<社説>河井被告が辞職表明 買収の全容を究明せよ

 2019年7月の参院選広島選挙区を巡り、公選法違反の罪に問われた元法相の衆院議員河井克行被告が、従来の無罪主張から一転して地元議員らへの買収を認め、議員辞職を表明した。 選挙という民主主義の根幹を揺るがす前代未聞の事件である。遅すぎたと言わざるを得ない。辞任で幕引きにしてはならない。

 陣営には自民党本部から1億5千万円という巨額の選挙資金が提供された。党の選挙資金が買収に使われたとすれば自民党の責任も問われる。買収資金の出どころを含め、買収の全容を徹底究明する必要がある。

 起訴状によると、元法相は地元議員ら100人に計約2900万円を配ったとしている。元法相側は昨年8月の初公判で「有望な政治家への寄付」などと説明した。

 しかし、2月までの公判で現金を受領した地元議員ら100人のうち94人が「違法な金」などと証言した。有罪が確定した妻案里前参院議員の1月の東京地裁判決も、元法相が主導したと認めている。

 克行被告は言い逃れできない立場に追い込まれていた。それならなぜもっと早く議員辞職しなかったのか。疑問が残る。

 克行被告が今月15日までに辞職していたら、衆院広島3区の補欠選挙は4月25日に実施された。そうなると妻案里氏の失職に伴う参院の再選挙と、収賄罪で起訴された吉川貴盛元農相の辞職に伴う衆院北海道2区の補選と同日になる。ところが15日以降なら秋までにある次期衆院選に吸収される。

 総務相の接待問題などで菅内閣の支持率が下がっている中で、逆風を和らげるためにタイミングを見計らったとすれば、有権者を愚弄する判断である。

 買収に使った現金は「自民党本部からの入金が原資となった」とする元会計担当者の供述調書が明らかになっている。自民党は1億5千万円の選挙資金を提供していて、うち1億2千万円は政党交付金である。

 政党交付金は、企業や労働組合、団体などから政治献金を受けることを制限する代わりに、税金で政党の活動を助成し、健全な政治を目指すことを目的としている。

 今回は「健全な政治」どころか買収に使われた可能性がある。それにもかかわらず事件について二階俊博幹事長は「本人(克行被告)は大いに反省しているだろう。党としても他山の石として対応しなければならない」と語った。まったく当事者意識のない発言である。自民党は提供した資金について説明責任を果たさなければならない。

 一昨年の参院選に立候補した妻案里氏は当時の安倍晋三首相、菅義偉官房長官の強い支援を受け、自民現職を抑え初当選した。克行被告をはじめ、安倍、菅両氏や自民党執行部を国会招致すべきだ。

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