バドミントン業界の雄が卓球ビジネスに感じた6つの特徴

バドミントン業界の雄が、卓球業界に参入した。京都洛西口駅から徒歩5分の場所に卓球場『COMFY ARENA Table tennis Rakusaiguchi』をオープンしたのだ。

運営しているのは、岐阜と京都に日本有数のバドミントン専用アリーナを持ち、トップリーグ参加のクラブチームと代表レベルのジュニア選手育成も手掛ける「トリッキーパンダース」を持つCOMFY ARENA(コンフィーアリーナ)だ。

代表の渡邉哲義氏は、オープン前のインタビューで「卓球は土地面積に対する利益率が、バドミントンよりも高い。今の自分たちのシステムを持ち込めば利益が出せる」と自信を覗かせていた。

プレオープンから1ヶ月、その手応えと、バドミントン業界から見た卓球ビジネスの特徴を6つ挙げてもらった。

【渡邉哲義(わたなべ てつよし)】筑波大学体育専門学群(スポーツ経営学)を卒業後、NTTでバドミントンの実業団選手として活躍。バドミントンチーム、トリッキーパンダースの代表を務める傍ら、卓球界にも進出。阪急洛西口駅徒歩5分の場所に卓球場・COMFY ARENA Table tennis Rakusaiguchiを2021年2月にオープンした。

1. 年齢層の違い/2. “台貸し”が多い

__――まずは卓球場プレオープンおめでとうございます。1ヶ月と少し経ってみていかがですか?
渡邉哲義氏(以下、渡邉):まず、岐阜で開いているバドミントン場と違うのが、65歳以上の来店が多いことですね。バドミントンだと65歳以上になると逆に退会されるんですが、卓球はプラス15~20歳くらいの年齢層の方がお客さんになってくれています__。

あとは卓球台を時間単位で貸す「台貸し」が多いことにもびっくりしました。

写真:「TauT(トート)阪急洛西口」に2月にオープンした卓球場COMFY ARENA(コンフィーアリーナ)/撮影:ラリーズ編集部

__――バドミントンではコート貸しはあまりないんでしょうか?
渡邉:__卓球もそうだと思いますが、バドミントンは市民体育館に行けば1時間100円程度でできる。なのであまり需要がないと思ってました。でも今は体育館が結構密らしいので、「卓球場で台を借りる方が良い」と言う人は多かった。初月の状況を見ても、台貸し需要は多いですね。

3. 卓球場にキレイなトイレが少ない

でもお客さんの意見で一番カルチャーショックを受けたのは、卓球場にシャワールームや更衣室、キレイなトイレがあるところが少ないということ。それでビジネスやろうとしてんだとびっくりした。一番変えなきゃいけないところですね。

写真:COMFY ARENAのシャワールーム/提供:COMFY ARENA Table tennis Rakusaiguchi

__――確かに整っていないところもありますね。
渡邉:__「じゃあ汗をかいたらどうするの?」と聞くと「普通に帰ります」って。それだとそのあと「オシャレなバーに飲みに行ってみたい」とかに発展しないわけだから。

だから更衣室もあえてもっとメンテナンスをしてキレイにしました。更衣室があるから入会するというお客さんもいましたよ。

写真:COMFY ARENA/提供:COMFY ARENA Table tennis Rakusaiguchi

4.卓球のお客さんは熟考する印象/5.大学生コーチの知名度高い

__――バドミントン業界でスクール経営している渡邉さんから見て、他にこれは卓球独特だと感じたことはありますか?
渡邉:バドミントンに比べると即決する人がいないんですよね。10年前、岐阜にバドミントン場をオープンしたときは、レッスン体験前に300人弱の入会者が決まってた(笑)。それに比べると卓球のお客さんはものすごく熟考する__。

写真:渡邉哲義氏/提供:ラリーズ編集部

卓球の体験に来た方に聞くと「体験するまでに調べてきています」と言われます。「ホームページを見たけど、バドミントンしか載ってなかった」と多くの方に言われたので、急遽ホームページをいじって、卓球の情報も掲載しました。

