」と話した。

 札幌訴訟の原告は3組の同性カップル。東京、名古屋、大阪、福岡の同種訴訟も含めると、原告は3月8日時点で計28人だ。原告は控訴する方針で、闘いはこれからも続く。他の各地裁でも審理が続いている。先頭に立って闘う28人の後ろでは、今回、差別や偏見の下で声を上げられなかった多くの性的マイノリティーが行方を見守っている。各裁判所が札幌地裁に続き「結婚の自由をすべての人に」実現する次なる一歩となる判断を下すのか。そして、国と国会は制度化に向けた議論を始めるのか。引き続き注目していきたい。

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