島順太(漫画家)- 奇才(?!) 人気漫画家・島順太の作家魂を訊く!

別に腕生えても何の問題もない

──「正気か渋谷展」では、原画の展示やグッズの商品化など島先生初の試みばかりだったかと思いますが、開催に至った理由はなんですか?

島:

楽しそうやったからです!(笑) まずそれが大前提で、あと単純に心優しい読者の人に恩返しができる機会かなと思いました!!

──作者がTwitter等のSNSをしていても、実際漫画と読者のコミュニケーションって漫画しかないですもんね、それ以上でも以下でもない、というか、漫画が全てですよね。

島:

アイドルとかは本人にファンがきゃーってなるのが普通やけど、漫画って登場人物たちがアイドルポジションにいるわけで、別に描いてる人が頻繁にオッス! おら作者! って出てくる事はないし、Twitterは現実逃避用でコミュニケーション取るツールとしては使ってないからね。

──漫画のキャラクターって一人一人性格も違って個性もばらばらじゃないですか。それを全部“島順太ひとり”が作り出してるっていうところに、読者は島先生すげぇってなってると思うんですよ。キャラクターたちにはモデルがいたり、それぞれの個性が思い付くきっかけとかはありますか?

島:

いろんな作品からインスピレーションを得て、魅力的だと思う人格と人格をつなぎ合わせて一人のキャラクターにする事がほとんどですね。マジで意味わからんなって思ってるのが、例えば桐山ってキャラクターは「蛇にピアス」の【アマ】と「風立ちぬ」の【堀越二郎】、「ぼくのメジャースプーン」の【ぼく】からヒントを得てそれを一つの人格にしちゃってる。

──それはかなり面白いですね!! 作中で、登場人物の脳内に「木こり」や「武士」のキャラクターが登場して論争する脳内会議のシーンがありますが、実際に島先生の頭の中でもそういうことが起きていますか?

島:

起きてないわ(笑)、そんなんやばいやつやん。

──そういうわけじゃないんか(笑)。

島:

実際四六時中脳内でそんなこと起こってる人はいいひんと思うねん。でもふと想像してみることはできて、いつも想像するのは武士関連のことなんやけど、「あぁもぅそろそろ本気で原稿取りかからなあかんわ…」って作業部屋帰ってくんねん。部屋入った瞬間に下座に武士がぶぁあって並んでて「殿ぉおおお! 悠長に現実逃避してる場合ではありませぬぞ!! 締め切りが間近に迫っておりまする!!!」って言われるみたいな光景思い浮かべて「あ、ガチこれやらな落城するやつや…」って自分のやる気を駆り立てるとかはある。けど実際四六時中頭の中がそんな感じってわけではないなぁ。

──漫画自体が妄想ををそのまま具現化したものみたいなことやったり?

島:

そうやと思う。現実に起こらんことを描いてまえ! て表現してるわけやし、やっぱりそれが創作のいいところかな。

──作中の「田中先生が岩につまづくシーン」もよくあるラブハプニング的な展開かと思いきや、岩から伸びた腕にヒロインが転ばされる…という奇想天外な展開です。あれも、妄想から思いついたシーンですか?

島:

いや、あれは…別に「やったるわぁ!」って感じでやったわけではなくて、ネームの時点では普通の岩で原稿を描いてるときにそのよくある恋愛漫画みたいなシチュエーションに腹立ってきて、なんかどうせありえへんシチュエーションなんやったらもっとあり得へんことになってもええやろ、て開き直ったな。岩につまづいて転ぶっていう展開に変わりはないから、別に腕生えても何の問題もないし。

──問題はないですね(爆笑)。

島:

岩につまづいて転ぶってすごいベタやしな。岩っていう無機物に意思を持たせることによって「その場の空気を読んだ第三者が使命感に駆られてやってしまった!」みたいな感じになるやん。現実はこうして生まれる(笑)。

