大坂なおみ 大ヒットの女王の方程式を解く 身に着けるものすべてが注目の的

全豪オープンを制した大坂は派手なウエアでアピール(ロイター)

いまだかつてないプレーヤーが世界を席巻している。女子テニス世界ランキング2位の大坂なおみ(23=日清食品)は昨年秋の全米オープンに続き、2月の全豪オープンを制覇して4大大会2連勝。破竹の勢いを続ける一方でウエア、シューズ、アクセサリーなど身に着けるグッズが世界的に大ヒットする異例の事態だ。その背景には何があるのか。テニス界とファッション界を制圧する新女王を徹底分析する。

大坂が動けばカネが回る――。昨年からツアー21連勝する間に使用したヨネックス製のラケットは“無敗”の付加価値によって3000本の増販が決定。ウエア、シューズ、時計、アクセサリー、ヘッドホンなど着用したすべてが注目の的となり「ぜひ使ってほしい」と熱望するメーカーであふれ返っている。

「長くテニスを見てきましたが、ここまで影響力を持つ選手は過去にいません」。そう舌を巻くのはテニスウエアのデザインなどアパレル業を手掛けるDAZNテニス中継の解説者・佐藤武文氏(50)だ。類いまれなプレーヤーを分析すべく、まずは2021年の“ファッションチェック”をしてもらった。

今季の初お披露目は1月29日のエキシビションマッチ。憧れの選手で4大大会シングルス優勝23回の元女王セリーナ・ウィリアムズ(39=米国)との対戦で大坂は全身真っ黒のウエアで登場した。佐藤氏は「相手のセリーナと黒人同士の対決。昨年は黒マスクで黒人差別抗議運動で話題となりましたが、この黒ウエアにはそういったメッセージ性も感じました」。

今季初戦「ギプスランド・トロフィー」(1月31日開幕)初戦は一転して真っ白。ウィンブルドン選手権(白以外は着用不可)を思わせるウエアに、「黒から白のコントラスト。ここにも大坂選手の人種的な主張を感じました。当たっているかどうかは別として、見る側に何らかの意味を考えさせるパワーがあるんです」と語る。

そして迎えた4大大会「全豪オープン」(2月8日開幕)では派手さを前面に出した。黒をベースにしたレオパード風の柄にオレンジのスカート。「ゴチャゴチャに見えるようでスタイリッシュ。本当にオシャレが好きなんだと感じさせるチョイスです」と評した。

圧巻は優勝翌日のフォトセッションで見せた全身「ルイ・ヴィトン」のコーディネート。黒、赤、オレンジを基調にしたミニ丈ジャンプスーツは約42万円。ショルダーバッグ、スニーカーなど合計100万円を超える。これが大反響となり、大坂とアンバサダー契約を結んだルイ・ヴィトンは大喜びだったに違いない。

他にも契約するナイキのシューズには漢字で「大坂」と「招き猫」を模したオリジナルのイラストが刻印。佐藤氏は「スポーツブランドの王様ナイキの製品にコケティッシュなキャラが載ったのは過去にない。強さとかわいさのギャップが斬新で、若者に受けています」。ニット帽に入ったロゴはイニシャル「NO(なおみ・大坂)」。ヘッドホンにも「大坂なおみ」の文字が入る。ポップアーティスト村上隆氏(59)がデザインした花柄の黒マスクは大坂が着用したことで注文が殺到しているという。

まさに“全身広告塔”だが、なぜここまでの存在になったか。佐藤氏は「ファッション性だけではなくハッキリと意見を述べる『発言力』がある。この2つのアウトプットが掛け合わされ、大きな影響力をつくるんです。そこへきてテニスが強い。それも最強レベル。もはや敵ナシですよ」。

ファッションとは自己主張。これまでもテニス界にはマリア・シャラポワさん(33=ロシア)のようなファッショニスタはいたが、踏み込んだ発言はしてこなかった。人種問題に一石を投じるなど、コート内外の言動が大坂の存在価値を高めているのは間違いない。

また、佐藤氏は「ナイキ×大坂」の絶妙な組み合わせに着目。紳士と淑女のスポーツと言われるテニス界には問題児を極度に嫌う文化もあるが、過去にはジョン・マッケンロー(米国)、現在ではニック・キリオス(25=オーストラリア)のような“悪童”も存在する。そんな彼らの共通点はナイキなのだ。

「ラケットやイスを投げ、テニス界を追放されてもおかしくない選手でもナイキは契約を切らない。むしろ反逆児を好むんです。大坂選手はナイキと契約を結んだ19年4月あたりから発言がクローズアップされるようになりました。ナイキの歴史を考えると、無関係のような気がしません」

ナイキとの“化学反応”こそが新女王のバックグラウンドにあるのかもしれない。

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