ラリーズの記事を見た」という人もかなり多いです。今日も、見学に来られた30歳の男性に言われました。

__――微力ながらお役に立てて良かったです。確かに卓球スクールに通うならその卓球場の特徴をよく調べるかもしれません。
渡邉:お客さんからも「卓球場の特徴は何ですか?」とよく聞かれます。「今後は全日本で使った台も来るし、床もナショナルトレーニングセンターと同じです__」と言うと、興味を示してくれます。

写真:床にはタラフレックスを貼ったCOMFY ARENA/提供:COMFY ARENA Table tennis Rakusaiguchi

あとはコーチについてもよく尋ねられるので名前を出すと「それだったら良いな」という話になります。

__――Twitterで大学生コーチの顔出し紹介をされてましたね。
渡邉:__一般のお客さんが大学生のことを良く知っているんですよ。バドミントンの場合、学生が有名じゃないんですけど、卓球はなんで学生の選手までよく知ってるんだろうと(笑)。

この前は福本(卓朗・関西大学卓球部)君が遊びに来ていたときに、お客さんが「福本君じゃないの!?」って驚いてました。

写真:京都・東山高校から関西大学に進学し活躍している福本卓朗/撮影:ラリーズ編集部

最近はお客さんが来るときに、コーチの一人である多田浩嗣君(京都大学卓球部)が練習しているんですけど、多田君のことを知ってるお客さんも多い。

写真:王子サーブを武器に活躍する多田浩嗣(京都大学)/撮影:ラリーズ編集部

だから顔出しNGじゃない子はどんどん出して行こうと思ってます。

6.バドミントンに比べ、技術の“言語化”が足りない

__――関西学生リーグ1部校の大学生コーチの他に、同志社大卒で全日本出場経験の下間(しもつま)さんが社員として入られたと伺いました。学生も含めてコーチ陣も充実していますね。
渡邉:__そのコーチたちと話してると、バドミントンと全然違うので面白いですよ。

バドミントンではラケットを立てて、内側に回して力入れたらスマッシュになりますよと言語化できるのが卓球はできない。卓球の場合、一回一回「こんな感じ」「あんな感じ」と体を使って動きを見せて説明しないといけない。

まずは言語化の状況を改善する必要があるかなと考えてます。

写真:COMFY ARENA代表の渡邉哲義氏/撮影:ラリーズ編集部

__――バドミントンでは技術が言語化されているのでしょうか?
渡邉:__協会からバドミントンアクションプランという指導方針が2000年に出されたんです。バドミントンで公認コーチのような資格をとるためには、アクションプランを完全にマスターしなきゃいけない。

結局それをマスターした指導者が今の桃田賢斗を作ったりというのとリンクしているんです。だから例えば「リストスタンドして回内しながら腕を振る」などの言語化は、バドミントン界では7割がた通じている状況です。

写真:COMFY ARENAが経営するバドミントン専用アリーナ桂川/撮影:ラリーズ編集部

__――卓球の場合、回転というバドミントンにはない要素が言語化の壁になっているのでしょうか?
渡邉;__そうだと思います。回転とラバーの問題がネックになっているんじゃないかな。

バドミントンだと、ガットは有意差がないから、特徴が出ない。サーブで回転をかけることもない。

卓球やっている人に、その技術を言語化するとどうなるの?って聞くとわりと止まっちゃいます。自分のプレースタイルを自分の言葉で説明できない。卓球では言語化されている部分が少ない。これは遅れているというより、バドミントンよりも難しいのかなと思ってます。

__――確かに、卓球で不可欠な“タッチ”は各自の感覚によるところも大きく、言語化が難しい気もします。
渡邉:__もちろん外してはいけない今ある共通の言葉もありますが、でもバドミントンも技術を言語化していくなかで指導が体系化してきました。卓球でも、自分たちの中で技術を言葉にできるスクールにしたいと思って、いまコーチたちと指導方法を整理しています。

取材:槌谷昭人(ラリーズ編集長)
文:山下大志(ラリーズ編集部)

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