街角にひっそりたたずむ小さな図書館 米国発「リトル・フリー・ライブラリー」って?【世界から】

通りを歩いていて見つけた「リトル・フリー・ライブラリー」 (C)Kasumi Abe

 春の陽気の中、街をゆっくり歩いていると、これまで見えなかったものが突然見えてくることがある。小さくて自由な(&無料の)図書館という意味の「リトル・フリー・ライブラリー」もその一つ。住宅街の歩道脇や学校などに、ひっそりと置かれているその小さくてかわいい木箱は、良質の文学であふれている。誰でも自由に本を借りることができ、コロナ疲れの人々の心を潤してくれる存在だ。(ニューヨーク在住ジャーナリスト、共同通信特約=安部かすみ)

 ▽郵便ポストのようにも見えるが…

 3月11日、WHOが新型コロナウイルスのパンデミックを世界に宣言してちょうど1年を迎えた。ニューヨークでは誰もが人生初のロックダウン(都市封鎖)を経験し、それまでの常識、例えば屋外を好きな時に好きなだけ出歩くこと―が当たり前のようで実は当たり前ではなかったなどを、人々に知らしめた。そんな閉塞感のある1年を経て、この街にも再び春が訪れている。

 「あの有名なビルの裏側ってこんな風になっていたんだ」「このような場所にこんなサービスがあったなんて」

 陽気に誘われて気ままに散歩していると、新たな発見がある。「リトル・フリー・ライブラリー」もニューヨークの住宅街を歩いていて遭遇した。歩道脇に置かれた木箱はまるで郵便ポストのようにも見えるが、その中には本が詰まっている。

 ▽設置登録数は世界で10万件超

 本箱にはフックがあるだけで鍵はかかっておらず、誰でも本の出し入れが自由だ。品ぞろえはロケーションによってまちまちだが、中にはほぼ新品でベストセラーといったような「お宝商品」が入っていることもある。

 ウィスコンシン州に本部を置く非営利団体が運営しており、全米各州そして世界100カ国にも展開中。設置登録数は10万件以上だという。主に、自宅のヤード(敷地内)、歩道脇、公園、学校、病院などに設置され、知らない人同士でもこの本箱を通して本を貸しあったり寄贈したりすることができるシステムとなっている。

ベストセラーなど掘り出し物が入っていることも (C)Kasumi Abe

 本が不足しているコミュニティーへの地域貢献として、大人から子どもまで誰もが24時間、気軽に本へアクセスしたり交換し合ったりできるようにとの思いから、クリエイターで創業者の故トッド・ボルさんが2009年にスタートさせた。ニューヨークは公共図書館が比較的充実している街だが、そのような文化施設が多いエリアでも「リトル・フリー・ライブラリー」にたまに出くわすことがある。

 ▽コミュニティーを静かに見守る存在

 「リトル・フリー・ライブラリー」を利用する上で厳格なルールはない。借りたい本があれば1、2冊自由に持って行って良い。返却期限などはない。本を寄贈したい場合も、特に面倒な手続きは必要ない。コミュニティーでシェアしたい本をそっと本箱に入れれば良い。

 ちょっとした注意点としては、箱の中に本があふれ返りもはや十分なスペースがない場合、寄贈した本をそばに置いたりドアがきちんと閉まらなかったりする状態だと中の本が雨風などで傷むので「寄贈はご遠慮を」と運営元。また本箱自体を設置したい場合は、有料での登録が必要だ。

 詳細はこちら https://littlefreelibrary.org/registration-process/ 

 本箱の設置場所は、ウェブサイト上で確認できる。日本にも全国各地に設置されているようなので、見かけた際にはぜひ利用してみてはいかがだろうか。

本を開くと、寄贈した人の名前が書かれていることも (C)Kasumi Abe

 1年にわたるパンデミックの影響から、新聞を開けば経済の低迷、失業率アップ、治安の悪化、人種差別、銃撃事件など毎日悲惨なニュースが並ぶ昨今。そんな中、見知らぬ人の思いやりを感じられ、心が温かくなる本箱の存在はなんともありがたい。決して目立たないがこの小さな図書館は、今日もコミュニティーを静かに見守ってくれている。

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