「ミス恐れず攻めていきたい」 F1開幕戦バーレーンGPを前に意気込む角田裕毅

バーレーンで行われたF1のテストに臨む角田裕毅(C)Red BUll CONTENT POOL

 スポーツのジャンルを問わず、シーズン開幕前の時間は特別なものだ。順位を予想してみたり、ひいきしているチームや選手の活躍を想像したり…。試合を観戦する喜びとは違った楽しみ方がある。

 2021年のF1シーズンがいよいよ始まる。今年は例年と比べても見るべき点が非常に多い。

 まず、二つの新チームが誕生した。一つはレーシングポイントから名前を変更したアストン・マーティン。映画「007」シリーズの主人公、ジェームズ・ボンドが乗る「ボンド・カー」として知られる英国メーカーだ。そのアストン・マーティンは1959年から2シーズン、F1に出場していた。実に61年ぶりのF1復帰ということになる。

 もう1チームはルノーから名前を変更したアルピーヌ。ラリーの世界で活躍した後に、ルマン24時間を始めとする耐久レースに出場していたアルピーヌがF1に挑戦する。

 次に、ドライバーのラインアップが大きく変わった。移籍したドライバーが4人。復帰組を含めると4人のドライバーが新たに加わった。つまり、F1シリーズで走る20人の4割に当たる8人ものドライバーが昨年とは違うユニホームを着ていることになる。

 中でも3人のドライバーが注目を集めている。復帰組のフェルナンド・アロンソにルーキーのミック・シューマッハー。そして、日本人ドライバーとして7年ぶりのフル参戦を果たす角田裕毅だ。

 アロンソについては説明の必要はないだろう。通算314戦に出場し、32勝。2005年、2006年にはワールドチャンピオンに輝いている。その名ドライバーが新生アルピーヌから3年ぶりのF1復帰を果たす。

 次はハースからデビューするミック。シューマッハーという名前を見て、ピンときた人もいるだろう。そう。1994年と95年、そして2000年から04年の計7度も年間王者を獲得したミハエルの息子である。ミックは18年にF3王者、20年はF2王者を獲得。満を持してのF1デビューとなった。

 最後は、アルファタウリ・ホンダから参戦する角田だ。開幕戦に先立って、12日からバーレーンで3日間行われた事前テストの最終日にマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)に次ぐ、全体2番手のタイムをたたき出し、F1公式サイトのニュースで「SUPER TSUNODA」というテロップを出されるほどに注目を集めた。

 そんな角田選手は現在、ロンドン近郊のミルトンキーンズに在住している。チームはイタリアのファエンツァに本拠があるのだが、F2ドライバー時代から、ミルトンキーンズにチーム本拠を置くレッドブルが所有するシミュレーターを使う機会が多いため、昨年からミルトンキーンズ在住になったことを角田選手本人が明かしている。

 3月17日に日本メディア向けに角田がオンライン取材を行った。そこで、3日間のテストの感想や26日から始まる開幕戦バーレーンGP、そして10月10日に決勝レースを予定している日本GPへの気持ちなどを語った。

 ―3日間のテストはいかがでしたか?

 「1日目は燃料タンク系の問題があり37周しか走れず、2日目は走るたびに何かしらトラブルが発生していました。3日目は何も問題もなく、レースシミュレーションと予選シミュレーションをこなすことが出来ました」

 ―3日目、全体2位のタイムでした。

 「テストなので他のチームがどのようなセットアップや重量で走ったかはわからないのですが、自分自身は自分の走りに集中して徐々にタイムを上げて、トップ3に入れたことは素直にうれしいです」

 ―ドライバーとして自分自身の長所は?

 「長所なのはブレーキングとオーバーテイクかと思います。ブレーキングは、すべてにおいて重要で、コーナリングが速くなるのもすべてはブレーキングからだからです。テスト中にオーバーテイクしたのは1度だけなのですが、自信を持ってブレーキングしてオーバーテイクが出来ました」

 ―開幕戦の目標は?

 「開幕戦の目標はとくにないです。ポイントが取れるよう頑張る。F1レースの経験がないので想像できないですし、自分の持つパフォーマンスすべてを出し切って、ミスを恐れず攻めていければと思います。もちろん、ミスをすると思うのですが、第2戦で改善できれば良いですし、いまの自分の弱点を知ることができると思います」

 ―楽しみにしているサーキットは?

 「圧倒的に鈴鹿です。僕が最後に鈴鹿を走ったのはF4時代で、F4のタイムは2分6秒とか2分7秒なんですが、F1はそれより45秒くらい違う。それを何よりも楽しみにしています。そして日本のファンの前で走れるので、10月10日の鈴鹿サーキットですね」

 この他にもドライビング時にマシンが見せる挙動など、本当に細かいことまで語ってくれた。

 やりとりを通じて最も印象に残ったのは、ズバリ、若々しさだ。ときおり出るくだけた口調や、ミスを恐れない姿勢、オフはオンラインゲームを楽しむことなど、20歳らしさが随所に出ていた。同時に、それこそが角田選手最大の魅力なのだと感じられた。

 残念ながら、ホンダは今年いっぱいでF1から完全撤退することを既に発表している。ホンダのF1最終年をしっかり見届けるとともに、新人ドライバー角田裕毅の1年目の走りを全力で楽しみたい。プロ野球などでは、毎年のように期待の新人選手の活躍を予想しながらひいきチームを見る楽しみがあるが、日本のF1ファンにとっては、実に7年ぶりにやってきたひいきチームとドライバーの応援できるシーズンなのだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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