メルセデスPUへのスイッチが功を奏したマクラーレンMCL35M/F1開幕直前チーム分析(3)

 マクラーレンは長らく低迷の時代を過ごしてきたが、一昨年で上昇に転じ、2020年シーズンはコンストラクターズ選手権トップ3の位置まで返り咲いた。ただ、渇望する勝利には、まだ手が届いていない。

 メルセデスへのパワーユニット変更は、それを手にする最後のカードとして切られたのだろう。マクラーレンとメルセデスはかつて強固なパートナーシップを結び、幾多の栄光をともにした間柄だ。

 当初この2021年シーズンに車体レギュレーションの大変革が予定されており、マクラーレンとしてはそれを機にメルセデス・パワーを獲得するとの絵図を描いた。ところが、世界中を襲った新型コロナウイルスの流行により、新規定導入は1年延期となってしまう。前年はルノーを搭載していたなかで、クルマにメルセデスをフィットさせるには当然、主にリヤ周りの改修作業が必要となる。

 今季の限定措置として、許可された開発トークンは2。チームはそのすべてを、前年型から引き継ぐ車体をメルセデスと融合させることに費やした。

 結果、生まれたのが2021型のマクラーレンMCL35Mだ。変化はもちろんサイドポンンツーンから後方に集中している。シャシー名は前年型を継承、そこにメルセデスの頭文字となるMをつけ加えたものだ。

 前年型との比較では、ホイールベースが延長された。ただ、これはメルセデス向けの対応というより、今季制限のかかったフロアに関連するものではないか。ホイールベースを延ばせば、それだけフロア面積が稼げる。

 テストで観察する限り、MCL35Mに本家メルセデスが陥ったようなリヤのピーキーな挙動はない。対策が実ったということか。そのことは、移籍してきたダニエル・リカルドが証明した。

2021年F1プレシーズンテスト ダニエル・リカルド、ランド・ノリス(マクラーレン)

 初日午前を担当したリカルドは、マクラーレンでの実車経験がプロモーション用タイヤを履いたMCL35Mシェイクダウンの際の短い周回だっただけにもかかわらず、見事な順応ぶりを披露する。ミスを犯すことなく、45周を走らせた。しかも、この初日午前という区切りのなかで、トップタイムをマークしたのはリカルドだ。

 走り出しからタイムが出せるクルマというのは、素性の良さを物語る。この初日作業を終えてリカルドは、「(走らせていて)ハッピーだ!!」とまで言った。

 午後は、デビュー3年目を迎えるランド・ノリスの走行。午前にリカルドがベストをマークしたものより1段軟らかいC3タイヤを履き、この日全体2番手のタイムを刻む。トップとなったレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンとは同じC3で、コンマ2秒ほどの差でしかない。

 2日目は同じく午前をリカルド、午後はノリスの並び。ノリスは前日よりひとつ軟らかいC4タイヤで、この日4番手となった。だが他の上位勢3台はいずれも、もっとも軟らかいC5タイヤでのベストタイムだ。MCL35Mは、この日も好調をキープした。

 リカルドはこれを受け、「僕も早く、(コンディションの上がる)午後を走らせたいね」と語った。翌最終日にはリカルドが後の走行を担当。いよいよ待望の機会が訪れるが、タイムはC4タイヤで7番手といささか不発気味ではあった。

 だが期間中の全体トップは、この最終日のフェルスタッペンのタイムだ。振り返ってノリスが初日、フェルスタッペンに同じタイヤでコンマ2秒近くにまで迫れていたことを考えれば、MCL35Mはやはりあなどれないスピードを持っているとみていい。本家メルセデスを凌ぎ、遠ざかって久しい優勝へ、そのチャンスが来た。

2021年F1プレシーズンテスト ランド・ノリス(マクラーレン)

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