──あぁーそういうこと!(納得) 実際につまづいて転んだ時も見えへんだけで、もしかして岩くんがやったんかもよ? みたいなことですか? たしかに! 運命とか奇跡とかはそうなってるのかもしれないですね。

島:

いや(笑) なってないと思うけど!!!!(笑)

──あれ?(笑) 違う??(笑)

島:

(笑) まぁでもリアルやん。何を言ってんのかわからんけど、そっちのほうがリアル(笑)。岩に魂があって人間と同じくらいの精神感もあり、「おいこれめちゃいい場面やんけ!ここは俺がちょっと一肌脱いだらなあかんなぁああ!」のほうがなんかリアルじゃない? 岩という第三者の心境みたいのも見えて…。

──絶対にあり得へんことを起こしてるけど、それがリアリティを増すっていう面白い現象ですね。

島:

説得力あるねん。普通に転ぶーとかより、もう手ぇ生えて、転がしとんねん!!!! みたいな。謎の説得力。描いたときはそんな深く考えてなかったけど、そんな感じかな。

がちがちの重ーい、鬱〜みたいなのが描きたい

──恋愛漫画でありながらコメディ色も強く、振り幅が広い作品だと思いますが、書き始めからテーマとかはありましたか?

島:

うーん、コメディ描きたくて描いてるってわけじゃないかな。根がクソ真面目やからどっちかっていうと真面目なやつが書きたい。好んで読んでる本とか観てる映画とかと自分の描いてる作品は正反対のジャンル。これなんでかなって考えたときに思ったのは、自分たぶんめちゃめちゃ天邪鬼で…ほんまはがちがちのシリアスの“重―い、鬱〜”みたいな話が描きたい。でも実際に書き始めたらそのシリアスな世界観をぶち壊したくなってくる。絶対ふざけたらあかんやろここって所でどうしても牛すじとか飛ばしたくなってしまう。なんでかそうなってしまうみたいな感じかな(笑)。

──なんでかそうなってしまう(爆笑)。

島:

よくギャグ漫画って言われることがあるけど、ギャグ漫画じゃないねんか。「真面目に描いた結果がこれであり全然ふざけてるつもりはないんやけど(ガチギレ)」みたいな(笑)。

専用のSASUKE

──恋にまっすぐな主人公を描こうと思ったきっかけはありますか?

島:

なんか、まず何をやっても人並み以上にできて顔も良い人間って、澄ました顔して余裕かましてるけど君一体何やったら必死になるの? どうやったら苦しむの? みたいな加虐心みたいなものが生まれました。

──ひどいですね(笑)。

島:

そういうキャラクターを徹底的に残念な状況に置いてどう動くのか試したい! そう考えた時に俗に言う【禁断の恋】が思い浮かんで、それやん!! ってなったかな。この人間が最も苦行を強いられることってそれやんって見つけた。

──叶わぬ恋…。

島:

そう。

──「好きになってはいけない人なんていない」みたいなんも言うけどなぁ。

島:

わかる。でも現実的に考えてそうは社会が許さぬ、やん。村井の恋を書き始めたきっかけは、村井という出来の良いキャラクターを作ってそこから「こいつを完膚なきまでに鍛えよう」っていうところから始まった。村井専用のSASUKEを作ってお前はどんだけやれるんや!!! って感じかな。最後まで諦めずに頑張ってほしい。応援しています。

大好き!って思う対象物がある人はみんなオタク

──乙女ゲームに夢中で、いわゆるオタク脳? 全開なヒロインですが、キャラクターを「推し」としていたり、何か熱狂的に好きだったり、身近にそういう人がいたりするんですか?

