<社説>遺骨土砂意見書可決 市町村議会の異議は重い

 沖縄戦犠牲者の遺骨が残る土砂による埋め立てを拒む県民の声が広がっている。辺野古新基地建設の撤回を含め、海浜埋め立て工事の在り方を問い直す契機とすべきだ。 戦没者の遺骨を含む可能性がある土砂を埋め立てに使わないことや国の責任で遺骨収集を実施するよう求める意見書を、那覇市と南城市の両市議会が全会一致で可決した。

 那覇市の意見書は新基地建設には直接触れてはいない。しかし、いずれも遺骨を含んだ土砂を新基地建設に用いるという人道に反する計画への異議申し立てであり、政府は重く受け止めるべきだ。

 沖縄戦で多大な住民犠牲を強いられた糸満市では賛成多数による可決だった。与座(旧高嶺村)では住民の8割超が糸満市域で亡くなった。一家全滅は21世帯に上る。採掘現場がある糸満市で全会一致とならなかったのは残念だ。

 県も意見書を踏まえた判断が求められる。糸満市米須で土砂を採掘しようとしている業者の開発届け出について慎重に対処すべきだ。遺骨が残っている可能性が高い南部地区での土砂採取を禁ずる条例制定も検討する時期だ。

 3市を含め、これまで6議会が同様の意見書を可決した。さらに4議会で可決する見通しだ。県議会も意見書の審議に入った。沖縄戦犠牲者を悼み、未収集の遺骨が残る現状に心を痛める県民感情を踏まえた審議を求めたい。

 那覇・南城両市議会の意見書で注目すべき点がある。持久戦の継続を理由とした1945年5月末の日本軍の南部撤退によって、多大な犠牲が生じた経緯に触れたのだ。

 那覇の意見書は「南部撤退」の結果、「糸満市や八重瀬町など本島南部地域に多くの住民や日本兵が追い込まれて戦闘に巻き込まれ、その犠牲者は、組織的戦闘が終結したとされる6月23日までの1カ月間で県内全戦没者の半数を超えている」と指摘した。

 南城の意見書も「沖縄島南部の地は、沖縄戦で逃げ場を失った住民が追い詰められ、また南下作戦をとった日本軍兵士の多くが命を落とした場所である」と記した。

 県民保護を度外視した作戦で犠牲を増大させた軍や国家の責任を指摘しているのだ。遺骨が残る土砂の海洋投下は、ハンストを通じて採掘計画断念を訴えた沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松氏が指摘するように「戦没者が2度殺される」ことに等しい。

 岸信夫防衛相は22日の国会審議で、本島南部の土砂を新基地建設に使用する計画について「ご遺骨の問題は大変重要だ」と述べた。当然、沖縄戦犠牲と遺骨収集の双方における国の責任を踏まえた答弁でなければならず、政府は南部土砂使用による新基地建設を断念すべきだ。

 具志堅氏の訴えに呼応した意見書可決の意義は大きい。沖縄戦体験を踏まえた民意の広がりを期待したい。

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