未来のF1ドライバー候補が凌ぎを削るFIA-F2【開幕直前モータースポーツ入門ナビ】

 各地から届く桜や梅の開花の便りとともに、春が一歩一歩近づいてくることを実感する3月。モータースポーツの世界では通常、新しいシーズンの開幕が迫る時期を迎える。

 2021年もいまだ新型コロナウイルスの脅威が収まらぬなかではあるが、F1をはじめ、WECやインディカ―、国内のスーパーGT、スーパーフォーミュラといった各シリーズの開幕戦が3~4月にかけて順次開催されていく。

 ここでは、そんな各カテゴリーの楽しみ方や観戦のヒントとなるポイントを初心者にも分かりやすく紹介していく。シリーズ第2回目は3月26~28日に、バーレーン・インターナショナル・サーキットで開幕戦が行われるFIA-F2選手権だ。

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■ポイント

・F1の直下に位置するフォーミュラカーレース
・レース専用車両の『F2 2018』を採用
・エンジンはメカクローム社製で全車共通
・タイヤはピレリ社製で全車共通
・2021年よりレースフォーマットが一新され『1大会3レース制』となる
・すべてのラウンドがF1と併催
・F1関係者からの注目が高く、評価の場としての役割も担う
・参戦歴のある日本人ドライバーは角田裕毅(2020年に参戦。2021年のF1デビューが決定)、松下信治(2019~2020)、福住仁嶺(2018)、牧野任祐(2018)、佐藤万璃音(2019~)

2020年シーズンのFIA-F2でシーズン3位となりF1への切符を手に入れた角田裕毅

■FIA-F2の紹介

 FIA国際自動車連盟が定義するフォーミュラカーで争われるレースのなかで、世界最高峰であるF1の直下に位置するカテゴリーがFIAフォーミュラ2選手権(FIA-F2)だ。

 使用されているシャシー『F2 2018』はイタリア・ダラーラ社製の専用設計で2018年に導入された。全日本スーパーフォーミュラ選手権で使用されている『SF19』もダラーラ製シャシーだが、『F2 2018』とは異なる。

 エンジンはフランス・メカクローム社製の3.4リットルV6シングルターボエンジンを採用。F1でも使用されているドラッグを減らしてトップスピードを向上させるデバイス『DRS(ドラッグ・リダクション・システム)』や、コクピット保護システム『Halo(ヘイロー)』も搭載している。タイヤもF1と同様のイタリア・ピレリ社が供給しているが、F2のホイールサイズは2020年より18インチとなっている(F1は13インチを採用)。

 F2 2018はコーナリングスピードでは日本のトップフォーミュラカテゴリーであるスーパーフォーミュラに劣る部分もあるが、高いエンジンパワーを持ちながらグリップのピークと耐久性が抑えられたピレリタイヤでレースを戦わないといけないため、マシンの扱いには、スーパーフォーミュラとは異なったドライビング技術を要する。

 F2のタイヤとマシンとエンジン、そのパッケージをいち早く習得し、かつヨーロッパ特有の積極的なバトルを展開するなかで、速さと最後まで生き残る強さを兼ね備えたドライバーがF1への挑戦権を手にできる。

ミハエル・シューマッハーの子息で、2020年のFIA-F2を戦ったミック・シューマッハーも2021年にF1デビューを果たす。

 レースフォーマットは、2021年シーズンより大幅に変更される。これまでは1大会2レース制だったが、今シーズンから土曜日にスプリントレース(120km or 45分)を2レース開催し、日曜日にフィーチャーレース(170km or 70分/タイヤ交換義務あり)を行うという1大会3レース制となる。すべてのラウンドがF1と併催されており、F1関係者からの注目度も高い。

 そして、F2の最大の魅力は、F1へ参戦するためにはFIAが定める『スーパーライセンス』に必要なポイントの付与率がもっとも高いカテゴリーであることだ。

 スーパーライセンスの発給には細かな条件が定められており、F1にシリーズ参戦するには40ポイント以上のスーパーライセンスポイントを獲得しなければならない。他の多くのカテゴリーが年間チャンピオンのみ40ポイントが与えられる状況のなか、F2では年間シリーズランキングの上位3名に40ポイントが付与されることになる。

 F1関係者へアピールしやすい同時開催と、スーパーライセンスポイントを獲得しやすい環境があることが、F2が若手ドライバーがF1へステップアップするための“登竜門”と言われている由縁でもある。

 実際、2021年にアルファタウリ・ホンダからF1デビューを果たす角田裕毅も2020年にF2を戦い、シーズンランキング3位の成績を残すことができ、見事F1のシートを獲得するに至った。

 F2のレースの特徴としては、勝敗にチームの総合力、ドライバーの腕やメンタルが影響するのはもちろんのこと、フォーミュラレースらしからぬアグレッシブなバトルが象徴的だ。激しいブロックやギリギリのオーバーテイクなど、未来のF1ドライバー候補たちの意地がぶつかり合い、さらなる高みへ到達したいという執念の戦いがFIA-F2最大の魅力と言える。

 2021年シーズンは現時点で暫定カレンダーが発表されており、8カ国を舞台に開催される予定。残念ながら鈴鹿サーキットで開催予定のF1日本グランプリとの併催はないものの、FIA-F2を勝ち抜いた者がF1ドライバーとなって、鈴鹿へ来てくれることだろう。

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