東京五輪開会式で「渡辺直美を豚に」 女性差別丸出しの佐々木宏を演出総指揮に引き立てたのは森喜朗、安倍の意向も

東京2020組織委員会公式ウェブサイトより

東京五輪組織委員会の会長だった森喜朗氏の暴言が世界中に報じられ「性差別が横行する国」だと知れ渡ったのも束の間、今度は東京五輪開会式をめぐって、信じられないような「差別演出」プランが立てられていたことが発覚した。

東京五輪開会式の演出総指揮をとる「総合統括」を昨年12月に狂言師の野村萬斎からバトンタッチした電通出身のクリエイティブディレクター・佐々木宏氏が、タレントの渡辺直美をブタに見立てた「オリンピッグ」なる演出案を披露していたと、本日夕方、「文春オンライン」が報じたのだ。

佐々木氏といえば、ソフトバンクの「白戸家」やサントリーのBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズを手掛けてきた有名CMクリエイターであり、リオ五輪であの「安倍マリオ」を演出した人物。その佐々木氏が、昨年3月、開会式の演出を担うメンバーのグループLINEに、こんなアイデアを送っていたという。

〈(ブタの絵文字)=渡辺直美
への変身部分。
どう可愛く見せるか。
オリンピッグ(ブタの鼻の絵文字)
歴史を振り返るというより、過去大会ハイライトシーンを、
どうワクワクする様に見せるか。〉
〈ブヒー ブヒー
(宇宙人家族がふりかえると、宇宙人家族が飼っている、ブタ=オリンピッグが、オリの中で興奮している。)〉
〈空から降り立つ、オリンピッグ=渡辺直美さん〉

絶句するほかないだろう。最近も『スッキリ』(日本テレビ)がアイヌ民族を「あ、犬」と表現し大きな問題となったように、人を動物に喩える行為には差別的な文脈がつきまとうことが多く、とてもじゃないが五輪のような公的イベント・国際舞台でやるようなことではない。

●渡辺直美がルッキズムへのアンチテーゼとして評価されていることをわかっていない佐々木宏

しかもあ然とするのは、なぜ渡辺直美がいま世界で評価されているのか、その意味すら佐々木氏がまったく理解していないことだ。近年、人の容姿を嘲るボディシェイミングやルッキズムを問題視する声が高まっており、渡辺はまさに、そうしたルッキズムへのアンチテーゼ、“画一的な美の基準にとらわれず、ありのままの自分、ありのままの体を愛そう”という「ボディポジティブ」ムーブメントの世界的アイコンとして活躍しているのだ。その渡辺を、太った人を嘲笑したり侮蔑する際に用いられてきた「ブタ」に変身させようというのは、時代錯誤というか真逆の「差別」演出にほかならない。

佐々木氏といえば、テレビのバラエティ好きとして有名で、インタビューなどでも「テレビがお手本」と公言しているが、この企画は、まさに日本のお笑いバラエティに横行する女性差別とルッキズムをそのまま国際的なイベントに持ち込もうとしたということなのか。

いや、最近は、日本のテレビのバラエティでさえ、容姿イジりや自虐ネタについて、バービーなど女性芸人の間から批判の声が上がりはじめ、「差別的な笑いは時代遅れだからやめよう」という機運も少しずつではあるが出てきている。

それを、佐々木氏は、よりにもよって国際舞台である五輪の開会式で披露しようと考えたというのだから、どれだけ時代遅れなのかという話だろう。

さすがに、この佐々木氏のプランに対しては、演出チームのメンバーから〈理解できません〉〈眩暈がするほどヤバい〉という反対の意見があがり、撤回されたというが、あまりにも当然すぎるだろう。

それにしても問題なのは、このような「差別演出」案を打ち出していたような人物を、東京五輪組織委員会が昨年12月に開会式の「総合統括」に引き上げたことだ。

そもそも、2018年7月に公表された東京五輪開会式の演出チームは、野村萬斎が総合統括となり、佐々木氏はパラリンピックの式典を担当すると発表されていた。ところが、東京五輪組織委員会は新型コロナの影響を考慮し、昨年12月に開閉会式を簡素化するためとして、野村萬斎や椎名林檎らによる総合演出チームの解散を発表、佐々木氏を新たな責任者とした。

だが、実際は昨年3月の段階ですでに佐々木氏は五輪の開閉会式の演出チームに入っており、そこで問題の渡辺を起用した「オリンピッグ」案をグループLINEに投稿。この案は却下されたが、佐々木氏はむしろその後も発言力を強め、結果、演出チームを事実上引っ張っていたコレオグラファーのMIKIKO氏が排除されてしまったという情報もある。

●佐々木宏がコレオグラファーのMIKIKOを押しのけて「総合統括」になった背景に、森、安倍の意向

しかも、こんな「差別演出」案を平気で出すような佐々木氏を開会式の演出家とし、「総合統括」にまで引き立てたのは、森喜朗氏と安倍晋三・前首相だ。

前述したように、佐々木氏はリオ五輪の「安倍マリオ」の演出にかかわったが、これを当時の安倍首相と組織委の森会長が大きく評価し、東京大会の演出に引っ張り上げたというのは有名な話。実際、森氏は会長辞任会見でも「安倍マリオという大変大きな国際的に話題を生むセレモニーがあったことも記憶に新しい」などと語り、昨年11月に安倍前首相と出席した「オリンピック・オーダー」授与式でも「安倍マリオと森ヨッシーのように助け合いながら、東京大会の成功に向けて力を尽くしてまいりたい」と挨拶。昨年12月に佐々木氏を「総合統括」に就任させたのも、もちろん森氏だ。

つまり、佐々木氏は「安倍マリオ」という露骨な政治利用パフォーマンスに手を貸したことで森氏と安倍前首相から目をかけられ、時代錯誤な「差別演出」案を出してチームメンバーから顰蹙を買いながらも「演出トップ」にまでのぼり詰めた、というわけだ。

今回の「文春砲」を受け、橋本聖子・組織委会長は明日会見を開き、佐々木氏の処遇について説明をおこなう方針だというが、もはや東京五輪は「差別を容認・放置する国」だということを印象づけるものになっている。佐々木氏の処遇だけではなく、開催中止をこそ即刻発表すべきだろう。
(田岡 尼)

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