130億年以上前の“強い電波を放つクエーサー”を新たに発見

電波の強いクエーサー「P172+18」を描いた想像図(Credit: ESO/M. Kornmesser)

マックス・プランク天文学研究所のEduardo Bañados氏らの研究グループは、「クエーサー」と呼ばれる天体のうち1割ほどしか見つかっていない電波の強いクエーサー(radio-loud quasars)を新たに発見したとする研究成果を発表しました。このクエーサーは今から130億年以上前の宇宙に存在しており、発表では既知の電波の強いクエーサーとしては最も古い時代のものだとされています。

■ブラックホール急成長の謎解きにつながると研究者は期待

クエーサーとは銀河全体よりも明るく輝くような活動銀河核(狭い領域から強い電磁波を放射する銀河の中心部分)のことで、その原動力は太陽の数十万倍から数十億倍以上という重さの超大質量ブラックホールだと考えられています。クエーサーは可視光線で特に明るく輝きますが、そのうち約10パーセントは強い電波を放つ電波ジェットを放出しているといいます。

今回研究グループが発見した「しし座」の方向にあるクエーサー「P172+18」は発見例が少ない電波の強いクエーサーのひとつで、今から約130億年前、ビッグバンから約7億8000万年後(赤方偏移6.82)の宇宙に存在していたとされています。ビッグバンからおよそ10億年以内の初期の宇宙(赤方偏移6以上)における電波の強いクエーサーはこれまでに3つだけが知られていたといい、P172+18はそのなかでも最も古い「J1429+5447」(赤方偏移6.18)よりもさらに約1億年古いとされています。

P172+18の超大質量ブラックホールの質量は太陽の約3億倍と推定されていて、周囲のガスを急速に取り込んで成長している段階とみられています。研究に参加したヨーロッパ南天天文台(ESO)のChiara Mazzucchelli氏は「観測史上最もハイペースで成長しているブラックホールのひとつです」と語ります。急成長するブラックホールを取り囲む高温の降着円盤(落下しつつ周回する物質によって形成される)は、天の川銀河全体の580倍ものエネルギーを放出しているといいます。

近年ではビッグバンから10億年と経たない頃の宇宙に超大質量ブラックホールが存在していたことが明らかになりつつあり、宇宙のスケールからすれば短期間でブラックホールが急成長を遂げた理由を解明するべく研究が進められています。

関連:銀河中心の巨大なブラックホールは暗黒物質から形成されたのかもしれない

発表によると、ジェットはブラックホール周辺のガスを乱して落下を促す可能性があり、P172+18のようなクエーサーにみられる強い電波ジェットは超大質量ブラックホールの急成長と関連があるのではないかと考えられているといいます。電波の強いクエーサーの観測を通してブラックホールの急成長についての洞察が得られることに、研究グループは期待を寄せています。

関連:観測史上最も古い「クエーサー」を発見、130億年以上前の宇宙に存在

Image Credit: ESO/M. Kornmesser
Source: ESO / MPIA
文/松村武宏

© 株式会社sorae