ワクチンなぜ避ける? 掘り下げるのはやぶ蛇か 海外研究が指摘する2つの障壁、接種率向上の鍵は

By 星良孝

英中部ミドルズブラの薬局で新型コロナワクチンを扱う人=1月(ゲッティ=共同)

 受ける人々みんなが納得してワクチン接種できるようにするにはどうすべきか。新型コロナワクチンをめぐっては議論百出の状況だ。そうした中には接種を避ける、つまりワクチン忌避論も出てくる。そこに触れることはやぶ蛇だという指摘を聞くこともある。かえってワクチンを避ける人を増やしてしまうと。確かに、そうかもしれない。

 が、結論を先に言うと、忌避論を直視して解決策を練る努力を重ねるべきだと考える。現状では毎年接種の必要性も指摘されており、長期戦を覚悟することもあり得る。さらに、安全性の懸念も払拭(ふっしょく)し切れていない。世界に目を向け、忌避論の今を把握した上で、課題から解決策までを2回に分け考察していく。(ステラ・メディックス代表取締役、編集者、獣医師=星良孝)

 ▽「ワクチン躊躇」とは

 2021年の研究を見ていくと、新型コロナウイルスワクチンを躊躇(ちゅうちょ)する動きがどのように推移しているのかに注目した国際的な分析が続々と集まってきている。

 世界保健機関(WHO)の予防接種に関する戦略諮問会議(SAGE)の研究グループによると、ワクチン躊躇とは「ワクチン接種が受けられるにもかかわらず、ワクチン接種の受け入れが遅れたり、拒否されたりすること」と定義づけられている。現在、新型コロナウイルス感染症の予防接種で問題になっているのは、まさに、承認されたワクチンを受けたくない人たちの広がりだ。ワクチン接種が社会的、経済的な活動を再開するために欠かせないと見られている中、接種を広げるための対処は世界的に大きな問題になっている。

世界各国から報告されているワクチン接種意向を示している人の割合の状況。出典:Sallam M. COVID-19 Vaccine Hesitancy Worldwide: A Concise Systematic Review of Vaccine Acceptance Rates. Vaccines (Basel). 2021 Feb 16;9(2):160. doi: 10.3390/vaccines9020160. PMID: 33669441

 ▽日本のワクチン接種忌避は米仏並み?

 新型コロナウイルスワクチンをどのぐらい受容するかは、国によって差があると分かっている。俯瞰(ふかん)してみるなら、世界33カ国の調査を整理したヨルダンの研究グループによる2月の発表が参考になる。

 発表によると、接種したいと望む人々の割合を示すワクチン接種意向が最も高かったのはエクアドルで97・0%。続いて、マレーシア(94・3%)、インドネシア(93・3%)、中国(91・3%)という結果が示されている。逆にワクチン接種意向が最も低いのはクウェートで23・6%。7割以上が受けることを避けようとしている状態だ。さらに、ヨルダン(28・4%)、イタリア(53・7%)、ロシア(54・9%)、ポーランド(56・3%)、米国(56・9%)、フランス(58・9%)と続く。

 この研究では、医療従事者(医師・看護師)を対象とした調査結果も分析している。研究で分析対象になった論文数は8件。ワクチンを受容する人の割合はコンゴ民主共和国の27・7%からイスラエルの78・1%まで幅があった。

 国による差を示す結果は、別の研究でも明らかにされている。例えば日本でも3月に報告され、2956人を対象としたインターネット調査から、ワクチン接種を受ける可能性が高い参加者の割合は62・1%とされている。海外の水準と比べてみると、接種意向が低い米国やフランスに近いと言えるかもしれない。

新型コロナウイルスワクチン接種を受ける医療関係者=3月9日午後、岐阜県

 ▽立ちはだかる二つの障壁

 米フロリダ大学の研究グループは、「構造的な障壁」と「心理的な障壁」の二つの障壁があると2月に指摘している。日本ではワクチンそのものの調達や物流が注目されているが、ここで分析している問題は、本人にとってのハードルだ。

 まず構造的な障壁とは、時間、交通手段、費用、場所の問題としている。日本では費用は無料で、「ワクチン接種休暇」が議論されているなど対策が講じられつつある。加えて、交通手段や場所の問題などはこれから運用のフェーズの課題として表面化する可能性があるだろう。

