「彼女は夢で踊る」監督&出演女優がエピソード披露 小倉昭和館のトークイベント

2017年1月にスタートし、定期的に開催されている「小倉昭和館」(北九州市小倉北区魚町)の人気企画「シネマカフェ」。俳優や監督らをゲストに招き、その時に上映されている2本立ての作品について語ってもらうトークイベントです。

3月20日には、「ステージを舞う女性たちの生きざま 2本立て」のテーマで4月2日(金)まで上映中の映画「彼女は夢で踊る」の監督・時川英之さんと出演の矢沢ようこさんをゲストに迎え、「第32回ほろ酔いシネマカフェ」が行われました。

小倉駅そばにある九州最後のストリップ劇場「A級小倉劇場」が閉館予定だという新聞記事を読んだ小倉昭和館の樋口智巳館主が、A級小倉劇場を訪れ、「A級小倉劇場に矢沢ようこさんを呼んでもらえないか」とお願いしたことを機に、実現した企画です。樋口館主が進行役を務め、時川監督と矢沢さんがさまざまなエピソードを語ったイベントの様子を紹介します。

出演者としてでなく、ストリップのアドバイザーとしても活躍した矢沢さん

「彼女は夢で踊る」は、広島県に実在し、何度閉館に追い込まれても蘇る伝説のストリップ劇場「広島㐧一劇場」を舞台にしたラブストーリー。まもなく閉館を迎える広島の老舗ストリップ劇場の名物社長を俳優・加藤雅也が怪演。ヒロインのストリッパー役はブルーリボン賞に輝いた岡村いずみ。ロック座を代表する現役ストリッパー矢沢ようこが、妖艶な舞でストリップの奥深い世界を映画の中に映し出す幻想的な作品です。

―この作品をつくることになった経緯は?(樋口館主)

時川監督 広島のカリスマ的なラジオパーソナリティー横山雄二さんが主演を務める僕の初監督作品「ラジオの恋」(2014年)のチラシを、加藤さんが東京で見て知ってくださって。加藤さんが広島に来られた時に、加藤さんと横山さんと僕で食事に行くことになり、ごはんを食べながら「一緒に映画ができたらいいですね」という話をしていたんです。その時に大のストリップファンの横山さんが「広島に㐧一劇場というストリップ劇場があって、そこは閉館する閉館するって言いながら閉館しない、ちょっと変わったとこで、広島の人たちは『あそこは閉館詐欺じゃないか』と言っている。そこがどうやら本当に閉館するらしい」と教えてくれ、広島㐧一劇場を題材に映画をつくろうと始まった作品です。

実は㐧一劇場は僕たちが映画を撮っている時にいったん閉館したのに、「やっぱり閉館するのをやめるわ」と㐧一劇場の館長が言い始めて僕たちが映画撮っている時に復活したんです。それから今までずっと「閉館する、でもやめない」っていうのを繰り返していて、映画が完成してもまだ劇場は続いており、今もコロナ対策をバッチリして続いています。現実が映画を超えていきましたね。

―出演者はどうやって決めたのか(樋口館主)

時川監督 企画の最初から入っていただいていたので、加藤さんは館長役で、と考えていました。また、横山さんと矢沢さんが昔からお友達だったという関係で、映画の前から僕も横山さんと矢沢さんと居酒屋さんで飲んだりすることがあったので、映画をやるってなった時に「ぜひ矢沢さんにも入っていただきましょう」と。あとの人はオーディションですね。矢沢さんには「実はこんな生活をしているんだ。こんなことがあるんだ」といろんな踊り子さんの話を教えてもらったり。㐧一劇場の館長からも話を聞いたりして、映画をつくったという経緯があります。

矢沢さん 私が演じるのが大御所感あふれる役柄だったので、いつもの私とはちょっと違う感じにしないといけないかなと思いつつも、始まるとスイッチが入るというか、役に入り込めたというか。映画というものに染まっていったというか…いい体験でした。

時川監督 かっこいいこと言ってますけど、一番初めのシーンに「大御所の矢沢さんが劇場にやってきました」というシーンがあるんですけれど、その時に矢沢さんがすごく緊張していてロボットみたいに歩いて、僕らはアチャーと思った(笑) 初日だけすごく緊張してましたよね。

矢沢さん ストリップの初日の1回目のステージとかもそうなんですけど、毎回毎回ステージに立つ時に緊張して、よく続けてこられたなと今でも思います。

時川監督 でも初日以降は本当に雰囲気のある感じでやっていただいて。撮影前に練習というかワークショップみたいな感じで。加藤雅也さんと皆さんでいろいろ読み合わせとかされてたんですね。それが結構よかったですよね。

