ブリティッシュロックを進化させたジュリー・ドリスコール、ブライアン・オーガー&ザ・トリニティの傑作3rdアルバム『ストリートノイズ』

『ストリートノイズ』(’69)/Julie Driscoll, Brian Auger & the Trinity

60年代中頃、イギリスから登場したロックグループがアメリカのヒットチャートを席巻し、ブリティッシュ・インベイジョンと呼ばれるムーブメントが巻き起こった。その原点は62年のビートルズのデビューが発端で、彼らの世界的成功によってそれまでR&B;やジャズの世界で活躍していたイギリスのアーティストがこぞってロックの世界に参入し、雨後の筍のように多くのグループが生まれた。ジャズピアニストのブライアン・オーガーもそのひとりで、64年のメロディメーカー誌の読者投票ではジャズピアニストとして「ニュースター」と「ジャズピアノ」の2部門で1位に選出されたにもかかわらず、ジョン・マクラフリン(マハヴィシュヌ・オーケストラ)らとR&B;志向のザ・トリニティを結成する。同じ頃、ジミー・スミスやジミー・マッグリフといったアメリカのジャズオルガン奏者に影響を受け、オーガーはピアノからオルガンに転向、ジャズとロックを融合させるべく試行錯誤を続ける。今回紹介する『ストリートノイズ』は、ジャズとロックの融合を成し遂げたジュリー・ドリスコール、ブライアン・オーガー&ザ・トリニティの3作目のアルバム(LP時代は2枚組)であり。後進のプログレやジャズロック・アーティストに影響を与えた知る人ぞ知る傑作である。

スーパーグループのスティームパケット

マクラフリンとの初代ザ・トリニティはあっけなく解散してしまうのだが、当時大人気のヤードバーズ(エリック・クラプトン時代)の「フォー・ユア・ラブ」にハープシコードで参加したことで知名度が上がり、65年にはブリティッシュロック界の大スター、ロング・ジョン・ボールドリーの新グループに誘われる。それが、後にブリティッシュロック界でスーパーグループと言われることになるスティームパケットである。メンバーはヴォーカルにボールドリー、ロッド・スチュワート、ジュリー・ドリスコールの3人を擁し、ギターにヴィック・ブリッグス(後にエリック・バードン&ザ・アニマルズ)、ベースにリチャード・ブラウン(a.k.a リッキー・フェンソン)、ドラムにミッキー・ウォーラー(後にジェフ・ベック・グループ)、そしてキーボードのオーガーという編成でR&B;やブルースをやっていたが2年弱の活動期間を経て解散する。このグループの公式録音は残っていないが、これまでにその音源は何度かCD化されている。2013年になってオーガーのリマスタリングでほぼ全レコーディングを収録した決定版とも言える2枚組アルバム『ザ・ディフィニティブ・レコーディングス』がリリースされた。

ザ・トリニティ結成

スティームパケットは解散したが、オーガーはそこで同僚だったジュリー・ドリスコールというスケールの大きな女性ボーカリストとすぐにジュリー・ドリスコール、ブライアン・オーガー&ザ・トリニティを結成、67年にはデビューアルバム『オープン』をリリースしている。このアルバムには、前半(LP時代はA面)にオーガーが主となったジャズロックが収められ、後半部分にドリスコールのソウルフルなボーカルをフィーチャーしたR&B;を収めるという変則的なアルバムであったものの、新しい音楽を生み出すというオーガーの気概が感じられる作品であった。

その後、68年にシングルでリリースしたアレサ・フランクリンのカバー「セイブ・ミー」とボブ・ディランとリック・ダンコ(ザ・バンド)作のカバー「火の車」が大ヒットし、トリニティの名は世界的に知られるようになる。『オープン』にはリッチー・ヘイブンスやドノヴァンのカバーがあり、トリニティというかオーガーの雑食性がこのグループの多彩さを物語っている。彼はブリティッシュ・トラッドのグループも好んで聴いていたようで、その姿勢こそが彼のノンジャンルな音楽を生み出す原動力となったのは間違いないだろう。

続く2ndアルバム『デフィニットリー・ホワット』('68)はドリスコール抜きで作られた作品で、いわばオーガーのソロアルバム。この作品では早くもジャズでもロックでもないノンジャンル化が進んでいる。全面的にストリングスが導入され、実験的なサウンドでありながらもキャッチーさが感じられる仕上がりとなっている。

本作『ストリートノイズ』について

再びドリスコールを迎えてリリースされた3作目となる『ストリートノイズ』は、2枚組(LP時代)というボリュームでリリースされた。本作はプログレやブリティッシュ・トラッドのテイストもあるトリニティの最高傑作で、クラシックやジャズのみを出自とするアーティストにはないオーガーの多彩なバックボーンが生かされたサウンドになっている。ドリスコールのヴォーカルもこれまでのソウルフルな熱唱に加え、東欧の民族音楽家のような歌唱をしている曲まであって、確実にヴォーカリストとしてのレベルが上がっているようだ。

収録曲は全部で16曲。今回のカバー曲はドアーズの「ハートに火をつけて(原題:Light My Fire)」、リッチー・ヘイブンスの「インディアン・ロープ・マン」、フィフス・ディメンションの「レット・ザ・サンシャイン・イン」、ニーナ・シモンの「テイク・ミー・トゥ・ザ・ウォーター」、マイルス・デイヴィスの「オール・ブルース」、ローラ・ニーロの「セイブ・ザ・カントリー」と、幅広いジャンルからセレクトされている。特に「ハートに火をつけて」はトリニティ独自のアレンジで、素晴らしい仕上がりになっている。

本作でのオーガーのハモンドプレイは快調この上なく、キース・エマーソンやリック・ウェイクマンを凌駕しているといっても過言ではない。クライブ・サッカー(Dr)とデビッド・アンブローズ(Ba)によるリズムセクションは、後のブライアン・オーガーズ・オブリビオン・エクスプレス時代と比べると少し線の細いところもあるが、本作においては上手くハマっていると思う。

LP時代は各面に4曲ずつが収められ、A「How Good It Would Be To Feel Free」、B「Kiss Him Quickly, He Has To Part」、C「Looking In The Eye Of The World」、D「Save The Country」とそれぞれにタイトルがつけられてコンセプトアルバムの体裁になっていた。しばらく日本盤がリリースされていなかったが、この4月に久々に廉価版でリリースされることになっているので、まだ本作を聴いたことがなければこの機会にぜひ聴いてみてください。

この後、オーガーはオブリビオン・エクスプレスを結成、ハービー・ハンコックが『ヘッド・ハンターズ』('73)でやろうとした“ジャズ+ファンク”(要するにフュージョンのはしり)をハンコックに先駆けて実践し、ジャズとロックの融合に成功するのである。

TEXT:河崎直人

アルバム『ストリートノイズ』

1969年発表作品

<収録曲>
1. Tropic of Capricorn
2. Czechoslovakia
3. Medley: Take Me to the Water/I'm Going Back Home
4. Word About Colour, A
5. Light My Fire
6. Indian Rope Man
7. When I Was a Young Girl
8. Flesh Failures (Let the Sunshine In)
9. Ellis Island
10. In Search of the Sun
11. Finally Found You Out
12. Looking in the Eye of the World
13. Vauxhall to Lambeth Bridge
14. All Blues
15. I've Got Life
16. Save the Country

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