いつ降りかかるか分からない「みなし開催」 降格回避のために必要なスタートダッシュ

J1 徳島に勝利し、喜ぶ福岡イレブン=ポカリ

 Jリーグが開幕しているのに、まだシーズンが始まった感覚を得られていないチームがある。ガンバ大阪だ。2月27日の第1節を戦ったものの、その後、新型コロナウイルスの感染者を確認。3試合を中止にしたが、感染を抑え切れずにクラスター(感染者集団)に。そのため、さらに3試合の中止が決定し、結果として3月中のリーグ戦6試合ができなくなってしまった。

 昨季はリーグ2位、天皇杯で準優勝を飾った。今季は宮本恒靖監督も4年目を迎え、さらにチーム力を高めて川崎フロンターレを止める一番手と目されていた。それだけに勝ち点0で順位表の一番下の方にいるのはもどかしいと思っているガンバ・サポーターも多いだろう。

 今季のJリーグは、コロナを念頭に「みなし開催」というルールが適用されている。選手エントリーの下限である13人を揃えられなかった場合、試合は中止。代替日を確保できない場合は「みなし開催」として扱われ、0-3の敗戦になる。リーグ戦で順位を決める以上、試合は同数をこなさなければ不公平になるからだ。しかし、自チームまたは対戦相手がカップ戦を勝ち上がって過密日程の場合、新たな試合日を決定できないということも可能性としては十分にある。

 もちろん「みなし開催」による敗戦が生じた場合、優勝争いに大きな影響を与える。それよりも恐ろしい思いをするのは残留争いに絡むチームだろう。下位のディビジョンに降格すれば、選手の待遇は間違いなく悪くなるからだ。今季は4チームがJ2に自動降格する。12月4日の最終節(第38節)に至る10月、11月は週2回の試合日程は組まれていない。2週間の活動停止になった場合でも2試合の中止で済むだろう。ただ、その代替日を見つけられずに「みなし開催」で2敗になった場合は大きなダメージだ。ラストスパートの時期に、勝ち点0はもちろんだが、得失点でもマイナス6になる。2チームが降格する例年の場合でも、得失点差で残留と降格の明暗が分かれるケースが多い。残念だがコロナについては、どんなに気を付けていても、感染を避けられない場合も出てくるだろう。特に集団での活動を基本とするサッカーの場合、リスクは高い。それを考えれば、今季は降格危機の可能性を自覚するチームは、序盤から勝ち点を積み重ねることに専念する必要がある。

 昨季のJ2では42試合を戦って、ともに勝ち点は84。徳島ヴォルティスとアビスパ福岡は得失点差で優勝と2位を分け合った。その昇格組が3月13日の第4節で直接対決した。徳島のポゼッションと、福岡の堅守。J2では特色を打ち出して好結果を得てきた両チームだが、J1ではなかなか思うような結果を得られない。徳島は3試合で2分け1敗。福岡は1分け2敗と、まだ勝ちを得られていない。冷静に判断すれば、この両チームが残留争いの4チームに巻き込まれても不思議はないだろう。気は早いかもしれないが、残留を考えれば今回の直接対決は、お互いに勝利を手に入れるための一戦だった。

 コロナ禍による入国規制のために、いまだスペイン人のダニエル・ポヤトス監督が入国できないでいる。甲本偉嗣ヘッドコーチが指揮を執る徳島は、幸先の良い出だしだった。開始直後の2分に渡井理己のスルーパスから宮代大聖が抜け出す。GKがブロックしたこぼれ球を、垣田裕暉が流し込んで先制した。前半は完全に徳島のペースだった。最終的にポゼッションは徳島が60パーセントと支配したが、それは後半に逆転して福岡が相手にボールを持たせたということもあるだろう。ただ、徳島は先制した後も、前半12分、16分、18分とチャンスをつくる。特に18分の藤原志龍のシュートはもう少し厳しいコースに飛んでいればという決定機だったが、GK村上昌謙に阻まれた。

 サッカーは面白いものだ。劣勢でもしのいでいれば、必ずと言っていいほどチャンスが巡ってくる。後半に入ると福岡は前線からのプレスを早めた。後半8分には、そのプレスでボールを奪い展開。金森健志がヒールでつないだボールを石津大介が右に展開。攻め上がった右サイドバックのエミル・サロモンソンがGKの股間を狙いすまして同点ゴールを奪った。

 CKのセットしたボールが動いてしまうほどの強風。これを味方につけたのが、福岡だった。後半23分に左から入れたクロスは一度はDFにクリアされた。ところが、真上に上がったボールが再びクリアしようとした福岡DFジエゴの右腕に当たりハンドの判定。おそらく風の影響を受けたであろうジエゴのミスだが、このPKを金森が冷静に決めて2-1の決勝点をゴール右に流し込んだ。試合後、勝利を収めた福岡の長谷部茂利監督はこう振り返った。「2点目を取られたらゲームとしては決まってしまいそうな雰囲気がありましたが、その中でこらえて、後半から自分たちの力を少しずつだせるようになった」。その言葉と内容を考えると、この試合のヒーローはGKの村上だろう。1点は失ったが、再三の好守で追加点を許さなかった。

 まだリーグは始まったばかり。12月のことを言うと笑われるかもしれない。それでも、福岡にとってJ1での5年ぶりの勝利、ライバルとの直接対決で得た勝ち点3は、後に大きな意味を持つかもしれない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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