<再ブレーク盤>斉藤由貴『水響曲』人生経験を積んで原曲超えるセルフカバー

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 デビュー35周年を記念したセルフカバー・アルバム。本作の評判から、CDは約30年ぶりの週間TOP20入りを果たした。

 全10曲、1985年から1987年までの名曲を、当時アレンジを手がけた武部聡志が再構築をしているが、どれも本質を見抜いたような演奏が秀逸だ。例えば、『白い炎』はチェロとピアノだけでサスペンス色が増幅されるし、『AXIA~かなしいことり~』はハープを入れることで、主人公の女性の浮気心はただのフィクションと捉えられる。トロンボーンとマリンバでの『青空のかけら』も、ビーチ・ボーイズ風の多重コーラスの『砂の城』も、ヴィンテージ感が出ていて上手い。

 そして、何よりどの曲にも様々な人生経験を積んだであろう斉藤の表現力に驚かされる。「でももっと」「妬いたわ」など言葉の一つ一つに表情を重ねる『卒業』は一人舞台を観ているようだし、『初戀』は優しく語るような歌唱と爽やかなフルートの組み合わせが絶妙で、純粋な恋心が伝わってくる。また、原曲以上にシリアスな『情熱』と、原曲以上に朗らかな『悲しみよ こんにちは』の振り幅もお見事。それでいて、『MAY』は、原曲以上に少女の素直さや切なる願いを歌い込む。その七変化ぶりに大竹しのぶと同系統の凄みを感じた。

 ラストは、武部のピアノだけで、自作詞の『「さよなら」』を披露。リズムを気にせず、ただ言葉をたどるように歌う姿に、聴き手の感情が揺さぶられる。本作を聴くと、長年生きていれば、彼女のように何かしらの“魔力”を体得するのではと、勇気が湧いてくるはず。

(ビクター・通常盤3000円+税)=臼井孝