「まずはアウトを取ること」 DeNA柴田竜拓を変えた伝説の名手の“シンプルな”教え

DeNA・柴田竜拓【写真:荒川祐史】

自主トレから準備を積んだ遊撃レギュラー獲り「今年の目標なんで」

入団6年目。DeNAの柴田竜拓内野手は、不退転の決意を持ってキャンプインを迎えた。

「今年はショートで勝負するために自主トレから準備をしてきました。ショートでレギュラーを獲る、3割を打つっていうのが今年の目標なんで」

岡山理科大学附属高では、正遊撃手として同級生の藤岡裕大(ロッテ)と三遊間を組んだ。国学院大では2年秋から正遊撃手となり、1学年上の山下幸輝(DeNA)との二遊間で沸かせた。3年時から2度選ばれた大学代表でもスタメンを任されたのが、正遊撃手だった。

だが、プロ入り後は二塁での起用が多く、昨季まで5シーズンの1軍出場は、二塁で310試合、遊撃で107試合、三塁で62試合。遊撃には2018年に阪神から加わった大和が控えるが、今季は敢えて、自分が慣れ親しみ、こだわりを持つポジション、遊撃で勝負しようと決めた。

元々、守備力には定評がある。巧みなグラブ捌き、捕球してから送球までの速さなど、内野手ひしめくDeNAでも随一だ。「でも、守備だけではレギュラーは獲れないので、広角に打ち分けるバッティングも見せていきたい」と課題は見えている。

昨春、メジャーで11度ゴールドグラブ賞に輝いた遊撃の名手、オマー・ビスケル氏に師事する機会を得た。ラミレス前監督と同郷のビスケル氏は、キャンプ地・宜野湾でユニホームを身にまとい、臨時コーチとして参加。柴田にもよく声を掛けていた。メジャー史上屈指の遊撃手のアドバイスは、実にシンプルなものだった。

「ああいう守備の上手い人は特別なことをしているのかと僕も思っていたんですけど、いろいろ話をしていく中で、特別なことはしていないんだと感じました。できることを本当にしっかりやる。そして、そのための準備を怠らない。守備についていろいろ細かいことを聞いたら『細かいことじゃなくて、まずはアウトを取ることにフォーカスしろ』と言われました」

米球界屈指の名手から得た教え「何のために守っているかと言ったら…」

何よりも大切なのは基本。基本がブレたら、そこから派生する応用もブレる。「何のために守っているかと言ったら、アウトを取るため。その本質を改めて感じさせられました」。当たり前だが忘れがちな姿勢を思い出させてくれた原点回帰の体験。以来、柴田の考え方もシンプルになった。

「シンプルな中にも細かい準備はあるし、データだったり、その場で自分が感じることを取り込んだり。一生懸命投げているピッチャーを助けるために、しっかり準備をしてアウトを取れるように、という気持ちを持っています。ピッチャーが投げないと野球は始まらないので」

オープン戦でも二塁、三塁、遊撃と様々なポジションに就いているが、今季の目標を変えるつもりはない。

昨季はコロナ禍により開幕が3か月ずれ込んだが、今季は無事、3月26日に開幕を迎える予定だ。かつては当たり前だと思っていたスケジュール通りの開幕が、実はそうではないと知った今、より一層感謝の気持ちを持って野球に取り組んでいる。

「緊急事態宣言でいろいろ制限がある中で、僕たちはこうやってオープン戦をやらせてもらっている。順調にいけば予定通り開幕を迎えますが、それは当たり前のことじゃない。僕たちがやりたい野球を何不自由なくできるのは、そこに行き着くまでにいろいろな方が携わり、協力してくれたおかげだと思います。当たり前に開幕を迎えられるのは当たり前ではないので、いろいろな方に感謝の気持ちをしっかり持ってやりたいと思います。再考のパフォーマンスをすることが一番の恩返し。全力で集中して頑張ります」

勝負の6年目。今季はひと味違った柴田竜拓が期待できそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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