【追う!マイ・カナガワ】感染リスク避けるオンライン授業 前倒しはどうなったの?

タブレット端末が納入され、授業での利用を始めている南足柄市立岩原小学校=2月1日、同市岩原(画像の一部を修整しています)

 「公立学校は感染リスクが高い中で授業を行っていて、学校が感染拡大の温床になりかねない。せめてオンライン授業を実施できるようにしてほしい」。茅ケ崎市立中学校の30代の男性教員から、新型コロナウイルス禍の教育現場の状況改善を求める声が「追う! マイ・カナガワ」取材班に寄せられた。国の「GIGAスクール構想」では、小中学校のデジタル環境整備を本年度中に前倒ししたはずだが、現状はどうなっているのか。

 1月に発出され、神奈川では再延長となった2度目の緊急事態宣言。政府が出勤者7割削減を呼び掛ける一方で授業は継続され、男性教員は「子どもはコロナで重症化しないとされていますが、働く私たちのことはどうでもいいのでしょうか」と問い掛ける。

 30人以上の子どもが一つの教室で学ぶ環境は常に「密」で、換気やマスク着用を徹底しても限界を感じる。コロナ長期化で疲労もたまり、「高リスクの現場で、ぎりぎりの中で教員は働いている」と吐露する。

 電車通勤の教員も多いが、授業時間は決まっており時差通勤は難しい。教室では飛沫(ひまつ)防止パネル整備なども進まず、男性教員は「せめて緊急事態宣言の間だけは分散登校やオンライン授業を」と望む。

 教員の負担が長引き、オンライン授業実現への環境整備は急務。注目されているのが全小中学生が1人1台、タブレット端末などを使える環境を整備するGIGAスクール構想だ。当初は2023年度を目指していたが、昨春の一斉休校を受け、目標を20年度中へ大幅に前倒し。昨夏時点では全国ほとんどの自治体で本年度中に端末が納品される見込みとなっていたが…。

◆日本は後進国 コロナ禍で浮き彫り

 「日本は教育のデジタル化でずっと後進国で、顕著に表れたのがコロナだった」。慶大大学院の石戸奈々子教授(子どもとメディア学)に取材すると、茅ケ崎の男性教員の訴えも、もっともだと分かってきた。

 石戸教授はデジタル教科書導入やプログラミング教育必修化を00年代から政府に訴えてきた。超党派「教育ICT議連」とともに、GIGA構想の後押しにもなった19年の学校教育情報化推進法成立に尽力。「日本はコンピューターで学習する割合や情報端末整備率が極めて低く、経済協力開発機構(OECD)37カ国の中で最下位をさまよう状況」と解説する。

 昨春の一斉休校では、各家庭のポストに投函(とうかん)されたプリントを使って学習させるなどし、オンライン授業が進む海外諸国との格差が浮き彫りとなった。石戸教授は「生活や仕事でデジタル化が進んでいるのに、学校は遅れている。日本は公教育への投資が元々少なく、過去の成功体験に縛られていた。なぜ学校だけが紙と鉛筆、黒板とチョークのままなのか。コロナ禍でようやく疑問が持たれた」と長年のツケを指摘する。

◆機器の不足 配備困難な自治体も

 県教育委員会によると、タブレット端末購入やLAN整備工事などの予算措置は、県内全市町村で20年度中に実施され、投稿を寄せた男性教員が働く茅ケ崎市では4月からの授業で活用を想定している。

 ただ、同市ではネット環境が整っていない家庭に貸し出す無線LANルーターの準備がこれからのため、端末は持ち帰れない。21年度は学校内利用にとどまり、家庭での利用は22年度以降になる見通しという。県教委によると、コロナ禍による需要急増などで機器不足で納入がずれ込み、予算を確保しても、年度内の配備が困難な自治体もある。

 石戸教授はGIGA構想が子どもたちの学ぶ環境に加え、教員の労働環境の改善にもつながると期待した上で、「教育現場のデジタル化はキャッチアップにすぎない。迅速な整備は当然だが、『アフターコロナ』の新たな学びのシステムも社会全体で考え、構築していかねば」と強調した。

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