島:

田中のオタク言動は幼馴染の生き写しですね。自分もオタクっていうのもあるし気持ちわかるから。でもオタクも十人十色なので田中のオタクっぷりをすべてのオタクに当てはめるのは違う(笑)。

──それはもちろん! なんかでも、あるあるとか共感できる部分が心を掴んでるんやと思うけど。

島:

てかまあゲームとか漫画とかアニメ好きな人だけがオタクじゃないと思うねん。

──今はオタクって言葉の認識が変わってきてるとは思います。少し前までは「電車男」という作品の影響もあって、“オタク”というのが偏ったイメージが一般的にあったと思います。

島:

正直自分にとって生きる糧になるものがあるならみんなオタクじゃない? って思う(笑)。だって『好き』って気持ちは対象が違っても表現の仕方が違ってもみんなが持ってる共通点のはずやし。

──最近は「推しがいる生活」みたいな言葉もよく耳にするし、オタクって言葉に対するマイナスイメージは減ってきてる気がします。たぶん自ら胸張って「自分は○○オタク」と名乗る時代化してきてます。

島:

うん、そうよな、いいことだと思いますよ。

──自画像など様々な場面でゴリラを描かれることが多い気がしますが、もしかしてゴリラオタクですか? 何かゴリラに対する特別な思いがあるのでしょうか?

島:

ない。

──ゴリラが好きなんですか?

島:

いや好きとかじゃない。自分がゴリラって呼ばれてたから、あぁゴリラなんやなぁって。

──呼ばれてたってどうゆうこと? え? 誰にですか?(笑)

島:

え、いろんな人に。

──どこがゴリラやと思うんですか? 顔? 性格?

島:

性格やろ。(真顔)

──性格がゴリラなん?(笑)

島:

性格と言動がゴリラやろ(真顔)

──え?ゴリラの性格ってなに!????(笑)

島:

確かにゴリラの性格ってなんなん?(爆笑)全ゴリラ共通の性格あんの???

──そらゴリラにもそれぞれ性格あるやろ(笑)。

島:

でもゴリラ全員B型やで。(真顔)

──あ、そっか!!!!!!!! じゃあ結構みんな一緒かも? しれないですね。(納得)

島:

まあ…自分A型やけどな…。

──なんやそれ(笑)。

最後に

──「正気か渋谷展」は、展示を目的にいらっしゃる読者さん以外にも、カフェ利用の方やイベントのお客さんなどたくさんの目に触れる環境でした。このインタビューも様々な方がご覧になるかと思います。「村井の恋」を読んだことのない方でこのインタビューをここまで読んでくれた方へメッセージをお願いします。

島:

当作品を知らない方。ここまで読んでくださりありがとうございます。「村井の恋」読んでみようと思われた方に一言、気力体力の消費量がすごいので、激しめの筋トレだと思ってプロテイン片手に読んでもらえれば幸いです。

──ありがとうございます。では、最後にいつも村井の恋を楽しみにしている読者さん、応援してくれている方、「正気か渋谷展」に足を運んでくださった方々へメッセージを、お願いします。

島:

ぇぇぇぇええん、ありがとっっぉお(号泣)。

──はい(涙)。

島:

なんか、ほんま、よくここまでついてきてくれるなって思うんすよ(真顔)。漠然と山を駆けずり回ってる祟り神みたいなやつに、好きでいてくれる人はほんまずっと好きでいてくれてるみたいで、そういう人たちを大切にしたいし長生きしてもらいたいですね。てかその人たちメンタル強すぎん?

──Twitterを見ていると「いい意味で期待裏切ってくる!!!!ほんまに好き!」みたいな声があったので、その破天荒さこそが魅力であり読者が島順太に惹かれる部分なのかもしれないですね。

島:

はい、でもまぁ、期待はすんな!!!!!!!!!! (笑)

島順太

2018年6月18日「村井の恋」連載スタート

2021年3月15日第5巻発売

5巻発売に伴い、

LOFT9 Shibuyaにて「正気か渋谷展」を開催

【ヒッピーが囲んでいる焚き火のような作品】

をコンセプトに執筆をしており

くだらなすぎて悩みをぶっ飛ばすという

スーパーパワーがある

将来は知る人ぞ知る銭湯を経営し

出家して寺に入るのが夢

© 有限会社ルーフトップ