矢沢さん あの時から岡村いずみちゃん(ヒロインのサラ、メロディーの2役)はバチっと決めてきていて、ちょっと焦ってしまいましたもん。本当の女優さんですし。

時川監督 岡村さんはストリッパーではなく女優さんで、今回のために役作りをしていただいたんですけど、矢沢さんがずっと岡村さんに「ストリッパーはこういう踊りをするのよ」と踊りを教えたり、「ストリッパーはこんなことを考えているのよ」とアドバイスしたり。すごく矢沢さんがアドバイザーとして活躍されました。

©️ 2019 TimeRiver PICTURES INC. All Rights Reserved

矢沢さん いずみちゃんは実際に踊りをやってらっしゃったっていうのを私は最初聞いていなくて。でも体がすごくやわらかかったんです。ストリップで普通に足を上げるのを「L(エル)をきる」って言うんですけど、いずみちゃんは真っすぐスッと足があがってたから「あれ?」って。ちょっとビックリしちゃって。運動神経もよかったですし。監督から「この曲でやろうと思っている」と曲をいただいて、いずみちゃんと一緒にスタジオに入っていろいろやってみたんですけど、女優さんなのでイメージをつくりやすいんですかね、雰囲気というか。私の場合はその曲に合わせて、こんなのだったらこの曲に合うかなとか振付を考えていくんですけど、いずみちゃんの場合は女優さんの感覚でそういったことができるのかなと見てて思いました。

時川監督 矢沢さんがずっとそばにいたのは、彼女も心強かったと思います。岡村さんが“サラ”とか“メロディー”として踊っている時は、1つのステージに対してずっと僕らもカメラで十何回とか撮っているんですよ。本当にいいのをつくりたいので。そのカメラの横で矢沢さんがいずみちゃんにいろんな指示を出しているっていう感じでしたね。

劇場が閉館することをやめたため、偶然できたラストシーン

―矢沢さんがストリッパーになったきっかけは?(樋口館主)

矢沢さん きっかけは「やってみないか」と言われたこと。ストリップを知らなかったですし、見たこともなくて。でもチャレンジしてみたいなと思ったんです、自然に。それまでやっていたお仕事もあったんですけど、違うステージに1歩踏み出すような感じで。ちょっと変身願望などもありましたし、いろんな自分を探してみたくなりました。ステージに立って、前に行くというのも初めての体験でしたね。

時川監督 ある意味特殊なお仕事をされているからこそ持っているムードもありますし、普段ステージの上で形は違えど演技をされているんだと思うんですよね。それを普通の映画のお芝居に持ってこられたなっていう感じは撮影していて思いましたね。

矢沢さん 監督は「そのままでいいから」と言ってくれてましたよね。ステージでやっているままでいいからって言われたんですけど、カメラがこうあって、その前で加藤さんだと思ってしゃべってみてって言われたらどうしますか(笑)

時川監督 だってあまりいろいろ言うと、またロボットになるから(笑) でもカメラがたくさんあってスタッフもたくさんいる中で演技をするということは、経験ある役者さんも緊張されるみたいです。

―監督が広島で映画を撮る理由は?(樋口館主)

時川監督 若い頃は長く東京に住んでいたり、海外に住んでたりしたんですけれど、広島に普段住んでいるので今のところ題材が結構身近に見つかっているんですよね。横山さんの「ラジオの恋」だったり、(広島東洋)カープの話を描いた「鯉のはなシアター」だったり、福山市の映画館を舞台にした「シネマの天使」だったり。そういった身近なところに題材が現れて、それを料理していくみたいな感じ。自然な感じで今できているんですね。もちろんいろいろな場所でも撮ってみたいと思っているし、北九州のフィルムコミッションがすごいという話は業界では有名なので、ストーリーが見つかったらぜひ北九州でも撮ってみたいですね。

―撮影中のエピソードを教えてください(樋口館主)

時川監督 終わり方が変わったことですかね。㐧一劇場が最後壊されて何もなくなった更地になったところに加藤さんがポツンと立っていて、そこに矢沢さんが来て「あんた何いつまでもこんなとこにいるのよ。スタッフがみんな心配しているでしょ。私もストリッパーやめたよ。もういい加減にしなさいよ。お好み焼きでも食べに行こうよ」みたいに言うと、加藤さんが「そうだな」って言って、2人で歩き去るっていうのが本当のエンディングだったんですよ。そしたら、撮影している最中に劇場館長がやめないって言ったもんだから、「えーっ!これラストシーンどうするんだ」って。加藤さんと横山さんと撮影の合間に「ラストシーンどうしよう。新しく考えなきゃならない」って悩んで。

