クラブハウスでも注目、音声配信業界の今とこれからは? Voicy創業者に聞いた

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「Voicy」最高経営責任者(CEO)緒方憲太郎さん=東京都渋谷区(撮影・永見将人)

 忙しくて当たり前のベンチャー経営者の中で今、最も寝ていなさそうな一人が、音声配信サービス「Voicy」(ボイシー)創業者の緒方憲太郎さん(40)=兵庫県芦屋市出身=だ。自社で音声番組を配信するだけでなく、米国発で話題の会員制交流サイト(SNS)「クラブハウス」で夜な夜なトークを繰り広げ、注目されている。新型コロナウイルス禍での在宅時間の増加も後押ししてか、「ながら聴き」が浸透して勢いを増す音声コンテンツ業界。業界の今、これからをどう見るか。異色の経歴からしゃべり通しの日常まで、配信を通して聞こえてくるのと同じ美声で、大いに語ってもらった。(西井由比子)

 -巨大IT企業からスタートアップ(新興企業)まで参入が相次ぎ、音声コンテンツ業界は花盛りです。この状況をどう見ていますか。

 「盛り上がってきましたね。ボイシーは創業5年、利用者数は月間100万人(昨年末時点)です。今年に入ってからは月間60%の伸びで、急成長中です。(鳴り物入りで今年日本に上陸した音声SNSの)クラブハウス効果が大きいでしょうね。今、業界全体が脚光を浴びていると感じています。このブームに全力で乗っかろうと、僕自身楽しみつつ、クラブハウスを使ってトークを公開しています。同業者としては、ちょっと悔しい気持ちもありますけどね」

 「今まではスマートフォンなどの画面を見ないと情報を得られなかったのが、音声コンテンツが増えて、耳で聞くだけでよくなってきた。つまり、画面を見るために生活の動作を止める必要がなくなってきているんです。感動してるツイートが一つあって。『ツイッター通勤からボイシー通勤に変えて、車窓からの景色を見るようになった。初めて富士山を見た』っていうものです。音声メディアは今後、スマホを駆逐するぐらい大きくなりますよ。数年後には、スマホがなくてもさまざまな情報にアクセスできる時代がやってきます」

 -そもそも、どのような経緯で起業したのでしょうか。

 「元々は公認会計士として会社勤めをしていたんです。起業しようなんて、考えていませんでした。大阪を拠点に、地方に出張してはいろんな会社のおっちゃんとご飯を食べて仲良くなって…。楽しかったんですけど、29歳のときに、30歳を前に海外に出てみたくなって。気ままな一人旅で、地球をぐるっと回りました。米ニューヨークの会計事務所での勤務も経験しました。理由は、かっこいいから! 英語は全然できなかったので苦労しましたし、退職勧告みたいなのも受けましたが、当時はとにかくいろいろ経験してみたかった。ボストンにいるときに東日本大震災が発生して、医師を被災地に派遣するNPO法人の設立に携わり、20人以上被災地に送り込みました。このとき、事業を興すことを初めて体験したんです。これが後に起業するきっかけになったかもしれません」

 「海外に3年いて、帰国した後は東京の監査法人の子会社に勤め、起業家の支援に携わりました。300…いや、もっとですね。それまでは上場会社を相手にしてきていたのが、打って変わってオフィスがないような人たちで。でも、すごくキラキラしていて、すごい勢いで成長していくんですよ。世の中にないものをつくる人がいる、というのは新鮮でしたね。会計士はルールが決まっているところで正しいかどうかをチェックする仕事だけど、自分なりのオリジナリティーがあるところでやっていく、そういう世界がこんなに面白いんだということを、このとき知りました」

 -なぜ音声だったのでしょう。

 「大きくゲームチェンジをするときなら、自分も起業してみてもいいかなと思うようになったんですね。(米グーグルなどの)GAFAと戦えるプラットフォーム(基盤)をつくるとか。ボイシーの事業はビビッと思いついたわけじゃなく、じわじわ固まった感じですね。当時、『聞く』『しゃべる』だけがIT化されていなくて、大衆化されていなかった。『書く』にはブログがあったし、『見せる』もインスタグラムがあった。僕の実体験上、世の中で何が一番楽しいって、誰か好きな人を引っ張ってきて、一緒にしゃべることなんですよね。一番価値があることがまだインターネットに乗っていない。じゃあ、それができるプラットフォームを作ればいけるんじゃないかと」

 -関西出身ということも、「しゃべる」プラットフォームをつくることに影響したとか。

 「中学、高校は神戸、大学は大阪で、芦屋の実家から通いました。生粋の関西人です。関西って、面白いことするのがかっこいい、ボケてナンボ、オチがいる、という世界じゃないですか。だから、話がうまい人ってすごいなと思っていました。僕自身、しゃべるのがめちゃめちゃ好きって感じで、これまで生きてきた気がします」

 「面白い人が活躍するのって、いいと思うんですよね。笑顔が増えるじゃないですか。コロナ禍のリモート生活で人と人との直接の接点が減って、余計にそう感じています。あと、父が毎日放送(MBS)のアナウンサーだったことも影響したかもしれません。しゃべることを大事にするという意識は、子どものころからあったと思います」

 -音声メディアを手掛ける人の目に、活字メディアはどう映りますか。

 「活字も音声も、情報を伝達するためのツールという意味では同じです。ただ、車がミッションからオートマチックに変わったように、情報に直感的にアクセスするという進歩が続いてきている中で、活字には読み書きの知識、技術がなきゃいけない。音声とは異なる点です。それで、活字は趣味人、知識人階級の商品になってきているのかなとは思いますね。ただ、ぱっと見て分かるというのはめちゃめちゃ強い。『ぱっと見る』『しっかり読む』の二極で進んでいって、そこそこ読む、というニーズは減ってきているんじゃないかな。人がどんどんグータラになるのが時代の流れです」

 「ボイシーでは、新聞社と組む事業も始めています。新聞の購読解約の理由として『老眼で見えないから』っていうのが結構あると思うんですよ。でもこれ、耳から情報を入れることで解決できるんです。新聞の文字は読めなくなっても、聞くことはできたりする。高齢者が増えていく時代です。新聞記事を読み上げる音声番組を聴く人も、すごく増えてるんですよ」

 -今をときめくベンチャー社長の一日について教えてください。

 「朝は8時くらいに起きてメールを返して、9時くらいにミーティングを始めて。ぱつんぱつんに詰め込んで、あっという間に夜10時。こんなときですから、仕事はほぼオンラインです。そこからクラブハウスとかボイシーとかの作業をしていたら、日付が変わって夜中の3時、4時くらい。眠いですよね。秒で寝ますからね、僕。一応、土日が休みですが、平日と変わらない生活をしています。あとは週に2回、ジムに行く。自宅は至近です。会社のトイレが混んでいたら、自宅に行った方が早いくらい。そんな生活です」

     ◇     ◇ 【おがた・けんたろう】1980年生まれ。滝川中・高(神戸市)、大阪大基礎工学部、経済学部卒。日米の監査法人、トーマツベンチャーサポートを経て2016年2月にVoicy創業。

     ◇     ◇ 【Voicy】本社は東京都渋谷区、従業員数40人。ビジネス、ライフスタイル、教養など多彩な分野で500以上の音声番組を配信している。パーソナリティーにお笑い芸人の西野亮廣さん、脳科学者の茂木健一郎さんなど。