 一方、心理的な障壁は、感染症やワクチンに関する見方、恐怖心、医療機関や政府機関への信頼などを指している。特に重要なのは、国民の医療界や政府に対する信頼だと指摘する。心理的な障壁は、一般的な忌避論で指摘される内容に近い。

 ▽マスク混乱で見えた違和感

 心理的な障壁に関連して、デンマークの研究グループは根底にある要因の分析を1月に報告している。

 指摘しているのは、いわゆる陰謀論など非科学的なものとは異なる。平時であればワクチン接種に抵抗を示さない人にとっても引っかかるところであり、まっとうな理由とも考えられる。

 一つは、科学的なプロセスの欠如から来る懐疑論だ。研究グループは、ワクチン接種の以前にあった、マスクの懐疑論がたどった経緯の不可解さを例に、科学的なプロセスへの不信感を説明している。

 2020年当初は、世界の医療を牽引するWHOさえもマスクの効果に疑問を呈していた。その後、有効だとする見解に転じ、むしろ推奨するように変容した。こうした混乱ともとれる経緯は、新型コロナワクチンにも通じるものがあるという。

 ワクチンの承認プロセスは異例のスピードで進んだ。米国では、「オペレーション・ワープ・スピード」という、ワープするように高速で開発を進めるとうたって、ワクチン承認へのプロセスを加速。科学者から不評を買う一幕もあった。

 こうしたプロセスに、「本当に大丈夫なのか」という不信感がその後多くの人に残っている側面は否めない。デンマークの研究グループに言われるまでもなく、安全性や有効性についての信頼性の獲得は慎重に進める必要があると言っていい。

 ▽情報量の差、接種忌避に影響

 もう一つは、専門家と非専門家との間の情報量の違いから来る断絶だ。「言われた通りにワクチンを接種せよ」と言っても、専門家と非専門家との間に情報量の差が存在している。差を埋める努力がなければ、納得してもらえないと指摘する。

 例えば、最近、盛んに報道されるワクチン接種に伴う副反応。情報量の差から来るコミュニケーションの齟齬(そご)がうかがわれる部分もある。

 海外のデータによると、ワクチン接種においては、アナフィラキシーの頻度が低いとされる一方で、一定の割合で起こるものであり、しかも呼吸困難のために気管内挿管を受けている人もまれながらいる。

 科学的な論文も発表済みで、米国疾病対策センター(CDC)が米国医師会雑誌(JAMA)で2月に発表した論文によると、994万回の接種で66件のアナフィラキシーが報告され、61人は治療薬となるエピネフリン投与を受け、32人は入院し、7人は呼吸困難を解消するための気管内挿管を要したと報告されている。

新型コロナウイルスワクチン接種後に起きた副反応について開かれた専門部会=3月12日午後、厚労省

 ▽鍵は多面的な情報提供

 医療従事者は、気管内挿管が起きても、対処すれば命は守られると考える。一方、専門的な知識がない人は、気管内挿管まで起きるならば、ワクチン接種は受けないと考えるという温度差は容易に想像が付く。

 ワクチン接種対象が膨大である特殊な現状を踏まえれば、考え得るあらゆる角度から情報提供を行って納得をしてもらうのが、結果としてワクチン接種を広げていく結果につなげられるだろう。次回は心理的な障壁についてさらに掘り下げて考察する。

 関連記事 ワクチン避ける心理的障壁「5つのC」 海外の研究が語る接種率向上へのヒントhttps://www.47news.jp/47reporters/6018899.html

  ▽参考文献

Vaccine. 2015 Aug 14;33(34):4161-4.

 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25896383/

Vaccines (Basel).2021 Feb 16;9(2):160.

 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33669441/

Vaccines. 2021; 9(3):210.

https://doi.org/10.3390/vaccines9030210

Glob Health J. 2021 Feb 9.

 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33585053/

 Hist Philos Life Sci. 2021 Jan 27;43(1):12.

 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33502602/

 JAMA. 2021 Feb 12.

 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33576785/

新型コロナワクチンの重しになる「接種を避けたい人たち」 日本では予防接種の基本方針を今夏策定へ https://www.47news.jp/5019824.html

© 一般社団法人共同通信社