どうしてもこの日にラストシーンを撮らなきゃいけないっていう日があって、その日の朝になっても僕にはアイデアが思い浮かんでなくて…。その日は朝早くから川のシーンとか撮っていたりして、そこから帰ってくる時に車の中で「あ、そうだ」と思ったのが、矢沢さんとかが踊っているステージの上で加藤さん演じる館長が法被を着て踊ること。このシーンは、映画の脚本の中にはなくて、どこに入れたらいいか分からないけどおもしろいし、夢のシーンとかで使えるかもしれないから撮ろうかなと思ってたんです。そのシーンをラストに持ってきたら、おもしろいエンディングになるんじゃなかなと車の中で思いついて、現場に戻って加藤さんに「ラストシーンを加藤さんが踊るのにしたいんですよ」って言ったら、加藤さんがポカンとして。「そんなので大丈夫なの?」と。それから撮り始めたんですが、実は加藤さんは撮影時に1時間くらい踊ってるんです。「こんなの使わないだろ」とずっと文句言いながら踊ってたというエピソードがあります(笑)

矢沢さん そのシーンは私、呼ばれなかった(笑) 加藤さんの中でできあがってたみたいです。「あえて音楽には乗らないんだ」って言ってました。「合わせない、それがいい」って。雰囲気があって私は好きです。

時川監督 それは後付けで、踊っている時は多分何も考えてなかったと思います(笑) 僕は岩井俊二監督に一時お世話になっていたりして、すごく影響を受けたんですけど、岩井監督にも「あのラストシーンが素晴らしい」と言っていただいたり。僕はこのへんまで「あれは偶然できたエンディングなんです」と出かけたけど言わなかったですね。本当にいろんな奇跡が重なってできた映画です。

矢沢さん 㐧一劇場のラストステージというシーンで、松山千春さんの「恋」に乗って私が演じるヨーコがステージに現れるんですけれど、その時に客席を眺めて「はぁー」となったのを覚えていますね。どういう気持ちなのかよく分からないのですが、アドレナリンが出たというか。「これが最後の風景になるのね」って感じ。引退する時の光景はこんななのかって。私自身はまだまだ引退とは言いたくないですけど。

ストリップは一言で言い表せない世界 映画館に行くような感覚で劇場に来てほしい

―お二人にとってストリップとは? ストリップの魅力について教えてください(樋口館主)

時川監督 横山さんに連れて行かれて、ちょこっと行っていたぐらいなので、全然ストリップには詳しくなかったんです。この企画をやるとなった時も「ストリップ詳しくないけどできるかな」と不安でした。「やっぱりいやらしいのかな」とドキドキしながら㐧一劇場の扉を開けると、ミラーボールが回っていて、音楽も爆音の中で矢沢さんたちが踊られていて…。それはちょっと大げさですけれども『小宇宙』というか異次元の世界で、踊り子さんたちの世界観に普通に感動してしまいました。ストリップにしかない感動はあると思いますし、ある意味特殊なこの感動を映画の形にできないだろうかと考えました。人間の生身の女性の方がその人の世界観で踊るってやっぱりすごい。昔からあるんだとは思うんですが、原始的な感動があるんだと思うんですね。

矢沢さん 私は何も知らないでストリップというものに入ってきたんですけど、未だに「ストリップって何ですかね?」と言われても分からないことがあったりして。裸になるって本当にすごいことだとは思っていたんですけども、裸以外にきっと見てくださっているものが皆さんの中にあるから、ステージを見て泣いているお客様がいたり、女性のお客様が増えていたり、何か感じてくれるのかなと思うんですよ。いやらしい気持ちももちろん持っていてほしいですし、「すごくきれいだな」と思ってもらいたいと思って、ステージに立っています。「ストリップって何だろう」って本当に一言では言い表せない世界。幻想的で夢の中みたいな感じでいてほしいなと私は思っています。映画館に行くような感じで、劇場にお越しいただきたいですね。

小倉昭和館での「彼女は夢で踊る」上映は4月2日(金)まで

「彼女は夢で踊る」は「ハスラーズ」との2本立てで、4月2日(金)まで小倉昭和館で上映中です。

上映時間や鑑賞料金など詳細は、小倉昭和館ホームページ()で確認できます。

(北九州ノコト編集部)

© 北九州ノコト