仏ロックダウンから1年 コロナ禍の日仏両国で感じた異なるストレス

「こちらは厚生労働省です。自動音声によりご連絡しています。海外から帰国された方に健康状態を、帰国して14日経過するまで、その日の体調をおうかがいしています」

昨年末にフランスから日本に一時帰国して2週間、お昼頃になると厚生労働省からこのような自動音声の電話が、手元の携帯電話に毎日かかってきていました。

普段パリに住んでいる筆者が、昨年日本に戻ったのは2回。1回目は3月末で、元から予定した帰国がフランスの第一波でロックダウン直後と重なりました。その時は5カ月ほど日本に滞在し、8月にフランスへ戻りました。2回目の12月は、フランスが第二波、日本が第三波で騒がれている時期。1カ月半ほど日本で過ごし、年が明けた2021年1月30日に筆者はフランスへ帰りました。偶然にもフランスが、EU域外との行き来をより厳しく制限する前日でした。

まだしばらく不自由な生活が続こうとしています。フランスがロックダウンを始めた昨年3月17日から1年が経ちました。パリと東京、そして名古屋近郊の地方都市と、日仏で半年ずつ暮らし、同じコロナ禍でも違うストレスがあると感じました。


有無を言わさず押さえつけるか、真綿で首を絞めるか

パリと東京または名古屋近郊の暮らしの中で感じた違いは、「定められた枠組みの中で、いかに精一杯楽しむか」「枠組みは定められないものの、いかに自分たちでその枠組みを保つか」の違いでした。前者がフランス、後者が日本です。

前者の場合、定められた枠組みから外に出ると重い罰則が科されますが、枠組みの中であれば、個人が自由にしたいことを楽しめる雰囲気があります。ただし、厳格な枠組みが常に私たちを強制的に縛るため、そこにストレスを感じる人もいます。

後者の場合、取り囲む強制的な鎖はないのですが、その代わり自分たちでその枠組みから出ないように気をつける必要があります。自由度が高いように思えるものの、外から押し付けられる枠組みがないため暗黙のルールの中で常に自制しなければならず、その点で苦痛を感じる人もいます。

明確にルールを定めて制限するフランス

前者と後者の社会では、実際どのようなことが起きているのでしょうか。

フランスでは、都市封鎖や夜間外出禁止などを実施しても、定められていない範囲のところで、今まで通り自由に振る舞う人が多くいました。例えば、夜間が外出禁止であるなら、禁止時間となる前に誰かの家に集まって、外出禁止の時間が解ける朝まで飲もうとする人が現れました。「1つのテーブルを囲める(つまり同時に集まれる)人数は6人まで」というルールは、「6人までなら集まって会食していい」と捉える人もいました。

これらは確かにルールを破ってはいませんし、その時は楽しいですが、その背景にある「感染拡大を防ぐ」という点では、決して良い影響を与えません。個人の行動を力で押さえつけることは、負荷は大きく見えます。しかし、やってはいけないことが明確に示されている分、知らず知らずのうちに精神を削り取られるような形のストレスは少ないです。

曖昧な取り決めのなかで空気を読む日本

一方で日本は、基本的に罰則などを厳しく定めず、「飲食を伴う懇親会などはやめましょう」「飲食店は営業時間を短くしましょう」など、特に当初は私たちの良心にまかせて制限をかけました。もちろん法律上の違いはあるものの、目に見える形で、「できないこと」に境界線を引くフランスと比べれば曖昧な部分は多く、判断は私たちの自制と社会の同調圧力によって成り立っていました。

したがって「空気」を気にせずに個人の判断を貫き通せる(もしくは、そのようなものを感じることがない、できない)人なら、制限が少ない分、日本の状況は過ごしやすいかもしれませんが、それらを鋭敏に感じ取ることができる場合、常に心を何かに縛られている状態が続きます。

一方で、社会全体が大枠で同じ文化・背景を共有し、共通の認識でつながり足並みをそろえられるということは、全体で何かを実現する際には有利に働きます。日本における感染拡大の防ぎ方では、公の政策決定以上に、この部分が案外ウエイトを占めているはずです。

両国ともにストレスを感じる人が増えた

しかしながら、どのような制限のかけ方であっても、普段と異なる状況が急に訪れれば、やはりストレスは感じます。

フランスで公衆衛生を管轄するサンテ・ピュブリックが今年2月に発表した報告書によると、感染拡大の状況とそれを制御するための措置は、人々の精神の健康に大きく影響を及ぼしていると述べています。実際うつ状態の人はロックダウンが解かれていた9月では11%でしたが、2度目のロックダウンが実施されていた11月には23%と2倍になりました。

日本でも、徳島大学の山本哲也准教授らのグループが発表した緊急事態宣言下の心理的ストレスについての調査では、11.5%が重度、36.6%が軽度から中等度の心理的ストレスを感じているという結果になりました。そして治療を要するうつ状態にあると推定された人は17・9%でした。

同じ感染拡大を防ぐ取り組みでも、国によって心にかかる負荷の方向性は違います。隣の芝生は青く見えても、中に入ってみると違う悩みみがあると気づかされます。

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