対米交渉続行が中国の本音|田久保忠衛 冒頭から激しい応酬があった米中外交トップ会談。会談のやり取りから感情の部分を除去すると中国側の意外な本音が見えてくる。

米アラスカ州アンカレジで行われた米中外交トップ会談は、米側の冷静な姿勢に対して中国側が感情を高ぶらせ、思わず本音を吐いたところに意味があった。米国の民主主義は世界の中の一部諸国に共有されているにすぎないのに対し、中国の「民主主義」はより多くの国々の支持を得ていると言わんばかりの主張を耳にすると、両国間の和解は容易なことでは実現しないと思える。が、中国側の言葉の端々にのぞくのは交渉続行の願望だ。

国内向けの楊氏発言

会談のやり取りから感情の部分を除去する必要がある。日米豪印(クアッド)のオンライン首脳会議、ブリンケン国務、オースティン国防両長官の訪日と訪韓、香港絡みの新たな対中制裁発表という一連の米外交は、中国より一歩も二歩も前に出ている。

中国代表だけが何故、米国領のアラスカに出向かなければならないのか。しかも会談の冒頭あいさつでブリンケン長官は、いきなりウイグル、香港、台湾、対米サイバー攻撃、同盟国への威圧的な経済政策といった諸問題を持ち出した。面子を重んじる中国の楊潔篪共産党政治局員と王毅国務委員兼外相の激高した様子は速記録を読んだだけでも伝わってくる。

楊発言の中で中国の本音と見られる第一点は、ルールに基づく国際秩序を強化すると主張したブリンケン長官に対抗するかのように、「国際法に支えられた国連中心主義」を中国ならびに国際社会は支持しており、少数の国々が唱えるルールに基づく国際秩序は受け入れられないとの見解だ。中国には中国の民主主義があると主張する。

第二点は、米国の民主主義の批判である。楊氏によると、米国民の多くは米民主主義をあまり信用しておらず、米政府に関しても様々な見方がある。しかし、中国の指導者は人民の広い支持を得ているというのだ。

これはブリンケン長官への反論というよりも、中国向け「点数稼ぎ」の発言ではないかとの解釈が米メディアには多かったが、そのとおりだろう。国際法に支えられた国連を支持するなどと、本気で考えているのだろうか。

次の焦点は気候変動問題

それはともかく、米側の基本的姿勢はいまのところトランプ前政権の対中政策の延長で、さらに同盟関係の強化を対中圧力に利用していることは明らかだ。中国は米国に外交上の先手を打たれた形だが、米中交渉を続行させる気持ちは隠せない。

楊氏は、米中両国が過去に上げた業績からも「対立ではなく、コミュニケーションを強め、相違をうまく処理し、協力を拡大する必要がある」と明言した。王氏も冒頭発言の最後に、米国が望めば中国は相互尊重を基礎にして理解を深めたいと述べている。中国紙環球時報も、衰退しつつある米国は弱みを見せまいと、逆に高姿勢を示しているので、米中間でサイバー問題などを解決するルールをつくってはどうかと提案している。

両国がぶつかり合いを演じていないのは気候変動問題だ。バイデン政権は予想される中国の巧妙な外交をどう処理するか。交渉の第二段階がいずれ始まるだろう。(2021.03.22 国家基本問題研究所「今週の直言」)

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